ユリシーズ【小説】Ⅰ文体【上】重要度〇位

 

梗概

前述のように原本には章題・部分けは存在しないが、以下では便宜のため連載時の章題および書簡類、計画表で示されている章題と部分けを用いる。また、梗概の末尾に「計画表」に基づく各挿話の解説を示す[26]

第一部 テレマキア

第一挿話 テレマコス

本作の出だしの舞台であるサンディコーヴのマーテロー塔。ジョイスは、実際にここで6日間を過ごした。現在では、ジェイムズ・ジョイス記念館になっている。

午前8時。ダブリン南東にあるサンディコーヴ英語版)海岸のマーテロー塔から場面がはじまる。ここで寝起きしている医学生バック・マリガンが、同居人の作家志望の青年スティーブン・ディーダラス(彼はジョイスの前作『若き芸術家の肖像』の主人公で、ジョイス自身がモデル[27])を階上へと呼びかける。陽気でからかい口調のマリガンに対して、スティーブンは彼がスティーブンの母の死に関して言った心無い言葉と、マリガンが招いているイギリス人学生ヘインズに対する不信感のためにわだかまりを持っている。三人はいっしょに朝食をとり、食事中にやってきたミルク売りの老婆からミルクを買い、その後連れ立って外へ出る。マリガンは裸になって泳ぎ、スティーブンに塔の鍵と飲み代を要求する。スティーブンは去り際に、今夜は家に帰るまいと考える。

場面=塔、時刻=午前8時、学芸=神学、色彩=、象徴=相続人、技術=語り(青年の)、神話的対応=スティーブンがテレマコスおよびハムレットシェイクスピア)に、マリガンがアンティノオス、老婆がメントルに対応する。

第二挿話 ネストル

午前10時。スティーブンは、塔の近くの私学校で学生たちに歴史を教えている。授業後、居残った学生の一人サージャントに数学の算術を教え、その醜い生徒を愛しているはずの母親のことを考える。その後、校長のディージーに会って給料をもらい、そのついでに歴史談義を聞かされ、口蹄疫に関する論文の投書のために新聞への口利きを頼まれる。別れ際に、校長は、「アイルランドは、一度もユダヤ人を迫害しなかった。なぜなら、決してユダヤ人を自国に入れなかったからだ」というユダヤに対する侮蔑的な見解を述べる。

場面=学校、時刻=午前10時、学芸=歴史、色彩=褐色、象徴=、技術=教義問答(個人の)、神話的対応=ディージーがネストル、サージャントがペイシストラトスに対応する。

第三挿話 プロテウス

第3章および第13章の舞台となるサンディマウント海岸。

学校を出たスティーブンは、ダブリン市内のサンディマウント海岸にやって来る。彼は、哲学・文学上の思索や家族、パリでの生活、母の死といったことに思いを巡らす。また、通り過ぎていく老婆や夫婦を見てそれぞれ産婆だと思ったりジプシーだと考えたりする。そして、岩の後ろで放尿し、鼻をほじる。この挿話は、スティーブンの内面が意識の流れの技法によって書かれており、彼の教養を反映した外国語などを交えながら文の焦点がめまぐるしく切り替わる。

場面=海岸、時刻=午前11時、学芸=言語学、色彩=、象徴=潮流、技術=独白(男の)、神話的対応=スティーブンの想念が変幻自在のプロテウスに対応する。