スピリチュアル:神秘的な体験が脳内の「知覚の扉」を開く(米研究)
2016年02月16日 ι コメント(35) ι 知る ι 超常現象・心霊 ι #
それはほんの一瞬の出来事だったという。「15年ほど前、母が亡くなりました」と語るのはジョーダン・グラフマン氏だ。
「朝5時のバスに乗るために通りを歩いていました。前を向いて歩いているはずなのに、気が付くと視覚が広がり通りを上から見下ろしていたのです。そこにはもう一週間前に亡くなっていたはずの母らしき人の姿が見えました。ふと振り返ると、その奇妙な体験は消えてしまいました」
この一瞬の出来事がグラフマン氏の好奇心を掻き立てた。彼は認知神経学者で、シカゴ・リハビリテーション研究所で実施されている脳障害研究のディレクターを務める人物だ。
「それは、私にとって、神秘体験でした」とグラフマン氏。「そうした自分にとって神秘的に思えたものを目にした科学者として、脳内で何が起きたのか理解したいと興味を惹かれました」
この度グラフマン氏のチームは、そうした理解を超える瞬間につながる脳のプロセスの一部を特定した。どうやら神秘体験は脳が抑制を解き放ち、”認知の扉”を開いたことに起因するようだ。
神との出会い
神秘体験の間、人は高位の力とつながったように感じ、しばしば隠された知恵あるいは天啓を得たと口にする。臨死体験や恍惚状態での幻視から瞑想によるトランスまで、こうした体験は世界中で報告されているが、そのメカニズムは今もって謎に包まれている。
従来の研究からは、神秘体験に関してプッシュ論とプル論という2つの大まかな説が提唱されてきた。
プッシュ論は単一の”神領域”の活性化が神秘体験の原因とするもので、これによればその領域が損傷を受ければ神秘体験は起きないことになる。反対に、プル論は抑制機能が低下することで、神秘体験の扉が開くと考えるもので、現在論争中のトピックである。
抑制機能が低下することで、神秘体験の扉が開かれる
グラフマン氏が得た証拠は、プル理論が神秘体験の裏にあることを示唆している。彼らの研究では、神秘体験の経験がある脳に損傷を受けた116人のベトナム戦争帰還兵を分析し、これを脳障害あるいは神経疾患のない32人の兵士と比較した。また彼らは戦争の前後に心理テストを受けている。
「しばしば帰還兵からは神の言葉を聞いた、あるいは家族の姿を見たといった報告がされています」とグラフマン氏は説明する。これは一般的な神秘体験である。
同チームはさらに、神秘スケールという神秘体験分析の確立されたテストを使用して、患者のインタビューも行っている。このスケールは、一体感や法悦感ならびに時空を超越した感覚について問うものだ。さらに調査に参加した全帰還兵の脳を高解像度のCTスキャンで撮影もしている。
ここから前頭葉と側頭葉の損傷が、神秘体験の発現しやすさと関連することが判明した。前頭葉は動作、問題解決、記憶、言語、判断、他方の側頭葉は感覚、言語、記憶と関連のあることが知られている。
詳細な分析から、背外側前頭前皮質という特定の領域の損傷が、特に神秘体験の増加と関連があることが判明した。これは前頭葉にあり、抑制機能の鍵となる部分だ。
「前頭葉は人間の脳で最も進化した領域で、世界から受ける知覚的な入力を管理し、意味を与えることを助けています」とグラフマン氏。この前頭葉の抑制機能が低下すると、認知の扉が開き、神秘体験が起こりやすくなるようだ。
脳にある認知の扉
これまでの研究は、対象が数名のボランティアであったり、脳を損傷する前後の分析が伴わないものだったが、今回の研究はそうした問題点をクリアした上で実施されている。
研究結果は、側頭葉での活動も神秘体験と関連があることを示唆している。しかし神秘体験に決定的な役割を果たしているのは背外側前頭前皮質であるようだ。また、こうして体験された神秘体験には直接的な説明などありようもないが、脳は超自然的な説明を用意して満足している可能性もある。
via:livescience・translated hiroching