ネトオク男の楽しい異世界貿易紀行 作者:星崎崑 164/164
最終話 ネトオク男よ永遠に! の香り
「婿どの。これが本物の『降誕の明星』です。貰ってくだされ」
「これが……」
ディアナの父親が、平べったい金色の大きい石を持ってくる。
石というか、宝石というか、見ようによっては皿にも見える。
「では、失礼して……『真実の鑑』!」
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【種別】
管理者用固有アイテム No.7
【名称】
降誕の明星
【解説】
ハイエルフのみ使用可能な錬金用の宝石
レシピを渡してハイエルフにアイテム合成してもらおう!
【魔術特性】
なし
【精霊加護】
不滅 ∞
【所有者】
ジロー・アヤセ
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「ひ、ひえええええ……」
マジもんのお宝でござったか……。
ハイエルフだけが使えるんじゃあ、もしソロ家の親父に渡してても使えなかったってことなんだな。
まあ、うちはディアナがいるから使えるだろう。しかも、たぶん夢幻さんのタブレットを紐解けば、錬金レシピとやらもカンニングし放題……。
ちょっと世界的なパワーバランス崩れまくっちゃいそうだし、自重が必要かもな。
「それに、婿どの。この屋敷にはまだまだ精霊文明時代のお宝がありますが、すべてあなたにお譲りします。有意義に使ってくだされ」
「もう私にはハイエルフの力もありません。これからは余生を諸国漫遊でもしながら、
過ごす予定ですからな。まあ、ナンナは残りますから、なにか困ったことがありましたら
ナンナに訊いてくだされ」
ディアナの父親は、ディアナ共々、最後のハイエルフとなる。
もしディアナが『特別なお導き』を失敗していたら、父親がハイエルフの真実をディアナに話し、何十年後かに父親が次代のハイエルフとなる分身体を作り引退、ディアナはそれを見守る母親役をやることになっていたのだそうだ。そして、父親の分身体が『特別なお導き』を失敗したら、今度はディアナが分身体を生んで、父親の分身体が父親役になり――
ハイエルフはずっとずっとそうやってきた。
だが、それも今代で終わり。ハイエルフは事実上滅亡する。
ちなみに「ナンナ」というのは、ディアナの前身体である元ハイエルフだ。ずっと前にナンナが『特別なお導き』を失敗し、その後に生んだ自らの転生体がディアナなのである。ナンナは、ディアナにハイエルフとしての力をすべて受け渡し、自らは普通のエルフとして余生を過ごしているのだ。
まあ、エルフだけに全然見た目若いですけどね! ディアナが「おばあさま」なんて呼ぶから何事かと思ったわ。
さらに、このナンナはセレーネさんを生んだハイエルフでもある。まあ、ハイエルフは男女一人ずつしかいないのだから当然だが。
「……しかし、今回のこと、大丈夫ですかね。あとで怒って攻めてきたりとか」
「はっはっは。婿どの、ここはエルフの里。人間は絶対に自力で入っては来れない場所。心配はありません」
「ご主人さま。この場所には、お屋敷に張られた結界の何千倍も強力な結界が張られているのですよ?」
まあ、そうね。俺たちはディアナの魔法でワープしてきてるからいいけど、普通に入ってくるには、かなりの情熱が必要だろうな。
帝都にはたくさん雇われエルフがいるだろうけど、みんなハイエルフのシンパだから裏切るってこともないだろうし。
そもそも、エルフは管理者側だから、人間が戦いを挑むのは無謀だ。
しばらくして神官ちゃんが戻ってきて、みんなでエルフ式のご馳走をいただいた。
いやぁ、俺もついにイモムシ食べたけど、想像してたよりはるかに美味しくて、なんだかちょっと負けた気分だったよ。
「帰ったら、冬籠りの準備をしなくてはならないのです。本格的に冬が来る前に」
「雪がけっこう降るんだっけ? 訓練もできないし、なまっちゃうな」
「……ふふふ、そんな余裕はきっとないと思うのですよ?」
意味深に、妖艶な微笑を見せるディアナ。
全身を覆っていた刺青がなくなり本物の美人になったディアナに、
しばらくなんとなく気後れして、距離感を測りかねていた。
ディアナは美人だ。100%ドストライクのエルフ! である。
本当はもっとテンションアゲアゲになりたいところだけど、今まで過ごした歴史が邪魔して、未だ初夜すらまだだったりするのだ。
もう結婚したのだし、自然とそうなるべきなのに。
しかし、冬か。
寒いのはちょいと苦手だな。
「余裕ないの? まあ……うちは鏡があるから、物資のことで困ることはないだろうけど、
雪に閉ざされるとなるとなぁ」
「冬にやることは、もうちゃんと決まっているのですよ、ご主人さま」
「そうなの?」
「そうであります!」
マリナまで同意する。
俺だけが知らない予定が冬のあいだ中、詰まっているのか?
