背景
モサック・フォンセカ法律事務所の本部(2016年4月5日撮影)
モサック・フォンセカ法律事務所は1977年、ユルゲン・モサック (Jürgen Mossack) とラモン・フォンセカ・モーラ (Ramón Fonseca Mora) により、パナマの首都のパナマシティーで設立された法律事務所である[13]。同社のサービスはオフショア金融センターにおける企業の設立、オフショア企業の管理と資産管理サービスの提供を含む[14]。この会社は40以上の国に事務所を持ち、500人以上の従業員を雇用している[13]。
取引相手は30万社を超え、うち大部分はイギリスの海外領土のタックス・ヘイヴンで登録する会社である[14]。連携機関にはドイツ銀行、HSBC、ソシエテ・ジェネラル、クレディ・スイス、UBS、コメルツ銀行、ABNアムロ銀行などの大手金融機関がある。このうち、ドイツ銀行とHSBCとクレディ・スイスは、2016年6月30日に国際通貨基金から、他のメガバンクとの密接なつながりを理由に金融システムへの潜在的なリスクを指摘された[15]。 モサック・フォンセカ法律事務所はこれらメガバンクのクライアントのために、税務調査官に金融取引を追跡させることができない複雑な財務構造を作ることができる[13]。流出事件が発生するまで、モサック・フォンセカ法律事務所は『エコノミスト』に「世界で最も口が堅い」オフショア金融業界のリーダーと評価されていた[16]。『ガーディアン』によると、モサック・フォンセカ法律事務所は「世界で4番目に大きなオフショア法律事務所」である[17]。
流出

南ドイツ新聞と匿名者とのチャット
2015年8月、ドイツの地方紙『南ドイツ新聞』が、匿名の情報提供者から、2.6テラバイト(TB)のモサック・フォンセカ法律事務所関連文書を入手した[1]。その後、ワシントンD.C.にあるICIJにも送られた。80カ国の約400名のジャーナリストが分析に加わった後、2016年4月3日に分析の結果が発表された[8]。法律事務所の共同設立者は5日、文書を破棄したことはなく、国外サーバからのクラッキングによるものであり、モサックフォンセカは、法律を犯していないことを明らかにした[18][19]。
流出した文書のデータ量は2.6TBと、2010年のアメリカ外交公電ウィキリークス流出事件(1.7ギガバイト (GB))[20]、2013年のオフショア・リークス(英語版) (260GB)、2014年のルクセンブルク・リークス (4GB) や2015年のスイス・リークス (3.3GB) より遥かに大きい。文書には、1970年代から2016年の春までに作られた480万4618件の電子メール、215万4264件のPDFファイル、111万7026件の写真、304万7306件のモサック・フォンセカ法律事務所の内部データベースの概要ファイル、32万0166件のテキストファイル及び2242件のその他のファイルが含まれる[1]。流出したデータには、約21万4千社のオフショア会社の電子メール・契約書・スキャン文書などが入っている[1]。
一方ウィキリークスは、パナマ文書の流出には米国国際開発庁とアメリカの投資家のジョージ・ソロスが関わっているとTwitter上で発表した[21][22]。
2016年6月にスイス当局は、モサック・フォンセカ法律事務所ジュネーブ事業所のIT技術者を、機密文書の情報漏洩の疑いで拘束していることを発表した。
内容
「en:List of people named in the Panama Papers」を参照漏洩したのはモサック・フォンセカ法律事務所が1970年代から2016年初までに作成した、合計2.6TBの1150万件の機密文書であり[17]、21万4488社のオフショア法人に関する情報が含まれる[23]。これらの文書は80か国のジャーナリストにより分析されている[17]。ICIJのジェラード・ライル理事長 (Gerard Ryle) がこの漏洩事件を「オフショア金融市場に対する今までで最も大きな打撃」と評した[24]。
報道の内容によると、複数の政治家やその親族がオフショア会社と金銭的・権力的なつながりを持っている[25][17][26]。例えば、アルゼンチンのマウリシオ・マクリ大統領はバハマのある貿易会社の取締役であるが、この情報はブエノスアイレス市長時代に公開しなかった。ただし、当時非株式取締役に関する情報公開の必要があったかどうかは不明である[25]。また、『ガーディアン』の報道によると、FIFA倫理委員会の委員の1人とエウヘニオ・フィゲレド元副会長 (Eugenio Figueredo) との間には、利益相反の故に大規模な争いがあったことも明らかにした[27]。
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例えば、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の本人の名前はないものの、3人の友人の名前は文書にある[28]。また、中国の習近平共産党総書記の義兄、同李鵬元首相の娘、デーヴィッド・キャメロン首相の亡父、マレーシアのナジブ・ラザク首相の息子、アゼルバイジャンのイルハム・アリエフ大統領の子供達、カザフスタンのヌルスルタン・ナザルバエフ大統領の孫、パキスタンのナワーズ・シャリーフ首相の子供達、南アフリカのジェイコブ・ズマ大統領の甥、モロッコのムハンマド6世国王の秘書、メキシコのエンリケ・ペーニャ・ニエト大統領の財政的支援者(「大好きな契約者」)、韓国の盧泰愚元大統領の息子[29]、コフィー・アナン元国連事務総長の息子などの政治家の親族や友人の名前を挙げられる[26][30]。

