シヴァ=大自在天Ⅳ【悪魔界王最高破壊神】シヴァ像に共通する…
5つのマントラ
サダシヴァ、5つの頭を持つシヴァ。カンボジア、10世紀。
「5」はシヴァと結び付けられて考えられる神聖な数字になる[289]。シヴァのマントラの中でも最も重要なもののひとつ、「ナマ・シヴァーヤ(英語版)」(namaḥ śivāya)も5音節である[290]。
シヴァの体はパーンチャブラフマンス(pañcabrahmans)と呼ばれる5つのマントラから成ると言われている[291]。これら5つはそれぞれ神という形をとり、名前と偶像上の特徴を持っている[292]。
これらはシヴァの5つの顔として表現され、また様々な文献にて5つの要素、5つの感覚、5つの知覚の器官、5つの活動の感覚器官と結び付けられている。教義の違いによって、あるいはもしかすると伝達の失敗から、これらの5つの顔がどの特性と結び付けられているのかに関してはバリエーションが存在する[295]。全体としての意味合いはクラムリッシュによって以下のように要約されている。
これらの超越的なカテゴリを通して、究極の現実(ブラフマン)であるシヴァは全ての存在するものの作用因、質料因となる[296]。
パーンチャブラフマ・ウパニシャッド(英語版)には以下のように語られている。
全ての現象世界は5つの性質からなると知りなさい。シヴァの永遠の真理は5つのブラフマンから成る性質なのだから。
—パーンチャブラフマ・ウパニシャッド 31[297]
アヴァターラ
プラーナ文献には時折「アンシュ」(ansh)という言葉が現れる。これは「一部」という意味で、同時にシヴァのアヴァターラ(化身)を意味する言葉である。しかしこの「アンシュ」がシヴァのアヴァターラを意味するというアイデアはシヴァ派の中でも全体に受け入れられているわけではない[298]。リンガ・プラーナに語られるシヴァの姿形は合計で28種類に及び、そのうち何回かはアヴァターラとして語られる[299]。しかしこういう表現は全体から見ると稀で、シヴァ派の信仰の中でシヴァのアヴァターラが語られることは珍しい。これは「ヴィシュヌのアヴァターラ」というコンセプトをことさら強調するヴィシュヌ派とは対照的である。
いくつかのヴィシュヌ派の文献では、敬意をもってシヴァと神話の中の登場人物とをリンクさせている。例えば、ハヌマン・チャーリーサ(英語版)(賛歌)ではハヌマンはシヴァの11番目のアヴァターであるとされている。バーガヴァタ・プラーナ(英語版)、ヴィシュヌ・プラーナ(英語版)ではリシ、ドゥルヴァーサ(英語版)がシヴァの一部であると語られている。中世の著述家たちの中には不二一元論で知られる哲学者シャンカラをシヴァの生まれ変わりであるとする者もいる[309]。
祭り
詳細は「マハー・シヴァラートリー」を参照
マハー・シヴァラートリー。通常は灯りのともる寺院で、あるいは特別に作られたプラバ(prabha、写真)と呼ばれる塔で夜に開催される。
マハー・シヴァラートリーは毎年開催されるシヴァのお祭りである。太陰暦で毎月の13日の夜と14日に「シヴァラートリー」が行われるが[310]、1年に一度、太陽暦の2月か3月、春の訪れの前に「マハー・シヴァラートリー」(偉大なシヴァの夜の意)が開催される。
マハー・シヴァラートリーはヒンドゥー教の主要な祭礼のひとつであり、厳粛な性格のものである。宗教的には、この祭りには世界と人生に存在する「暗闇と無知の克服」を心に刻むという意味があり[312]、シヴァの神格と人々の信仰といった両極性について瞑想する日でもある[310]。シヴァに関係する詩が詠唱され、祈りがささげられ、シヴァが心にとどめられ、断食とヨーガが実践され、自制、誠実さ、非暴力、寛容、内省と懺悔、そしてシヴァへの到達についての瞑想が行われる。熱心な信者は夜を徹する。そうでない者はシヴァの寺院を訪れたり、ジョーティルリンガ(主要な12のシヴァ寺院)を巡礼する。寺院を訪れた者は牛乳、果物、花、葉っぱ、甘味をリンガに捧げる[311]。コミュニティによっては、シヴァが踊りの神であることにちなみ、ダンスイベントを開催する[314]。コンスタンス・ジョーンズ(Constance Jones)とジェームズ・リャン(James D. Ryan)によればマハー・シヴァラートリーの起源は古代ヒンドゥー教の祝祭まで、おそらく5世紀頃までさかのぼる[312]。
