伊藤真の民法入門 講義再現版の勉強 メモ3 | 法律せんか

伊藤真の民法入門 講義再現版の勉強 メモ3

2-6 債権の効力としての問題が生じたときの処理

1)特定物債権と不特定物債権
特定物=この~
不特定物(種類物)。不特定物売買の場合、引き渡すべき目的物を確定することを特定という。特定が生じると以後は特定物売買とほぼ同様に扱われる。
不代替物:代替物

2)弁済の提供と受領遅滞
(弁済の提供の効果)
第四百九十二条  債務者は、弁済の提供の時から、債務の不履行によって生ずべき一切の責任を免れる。
…→「債務の不履行によって生ずべき一切の責任」とは、債務遅滞の責任を免れるということ。
(弁済の提供の方法)
第四百九十三条  弁済の提供は、債務の本旨に従って現実にしなければならない。ただし、債権者があらかじめその受領を拒み、又は債務の履行について債権者の行為を要するときは、弁済の準備をしたことを通知してその受領の催告をすれば足りる。

3)危険負担
 …危険負担とは:双務契約における一方の債務が消滅した(履行不能となる)とき、他方の債務もまた消滅するかどうか。債務者の側に帰責性がない場合
(債権者の危険負担)
第五百三十四条  特定物に関する物権の設定又は移転双務契約の目的とした場合において、その物が債務者の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、その滅失又は損傷は、債権者の負担に帰する
2  不特定物に関する契約については、第四百一条第二項の規定によりその物が確定した時から、前項の規定を適用する。
…特定物売買契約においては、売主の責任ではなく目的物が滅失してとき、買主は、物は受け取れなくても代金は全額支払わなければならない。→特定物売買契約においては債権者主義。
(停止条件付双務契約における危険負担)
第五百三十五条  前条の規定は、停止条件付双務契約の目的物が条件の成否が未定である間に滅失した場合には、適用しない。
2  停止条件付双務契約の目的物が債務者の責めに帰することができない事由によって損傷したときは、その損傷は、債権者の負担に帰する。
3  停止条件付双務契約の目的物が債務者の責めに帰すべき事由によって損傷した場合において、条件が成就したときは、債権者は、その選択に従い、契約の履行の請求又は解除権の行使をすることができる。この場合においては、損害賠償の請求を妨げない。
(債務者の危険負担等)
第五百三十六条  前二条に規定する場合を除き、当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を有しない。
2  債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。この場合において、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。
…(特定物売買契約等以外の)双務契約で一方の債務が消滅したとき、他方の債務も消滅する。債務者主義。
→債務者(売主)に責任がなくて物が滅失したとき、物の引渡債務は消滅してしまうが、これの反対側の代金支払い債務もまた消滅するのか。原則として、消滅する(債務者主義。第536条)。ただし、「特定物に関する物権の設定又は移転」の場合は消滅しない(債権者主義。第534条)。
 なお、これらの規定は任意規定であり、当事者が特約で排除できる。
 債務者の側に帰責性がある場合、売主に帰責性がある場合は、債務不履行の問題債務者の側に帰責性がない場合が、危険負担の問題。


4)債務不履行
①債務不履行の種類3つ
 (ⅰ)履行遅滞:期日に遅れ。弁済期を徒過する。
 (ⅱ)履行不能:履行が後発的に不可能となる。
 (ⅲ)不完全履行:形の上では履行に相当するものがなされたが、不完全である。
②効果 …債務不履行のとき、債権者ができること3つ
 (ⅰ)現実的履行の強制 …債務者の帰責性はいらない。
 (ⅱ)損害賠償の請求 …損害賠償の請求の根拠として主なものは、不法行為(709条)と、この債務不履行(415条)。債務者の帰責性必要。
 (ⅲ)解除 …債務者の帰責性必要。
(債務不履行による損害賠償)
第四百十五条  債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。
 …「その債務の本旨に従った履行」とは、約束どおりの、ということ。
 …「その債務の本旨に従った履行をしないとき」とは、(ⅰ)履行遅滞と(ⅲ)不完全履行。
 …「債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったとき」とは、(ⅱ)履行不能。
履行遅滞等による解除権)
第五百四十一条  当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。
 …(ⅰ)履行遅滞と(ⅲ)不完全履行のときの解除。
(履行不能による解除権)
第五百四十三条  履行の全部又は一部が不能となったときは、債権者は、契約の解除をすることができる。ただし、その債務の不履行が債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
 …(ⅱ)履行不能のときの解除。
③解除の存在理由 …→債権者(債務を履行してもらえない側)を双務契約の拘束から解放する
④取消と解除の違い
取消=そもそも契約の有効性に問題があるときが、無効とか取消の問題。
解除=契約が有効であることを前提に、その後問題が生じたときに発生する問題。
生ずる効果(最初からなかったことにする)は取消も解除も同じ。
⑤現実的履行の強制と帰責事由(不要)
 強制執行は債務者の帰責性がなくてもできる。


5)担保責任
 危険負担と債務不履行は、契約後(後発的に)問題が生じた場合。それに対して、当初から・契約締結前から(原始的に)問題・瑕疵があった場合に、担保責任が問題となる。特定物売買で、目的物に隠れた瑕疵があった場合に、損害賠償の請求や契約の解除ができる。…債務者の帰責性がなくても認められる。
(売主の瑕疵担保責任)
第五百七十条  売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは、第五百六十六条の規定を準用する。ただし、強制競売の場合は、この限りでない。
(地上権等がある場合等における売主の担保責任)
第五百六十六条  売買の目的物が地上権、永小作権、地役権、留置権又は質権の目的である場合において、買主がこれを知らず、かつ、そのために契約をした目的を達することができないときは、買主は、契約の解除をすることができる。この場合において、契約の解除をすることができないときは、損害賠償の請求のみをすることができる。
2  前項の規定は、売買の目的である不動産のために存すると称した地役権が存しなかった場合及びその不動産について登記をした賃貸借があった場合について準用する。
3  前二項の場合において、契約の解除又は損害賠償の請求は、買主が事実を知った時から一年以内にしなければならない。