ネトオク男の楽しい異世界貿易紀行 作者:星崎崑 163/164
第163話 ダイヤモンドは永遠の香り
ディアナがコクリと頷くと、精霊石から色とりどりの輝く光が取り出され、空へと広がっていく。空が、世界が、数多の色で満たされていく。
もはや、ヒトツヅキがどうのっていう状況ではなかった。
マリナも、レベッカさんも、シャマシュさんも、エトワも、神官ちゃんも、へティーさんですら、完全にあっけにとられている。
世界が色とりどりに輝くごとに、ディアナの体を薄い光のベールが覆い、少しずつ繭のように囲み始める。
「うっ……ディアナ……!」
凄まじい眩さ。
目まぐるしく色が移り変わり、やがて世界を染めるほどの光で視界が埋め尽くされるほどになった。
なにも見えない光の世界の中で、大精霊の穏やかな声だけが響く。
「ありがとう、アヤセ・ジロー。因果は結ばれました。実を言うと、今までの世界と、あなたの世界とは並行世界のようなもの。ヒトツヅキの世界ではなかったのです。しかしこれで、すべてが結ばれました」
つまり、本当はやっぱり『異世界』だったってことか?
それを強引に「ひと続きの世界」へと改変したというのか。
「おめでとう、ディアナ。あなたは『かぐや』のコピー、ハイエルフの第8期同一体でしたが、
今日からは人間……。永遠の愛をこれからずっと受け継いでいってください。あなたは
私の娘であり、私の母であり、私自身でもありました。そんなあなたが、大いなるグランドマスターたちと同じ、人間になる。私自身にとっても……これ以上の喜びはありません」
光が止む。
空はヒトツヅキ途中であることを示す灰色。
目の前には――
「ディアナ!」
ディアナの見た目は、なにも変わっていなかった。
プラチナブロンドの髪も、長い耳もそのままだ。
人間になったというのは、人間として誕生した先祖の先祖のまた先祖、一番最初のルーツまで遡って大精霊が作ったというような意味なのだろうか。
魂とか人間の証明とか、そういうのはわからないが、もともと人工生命だったものを、本物の人間とする。それは、ただ似せて作ることとは、似て非なるもの。天地開闢に匹敵するほどの奇跡なのだろう。
「それと、これは私からのプレゼント。永遠の愛を誓うといえば、これですよね」
大精霊が若干弾む声で、光り輝く球体を落としてくる。
手のひらでそれを受ける。
「……リングケース?」
小さい、指輪用のケースだ。
「おお……。なるほど」
開くと、リングがふたつ。男性用と女性用のものが入っていた。
石はもちろん、ダイヤモンド。
しかも、現代世界では絶対に手に入らない『総ダイヤモンド』のリングである。すごく衝撃に弱そうな逸品だ。
「それは絶対になにをしても壊れませんよ。ふふ、イモータルオブジェクトというやつです」
俺の心を読んだかのように大精霊が言う。
不滅の物体か。
すでに誓いのくちづけは済ませた。
次は結婚指輪というわけだ。
いつのまにか、神の前で結婚式を行っている感じになっている。
日本式の神前式とは全然違うが……。
ちなみに、結婚式をしょっちゅう取り仕切ってるはずの神官ちゃんは、大精霊が出現してからずっと跪いて両手を握りこんで祈りを捧げている。
というか、他のメンツも似たようなものだ。
文字通りの異邦人である俺なんかはともかく、元々のこの世界の人間にとっては、キリスト教徒のもとに「神」が顕現したような感覚なんだろうから。
他教徒であるはずのシャマシュさんですら、茫然と動けずにいるくらいなのだ。
指輪を一つケースから取り出す。
結婚式か……。