シヴァにまつわる地域のお祭りとしてはマドゥライのチッティライ祭が挙げられる。これは4月か5月に開催され、南インドでは最大級のお祭りとなり、ミナクシ(英語版)(パールヴァティの化身)とシヴァの結婚を祝う。ヴィシュヌが彼の女兄弟であるミナクシをシヴァに嫁がせたという背景があるため[注 20]、この祭りはヴィシュヌ派とシヴァ派がともに祝うものとなっている[315]。また、ディーワーリー(新年の祭り)の期間にタミルナードゥ州のシヴァ派コミュニティはカールティッカイ・デーパム(Karttikai Deepam)という祭りでシヴァとムルガン(スカンダの異名、シヴァの息子)に祈りを捧げる[311]。
シャクティ派の祝祭にも、最高神である女神とともにシヴァを信仰する祭り、例えば女神アンナプールナ(英語版)に捧げられるアンナクタ(Annakuta)祭や、その他ドゥルガーに関するお祭りがいくつか存在する[316]。ネパールやインド北部、中部、西部などヒマラヤに近い地域では雨季に女性が中心となってティージ(英語版)祭が開催される。パールヴァティを称える祭りであり、パールヴァティ・シヴァ寺院に集まりみんなで歌い、踊り、そして祈りがささげられる。
かつては、イスラム教の支配の広がった時代に戦士となった苦行者など、現代でもシヴァに関係するヴェーダやタントリズムの信仰から派生した禁欲主義者、苦行者など(サンニヤーシ、サドゥら)がクンブ・メーラという祝祭を祝う[321]。この祭りは4つの場所で12年に1度ずつ、それぞれ3年ずつ時期をずらして開催される。つまり3年に1度どこかでクンブ・メーラが開催される。プラヤーグ(イラーハーバード)で行われるものが最も大きなクンブ・メーラとなり、数100万人に及ぶ様々な宗派のヒンドゥー教徒がガンジス川とヤムナー川の合流地点に集まる。伝統的にシヴァを信仰する禁欲派の戦士(ナーガ)達が最初に川に入り、沐浴と祈祷を行うという栄誉に与っている[321]。
ヒンドゥー教以外での受容
ヒマラヤにある15世紀の仏教寺院の仏陀像。台座としてシヴァ・リンガと仏陀が彫られている。
シヴァは(仏教の)密教にも登場し、彼はウパーヤとして、シャクティはプラジュニャーとして描かれている[322]。(仏教の)密教の宇宙観ではシヴァは受動的に描かれ、逆にシャクティが能動的に描かれている[323]。
シク教の聖典、グル・グラント・サーヒブ(英語版)に収録されるジャプジ・サーヒブ(英語版)(祈り)には「グル(指導者)はシヴァであり、グルはヴィシュヌとブラフマーである。グルはパールヴァティとラクシュミーである」という一節がある[324]。同じ章には「シヴァが語る。シッダ(Siddha、達した者)らが耳を傾ける。」ともある。また別の聖典、ダサム・グラント(英語版)ではグル・ゴービンド・シングがルドラの2つのアヴァターラについて触れている[325]。
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シヴァは仏教の神として取り入れられ、あるいは融合している。左: 日本の大黒天はシヴァと大国主が融合した神格である[326]。右: 不動明王は恐ろしい姿で適応したシヴァである[327]。 |
シヴァ信仰はエフタル(遊牧国家)と[328]クシャーナ朝を通して中央アジアに広まった。ザラフシャン川沿いのパンジケントの壁画からはソグディアナやホータン王国でもシヴァ派の信仰が盛んだったことが示されている[329]。この壁画ではシヴァは後光をバックにヤジノパヴィタ(Yajnopavita、肩から下げる聖紐)を身に着け[329]、虎の毛皮を身にまとった姿で描かれるが、この壁画では彼の眷属らはソグディアナの民族衣装を身に着けている[329]。ダンダン・ウィリクで見つかった羽目板にはトリムルティの1柱として描かれるシヴァにシャクティが跪く姿が描かれている。またタクラマカン砂漠にも4つの足をもつシヴァが、2頭の牛が支える玉座に足を組んで座る様子が描かれた(壁画)が存在する[329]。加えてゾロアスター教の風の神ヴァーユ・ヴァータ(英語版)がシヴァの特徴を受け継いでいる点も注目に値する[330]。
インドネシアではシヴァはバタラ・グル(英語版)として崇拝される。バタラ・グルはムラジャディ・ナ・ボロン(インドネシア語版)の妻、マヌク・パティアラジャ(インドネシア語版)が産んだ卵から一番最初に孵化した子供であるとされ、このシヴァのアヴァターラは同様にマレーシアでも信仰される。インドネシアのヒンドゥー教ではシヴァはマハーデーワ(Mahadewa)としても信仰されている[331]。
日本の七福神の1柱である大黒天はシヴァから発展した神格であると考えられている。日本では屋敷神として祀られ、財と幸運の神として信仰を集めている[332]。「大黒天」という名前はマハーカーラの漢訳である[333]。