「それでなにするの?」
「……そ、それは……」
「子づくりであります!」
言いよどむディアナに代わって、元気よくキッパリ答えるマリナ。
「冬の間は、子づくりするものなのであります! あ、あるじどの! 寝かさないでありますよ! フゥッフー!」
「ちょ、マリナ! 最初は私なのです!」
「わかってるでありますよ、姫。冬は長いのであります!」
「あー、ずるい! わたし……私だって!」
「じゃあ私も私も!」
「……順番なら私も早いほうじゃないかな」
「ボスはカナン族はダメですか?」
「めめめ、メイドはどうでしょう!」
「メイド二号もいるよー」
「あっはっは。楽しいね。私も立候補させてくれ」
なんだか、ぎゅぎゅうと抱きしめられてしまった。
こうなったらもう認めるしかない。ハーレム状態だ。気付いたらハーレム野郎だ。
たくさんの夢と期待と希望。
数えきれないほどの愛を受け取って、これからも人生は続いていくのだ。
「うおおおお! みんな大好きだ! みんな! 全員! 愛してる!」
◇◆◆◆◇
<エピローグ>
「あー、ちゃんと校長先生って呼ばなきゃダメなんだぞう! それに、キョウカばっかりズルい! 私にも私にも!」
「あたしあたし、おじいちゃんのお話聞きたい!」
チャイムが鳴り休み時間になると、校長である私のところに子どもたちが群がってくる。
キョウカ、ユリ、アコ。3人とも可愛い可愛い私の孫だ。
正確には、この学校の生徒はほとんどが私の孫。
もっと正確に言えば、私たちの孫だ。
せがまれて、彼のことが書かれた子ども向けの本を読む。
これを読むと、どうしようもなく彼のことを思い出してしまう。まあ、元々彼のことを忘れた日など一日だってないのだが。
……一生をたった一人で生きようと思っていた私に、
これ以上ないほどの幸せを与えてくれた彼が亡くなって、もう10年以上経つ。
今でも昨日のことのように思い出す。
最初の冬の間中、本当に休む間もないほど入れ替わりで彼を求めたこと。
あの時のことは、今でも懐かしく思い出す。
バカみたいにみんな若かったな。
新婚旅行ということで、みんなでヘリパ湖へ行った。
精力増強に効くヘリパイール(彼はウナギって言ってたっけ)を食べて精力絶倫、新婚旅行のはずなのに、ずっと宿に籠りっきりになってしまって、お導きが達成できず精霊さまに彼が怒られてたっけ。
鏡を抜けて、彼の世界に行ったこと。
初めて会った彼の両親は、私たちを見て泡を吹いて倒れたからビックリしたっけ。
車に乗って観光したこと。
見たこともない景色、新しいものばかりで、年甲斐もなく興奮した。
マリナさんが、ヒトツヅキのモンスターから出たドロップアイテムを使って、騎士から、
特別な天職『セイクリッドクロス』になったこと。
そして、彼の騎士隊はドラグーン、パラディン、ジェネラル、セイクリッドクロスを擁して、
次第に世界をも動かす力を持つようになった。
騎士隊は、アルテミス騎士団と名を改めて、ソロ家三男だったエフタ・ソロをバックアップ。
鉄道事業を始めたエフタは、他の兄弟を出し抜いて、無事にソロ家当主に。
その関係で、まさか本当に帝国と戦うことになるとは思ってなかったけど、
彼の機転とアイデアで、ほとんど血を流さずに革命を成し遂げることができた。
表向きは民衆のためなんて言ってたけど、本当はイオンのためだったんだよね。
彼は最後の一線でどうしようもなく優しかったから。
新しい国は素晴らしい国になった。
戦えば最強だが、決して戦わず、領土的な野心もない国。
彼に言わせれば「ただのチート」らしいけど、でも世界は本当に良くなった。
騎士職の女性は騎士になれるようになったし、人種による迫害もなくなった。
彼は目立ちたがらなかったけど、私たち、彼と関係した女たちは全員知っていた。
彼が、彼こそが英雄だって。
数多の発明。国造り。道徳観。
特に、天職がすべてじゃない、好きな人が好きなことをやれるって価値観は、
今でこそ当然のものとされているが、最初のうちはなかなか受け入れられなかったっけ。
ヒトツヅキの戦略だって、新しいものをいくつも実践して、死者が出ることはほとんどなくなった。
彼が興したお店は、いまではいくつかのチェーン店となって、どの街にもある有り触れたものになった。
はじまりは、エリシェの小さな露店だったって、今では伝説みたいに語られてる。
彼は本当に、語りきれないほど、いろいろなものを残したのだ。