2017.03.23

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関連キーワード:トルコ , ライフスタイル , 不眠 , 催眠術 , 睡眠障害 , 麻酔

 

 睡眠には疲れきった身体を回復させ、また若さを保つ効果がある。しかしそれとは別の方法で健康な身体と若い精神を保ち、常人には得難い暮らしと満足感を謳歌している人物がいる。2015年の4月に米オンラインジャーナル「WereBlog」で紹介されたその暮らしぶりをご覧いただきたい。


■不眠は神様からの贈り物? 究極のポジティブ思考!!

 多くの人々を悩ませている睡眠障害の1つでもある不眠症は高齢者の女性に多いといわれているが、トルコ出身の男性メメット・イナンチさんも不眠症を抱える1人だ。メメットさんは寝入りが困難なわけではなく眠りが浅いわけでもない。89年の生涯のうち何と55年間、全く眠ったことがなく、ベテラン医師ですら治療不可能な極度の慢性不眠症なのである。

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キリッと凛々しいメメットさん。不眠症には見えないが…… 「WereBlog」の記事より

 1960年ごろから不眠症を発症し、眠ることができないとわかったメメットさんは退職後に睡眠を諦め、趣味に没頭することで夜を明かすようになった。

「この状況も今は神からの贈り物だと思っています。私は健康であり、世界中の時間を独り占めしているようにやりたいことをやりたいだけできるのです。以前は時間がなくてできなかった読書やクロスワードパズルを解いています。それに家具を作ったり編み物で靴下や帽子を作るための小さな作業場も家の地下に作りました」(メメット・イナンチさん)

 メメットさんの様子を知るトルコの医師たちはメメットさんの状態に困惑しつつ、彼を助けようと手を尽くしたがすべて失敗に終わっている。あらゆる薬物治療にとどまらず、催眠術まで用いたにもかかわらず、不眠の状況はまったく変わらなかった。

 

 

 そしてメメットさんが足を骨折し、手術をすることになった際には、事情を知る医師たちは絶好の機会と捉え、メメットさんが眠ることを願って麻酔を投与したが効果はなかった。驚くべきは手術の間中、意識がはっきりしていたメメットさんは医師や病院スタッフと会話をしていたことであった。

 さらにメメットさんが眠りに落ちれば問題解決の糸口になるかと彼を監視できる病室へ滞在させて観察していたが、その医師や看護師たちが眠りに落ちてゆく姿をメメットさんが見届けるという何とも奇妙な光景になってしまったのだ。

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編み物もお手のもの 「WereBlog」の記事より

■まだまだ増える!? 睡眠障害、不眠の患者数!!

 そして医師を含めた周囲を困惑させ、事態を複雑にさせるのはメメットさんが若い頃、特に24歳の頃は人よりも眠りが深かったということだ。もともと睡眠障害とは正反対の暮らしを送っていたにもかかわらず、不眠に悩むことになるとは誰が思っただろうか。 

 トルコの神経学の医師でもあるガジ・オズデミアー教授はメメットさんの睡眠について、本人も気づかないうちに日中5~10分程度、しかも目を開けたまま眠ることでメメットさんの心身が必要とする機能回復ができているのではないかとの見解を述べている。

 

 

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作業場にてペットボトルのキャップで作った壁掛けを見せるメメットさん 「WereBlog」の記事より

 またオズデミアー教授は、60歳を過ぎると人は長時間の睡眠を必要としなくなることもあり、中には1日3時間程度の睡眠で十分とする人もいるのだと話す。

 仕事やライフスタイルなどの環境が原因になるケースもある睡眠障害は、その症状も治療法も細かく分けられており、研究も積極的に取り組まれているが、それでも世界各国で睡眠障害を訴える声は増えているようだ。

 アメリカの「ナショナル・スリープ・ファンデーション」によると、アメリカ国内では何と4000万人もの人が何らかの睡眠障害に悩まされているという記録がある。また日本では厚生労働省の調査の結果、5人に1人が不眠を訴えているというのだ。

 人が必要とする睡眠時間についてはさまざまな説があるが、1日に5~10分の睡眠はさすがに聞いたことがない。2015年以降、メメットさんについての続報はないようだが今も神に与えられた時間を穏やかに過ごしていることを願ってやまない。
(文=清水ミロ)


参考:「WereBlog」、「 Sleep Review」、ほか