2016.12.12

関連キーワード:2重スリット実験 パラレルワールド 量子論

 

 進むべき道を決断して、実行に移したその瞬間、ほかの可能性はすべて捨て去られてしまう。しかし「あの時、別の選択をした自分」が生きている世界、それこそがパラレルワールドだ。文字通り天下分け目の決断を下してしまった以上、現実世界とパラレルワールドは今生の別れを遂げることになるはずだ。しかし、驚くことに最新の研究では、現実世界とパラレルワールドは完全に相容れないものではなく、わずかながらもお互いに影響を及ぼし合っているというのだ。


■「パラレルワールドは存在し、相互に影響し合っている」

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EWAO」の記事より

 進学や就職、あるいは結婚など、多くの人が人生のどこかのタイミングで“究極の選択”を行なった体験を持っていると思うが、「もしもあの時に別の選択をしていたら、今どうなっていたのか?」という思いが脳裏をよぎることはないだろうか。つまり、パラレルワールドにいる“違う自分”が今、どんな風に過ごしているのか(生きていれば)という想像だ。

 このアイディアは、クリエイティブな発想の源でもあり、ご存知のように数々のSFやファンタジーの題材になっている。いわゆる「歴史改変SF」や、今年の大ヒットアニメ映画「君の名は。」をはじめ、パラレルワールドが存在することを前提とした世界観のもとで制作された作品は枚挙に暇がない。

 パラレルワールドの概念は1957年、当時プリンストン大学の大学院生であったヒュー・エヴェレットが提唱した「多世界解釈(Many Worlds Interpretation)」が起源だといわれている。しかしながら、これはあくまでも“解釈”であり、パラレルワールドがあると考えたほうが、この世の森羅万象を説明しやすいということである。この現実にいる限りパラレルワールドの存在を証明することもできなければ、たとえパラレルワールドが存在するにせよ、そもそもこの世とは一切関係のない“完全なる別世界”としている。

 しかし2014年、豪・グリフィス大学と米・カリフォルニア大学の合同研究チームが学術誌「Physical Review X」で発表した研究は、「パラレルワールドは存在し、しかも相互に影響し合っている」ことを主張しているのだ。わずかではあるにせよ、この世とパラレルワールドのどこかに接点があり、相互に交流があるというのである。パラレルワールドが存在するばかりでなく、この現実とどこかで“繋がっている”とすれば驚くばかりだが……。

 

 

■現実とパラレルワールドは重なり合っている?

 合同研究チームのハワード・ワイズマン教授とマイケル・ホール博士は、新たなコンセプトである「相互干渉多世界(Many Interacting Worlds)」を打ち出している。では多世界解釈と、この相互干渉多世界はどこが違うのか?

 新たな概念である相互干渉多世界は量子論に基づいており、多世界解釈とは異なり、「パラレルワールドはこの世と同じ時空に存在している」と考える。つまり現実世界とパラレルワールドは、まるで肩を並べあうように、すぐ隣に存在しているということだ。正確に言えば隣ですらなく、実はまったく同じ時空に同時に存在しているのだ。複数の世界が同じ場所に同時に存在することなど、あり得るのだろうか?

 それを説明するのが、量子論で有名な「シュレーディンガーの猫」という思考実験で説明される「量子的重ね合わせ(Quantum superposition)」状態だ。猛毒である青酸ガスがいつ発生するかわからない箱の中に入れられた不幸な(!?)猫、それが「シュレーディンガーの猫」である。一定の時間が経過した後、箱の中の猫は生きているのか死んでいるのかわからないが、人間が実際に箱を開けて確かめてみれば、その生死が判明する。このプロセスを逆の観点から説明すれば、誰かが箱を開けてみるまでは、この猫は生きてもいるし死んでもいるという生死が共存した状態になっており、この状態こそが「量子的重ね合わせ」なのである。

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画像は「Wikipedia」より

 そして、この現実の世界とパラレルワールドが同じ時空にあり「量子的重ね合わせ」の状態で存在していることを研究チームは指摘しているのである。では、仮に同じ時空に複数の世界が存在していたとして、どうして相互に干渉し合っていると断言できるのか?

 

 

■“観察者”がカギを握る

 その説明のカギを握るのは、「シュレーディンガーの猫」が入った箱を開ける“観察者”の存在だ。

 量子論において“観察者”の存在感はきわめて大きい。有名な「2重スリット実験」では、2本のスリット(細長い穴)のある板を遮蔽物にして、壁に向かって電子を放つ実験が行なわれたのだが、どういうわけか波動のような動き見せ、壁に縞模様を作ることが確認された。電子とは、いわば野球のポールのような粒子であり、スリットをくぐり抜けた電子だけが壁に衝突すれば、2本のスリットの形を浮かび上がらせることが想定される。ところが、実験ではなぜか、波動の動きの特徴である縞模様を壁に現出させたのである。

 しかし、ここからが不思議な話で、同じ「2重スリット実験」を“観察者”をそばに置いて行なってみると、それまでの波動の動きを見せなくなり、スリットのシルエットを浮かびあがらせる2本の縦線が壁に描かれたのだ。つまり、観察されることで電子はその“振る舞い”を変えたのである。

「2重スリット実験」解説動画 「YouTube」より

 ということは、もしも不意に「別の自分」のことが気になった時には、ひょっとするとパラレルワールドの自分がこちらを“観察”しようとしているのかもしれず、また逆に、むしろ積極的に「別の自分」を想像することは、いわばパラレルワールドの自分を“観察”する行為なのかもしれない。そして、これらの“観察”行為によって、この世もパラレルワールドも量子論レベルで“振る舞い”を変え、相互に干渉しあっているのかもしれないのだ。

 そう考えると、別の選択をした自分のことを想像してみたり、音信不通になったり死別した方々のことを時折思い浮かべてみることで、現在の自分に量子論レベルの変化がもたらされるやも……。それが具体的に、どのようなものであるかはケースバイケースだとは思うが、量子論にまつわる話題は、ますます不可解かつ興味深い展開を迎えているようだ。
(文=仲田しんじ)


参考:「EWAO」、ほか