ネトオク男の楽しい異世界貿易紀行    作者:星崎崑   162/164

第162話 運命はお導きの香り

 

「……私が永遠を望んだのは、実家の屋敷にあるキネンシャシンを見てからだったような気がするのです」
「記念写真?」
「はい。古い古い写真。冒険者の男の子と女の子。真ん中にハイエルフの少女が写った記念写真。私はそれを見た瞬間、泣きたいような……なんとも言えない気持ちになったのを覚えているのです。永遠ではないものを、永遠にしたくなる、そんな写真なのです」

 少しだけ、泣くような表情をするディアナ。
 ディアナの実家にある記念写真。それはつまり。

「女の子はターク族じゃなかったか?」
「え、ええ。写真の……ですよね。たしかにターク族だったかもしれません。大きな槍を持っていて儚く微笑んでいるのです。私はその写真を見ると、胸がざわついて――」
「それだ」

 正確にはダークエルフだが、それはこの際関係ない。
 ディアナの実家にあるキネンシャシンは、「かぐや」とその主人である男プレイヤーと、死んでしまったという女プレイヤーとで撮ったものだろう。
 俺も「かぐや」の物語を調べたときに、夢幻さんのタブレットでそれを見た。
 どういう経緯でディアナの実家にあるのかはわからないが、間違いないはずだ。
 セレーネさんもその写真を見たことがあると言っていたしな。

 かぐやの本当の願い。
 ずっと持ち続けてた、たった一つの願い。
 そして、このエメスパレットで『特別なお導き』なんてものを作ってでも、やり直そう・・・・・とした願い。

 それはディアナの願いとは、もしかすると少しだけ違うものなのかもしれない。

 だが、俺には確信があった。
 これが答えだという確信が。

「ディアナ。お前と、永遠の愛を誓うが、それは永遠に二人で生きるって意味じゃない」
「え……?」
「俺はお前を一人の女として愛する。だから、いっしょに生きて、いっしょに死のう。子どもを作って……人間として生を全うしよう。形がなくなっても、愛は永遠だ!」
「ご……ご主人さま……!」

 ディアナと口吻くちづけを交わす。

 かぐやの願い。
 死と生の中で産まれたたった一つの本当の願い。
 それは、人工生命として実に簡潔で当たり前のもの。
 生と死で引き裂かれた二人が、それでも誓い合った愛に触れ、そうして生まれた自我が一番に求めたもの。
 その願いは。


 ――人間になりたい。


 辺り一面がきらきらと輝く黄金色に包まれる。
 あれだけ暴れまわっていたガーディアンは動きを止め、沈黙。
 みんなもなにが起こったのかわからず、辺りを見回している。

 温かい眩い黄金色の粒子が立ち上り、一点に収束していく。
 そして、その光は次第に人を形作っていった。
 長く白い髪に、白い角。白い四枚の翼を震わせた、神々しい姿。
 

 

 

 

 

 

 

 

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