パナマ文書問題を揶揄した絵
プロサッカー界においてもいくつの要人や選手の名前が載っている。例えば、南米サッカー連盟の元会長であるエウヘニオ・フィゲレド[27]、欧州サッカー連盟の元会長であるミシェル・プラティニ[31]、FIFAの元事務局長であるジェローム・バルク[31]、アルゼンチンのプロサッカー選手リオネル・メッシ[27]などが挙げられる。レアル・ソシエダに至ってはチーム内複数の元選手の名前(ヴァレリー・カルピン、サンデル・ヴェステルフェルト、ダルコ・コバチェビッチなど)が載られる[32]。また、イギリスのプロゴルファーニック・ファルド[33]、ドイツのレーシングドライバーニコ・ロズベルグ[34]、インドの俳優アミターブ・バッチャンとその息子の妻で女優のアイシュワリヤー・ラーイ[35]、香港の俳優のジャッキー・チェン[36]のようなスポーツ界・芸能界の有名人の名前もある。パナマ紙『エル・シグロ』(El Siglo) によると、ジャッキーはイギリス領ヴァージン諸島にある6つのダミー会社の株主になっている[37]。
モサック・フォンセカ法律事務所は長年にわたって巨大な数の企業の管理を行っており、特に2009年にその数は8万社を超えていた。パナマ文書には21か所のオフショア金融センターにある21万社を超える会社の名前が記載されており、そのうち半分以上はイギリス領ヴァージン諸島で設立したもので、パナマ・バハマ・セイシェル・ニウエ・サモアなどの地域に設立したものも多い。モサック・フォンセカ法律事務所は100カ国以上のクライアントとは業務上の関係があり、そのうち多くは香港・スイス・イギリス・ルクセンブルク・パナマ・キプロスの企業である。この法律事務所は500社以上の銀行・法律事務所・投資会社とともに、クライアントの要望に応じて1万5600社以上のペーパーカンパニーを作った。そのうち、HSBCは2300社、デクシア、J.サフラ・サラシン (J. Safra Sarasin)、クレディ・スイス、UBSはそれぞれ500社[38]、ノルデア銀行は約400社[39]のオフショア会社の設立に手伝った。
日本における関係者
ICIJと提携し、共同通信社と伴にに解明作業に参加している朝日新聞社[40]の調査と分析によると、リストには日本国内を住所とする約400の個人や企業の情報が含まれるが、政治家などの特別職は含まれていないとしている[41]。
このうち、報道されたものとしては、警備会社セコム創業者の飯田亮と戸田壽一とその親族につながる法人がある[40]。飯田と戸田は、1990年代から当時の時価にして700億円の持ち株を、イギリス領ヴァージン諸島やガーンジーに設立された、複数のオフショア法人に名義移転させていたとされている。
複数の専門家は、この措置によって、両名の親族ないし遺族への贈与税や相続税が、かなり圧縮される結果になっていると指摘している[40]。東京新聞の取材に対し、セコムは「税務当局に詳細な情報開示を行って、適正な税金を納めている。課税を免れるためのものではない」と書面で回答したが、情報開示や納税の具体的内容に関して、説明していない[40]。
2016年4月26日、日本在住者や日本企業が株主や役員として記載された回避地法人が、少なくとも270法人に上ることが分かった。5月10日までに判明した主な企業は、ソフトバンクのグループ会社、大手商社の丸紅、伊藤忠商事、そして広告代理店最大手の電通などであった。また個人も400人(重複含む)ほど含まれていることが分かり、コーヒー飲料大手のUCCグループの代表者の上島豪太や楽天代表者の三木谷浩史社長なども記載があった[42][43]。
ソフトバンクは「設立したのは、中華人民共和国のIT(情報技術)企業で、同社は設立に関係せず、要請を受けて事業参加したが撤退した」と説明した[43]。丸紅、伊藤忠商事両社は、いずれもビジネスのための出資だとし「租税回避は目的でない」と説明した[43]。UCCホールディングスは「日本の税務当局に求められた情報は随時開示し、合法的に納税している。租税回避が目的ではない」と述べた[43]。楽天は「節税や脱税を目的としたものではない」と述べた[42][44]
同5月27日、朝日新聞は民進党の石関貴史の資金管理団体「石関たかしを育てる会」で会計責任者を務めた地元・群馬県内の青果仲卸会社社長が、タックスヘイブンにある会社の株主としてパナマ文書に載っていたと報じた。社長は「海外でのビジネス展開が目的で設立したが、事業は行っていない。すべて適法に処理している」と説明し、石関事務所は「(朝日新聞の)取材を受けて初めて知った」と述べた[45]。
同7月28日、NHKの調べにより、AIJ投資顧問代表であった浅川和彦の名前が発見された[46]。
同11月27日、朝日新聞とNHKは漫画家のいがらしゆみこの名前がタックスヘイブンにある会社の役員としてパナマ文書に載っていたと報じた。いがらしの名前があったのは、英領バージン諸島の会社の登記関連資料で、1998年12月から2002年3月まで役員を務めたことになっていた。さらに、住所がいがらしの自宅と一致し、後任の役員に娘の名があった。資料には、いがらしと娘の署名が同じ筆跡による漢字で記されていたが、いがらし母娘のものとは別の筆跡であったことから、事務所は「第三者が勝手に名前を使ったのではないか」と述べ、いがらし本人も「びっくり。なんじゃらほいっていう感じ」「まったく身に覚えがない」と否定した[47]。