あまり働きたくないという思いから清貧を志しながらも、日々挫折しているわたしに、またしても買い物の口実を与える番組が放送されてしまいました。
NHKの『地球イチバン』で特集された、コンゴの“サプール”。SNS界隈でも盛り上がっていたので、ご覧になった方も多いのではないでしょうか?
サプール(sapeur)とは、ざっくり説明すると、コンゴ共和国およびコンゴ民主主義共和国のファッショニスタ(男子)のこと(番組ではコンゴ共和国のサプールを取材していました)。正確には、フランス語で「おしゃれで優雅な紳士たち」という言葉の略ということになります。
コンゴといえば、わたしが一方的に敬愛を捧げている藤永茂先生が、世界の仕組みを知るうえで最も重要視している地域。世界最貧国のひとつといわれ、政情は常に不安定で、旅人にとっては非常にアクセスしづらい場所でもあります。
そんなコンゴのイメージを払拭する“おしゃれ男子”というキーワード。コンゴのみならず、アフリカとファッションというものが、民族衣装以外ではどうにも結びつきませんでしたが…。

かのポール・スミスがサプールからインスピレーションを受け、コレクションのモチーフにしたというだけあって、モチーフどころかそのままショーに出てもおかしくないほどの卓越した着こなし方には、一度見たら忘れられない強烈なインパクトがあります。
月給の平均が3万円という国で生活しながらブランド物を買い、給料の半分を服に費やす彼ら。センスのよさは到底及ばねど、金の使い方に関してはとても親近感が湧きます(笑)。
前半で密着していたサプール兄さんの、簡素な住まいに足の踏み場もないほど服が収納された4畳半、給料の8年分=300万円を費やしたという大量の服、買い物袋に詰め込まれた大量のネクタイ、「ネクタイは、250本くらいかな…いや、もっとあるな」というコメント……嗚呼、いちいち既視感ありまくりです。わたしもソックスとタイツを合わせたら250足くらいあるかもしれないです! ベルトやらマフラーはノベルティでもらえるペラペラの布の袋にぎゅうぎゅう押し込んでますよ! 長屋のような家に住んでいるところも同じですし!
せっかく早く起きても、何を着ていこうか悩み始めて遅刻寸前、みたいなことが数えきれないほどあったり、誰も見ちゃーいないのにアクセサリーが足りないとか靴下がしっくりこないとか、それでもタイムリミットになったら昼休みに買い出しに出てしまうとか、服に振り回されている自分は超馬鹿みたいだけど、サプールたちの美しくもワクワクするような楽しい着こなしを見ていると、たかが靴下の色にとことんこだわって、悩んでもいいんだな~と思えてきます。
明るく派手な色を使いながらもガチャガチャして見えないのは、“コーディネートに使える色は3色まで”という鉄則があるから。とにかく、配色が絶妙に巧くてシビレます。こんなふうに色を使えたら気持ちいいだろうなあ…。 しかも、黒人は頭は小さいし、手足は長いし、体格はいいしで、服がサマになるうえ、黒い肌に鮮やかな色がマッチして、実に見栄えがいい。
テレビに出ていたサプールの着こなしはどれも、とっても素敵だったのですが、なかでもわたしの目に焼き付いているのは、キルトスカートの着こなし! タータンチェックをこんなふうに優雅でポップに着こなせるなんて、センスよすぎです。ハイソックスも小さなボンボリが着いていたり、幾何学模様だったりして、「マルコモンド」か「キワンダ」あたりで出していそう。サプールのセレクトショップとか出してくれないかな、ハアハア…。


彼らは、娯楽の少ないコンゴでは、一種のスターのような存在なのだそうです。
モデルやストリートスナップのカリスマ、或いはパフォーマーのようでもあるし、土日限定というスタイルは休日に原宿駅前にいるロリータやレイヤーの方々にも通じるものがありますが、舗装もされていない道を、シワひとつないスーツとピカピカの靴で闊歩する姿、蚊が飛びまくっている屋外のカフェ&バーでおしゃれを競い合う姿には、他の何かとは比べられない迫力とオリジナリティがあります。
環境的に恵まれているわけでもない、ファッション業界にいるプロでもない(一人、スタイリストのサプールもいましたが)彼らが、‟たかが服”に己の生き方を託している。日々を生きることさえたいへんそうな国において、生存という意味では衣食住において最もどうでもいいはずの‟衣”に。そういう、一見無駄とも思えるものに生き方や人格を投影させるからこそ、美学が生まれるのかもしれません。

着飾るとは、自分に誇りを持つこと。着飾るとは、良心的になること。着飾るとは、自由であること。
登場したサプールたちの言葉を集約すると、そういうことになるでしょうか。
あるサプールが「おしゃれをすると幸福感があって、良心的になれる」と云っていましたが、自分ができているかはともかく、その心の流れはよくわかる。きれいな服、かわいい服を着ていると幸せだから、その気分を台無しにするような振る舞いはしたくないなと思うもんね。フリフリの服に鬼の形相ってのはやっぱり見苦しいし…。
「いい服はいい習慣を生み、それで人はまた成長できるんだ」と、また別のサプールは云っていました。うう、いい言葉だな~。わたしは、服の量だけはサプールも顔負けなくらい所有しているけれど、習慣や人格に昇華しているとはとても云いがたく、それどころか、家計を常に圧迫している服飾というもの全般に対して、若干、逆恨みのような気分になることもあるくらいで、何だか、家にある服たちがとても気の毒になってきました…。
今後は、服がくれる幸福をもっと噛みしめて、サプールのように本当のおしゃれ人になれたらいいなと思います。

PC233958 直近の買い物、くまのぬいぐるみネックレス。会社に着けて行ったことはまだありません。。。