芳華 | 千紫万紅

千紫万紅

中国の文学、映画、ドラマなどの感想・考察を自由気ままにつづっているブログです。古代から現代まで、どの時代も大好きです。

 
2017年の中国映画。監督は冯小刚。原作は「金陵十三釵」などで有名な严歌苓。
 
あらすじ
1970年代の中国。共産党劇団員に所属する若者達は、軍の慰問のため歌と踊りの稽古に励む日々。中国共産主義を実践する模範生・活ける雷峰こと劉峰、そして新しく劇団にやってきた田舎育ちの何小萍。文化大革命やベトナム戦争の激動に翻弄されながら、彼らの青春はつづられていく。
 
ネットで情報を知ってから、ずっと見たかった作品。
とにかく感動した。
激動の時代の中で懸命に生きていく若者たちの姿に、ひたすら涙が止まらない。文化大革命の政策は、若者達から家族を奪った。共産主義思想は、理不尽な理由で心を抑えつけた。借り出された戦争では、命が無残に散っていく。時代の変化がやがて若者たちの居場所であり、生きる目的を与えていた劇団員をも解散させてしまう。若者達の人生は、外部の圧力によって絶えずずたずたにされていく。
けれど、そんな辛い日々の中にも友情や恋、ささやかな幸せがある。辛い時代を生きた彼らにも、確かに青春はあったのだなと感じた。
そして舞台が1990年代に移った時、全ては大きく変わり、何もかもが忘れられかけている。英雄として国に尽くし、戦争で腕まで失った劉峰は、すっかり落ちぶれて暮らしている。
本作のメッセージの肝はここだと思う。1970年代の中国では、共産党の政策や戦争のせいで、本当にたくさんの人々が犠牲になった。けれど、そうしたことも時が経つにつれて風化しかけている。劉峰や何小萍は、まさしく時代の犠牲者の生き証人だ。映画と同じく文革時代に青春を過ごした中国人は、色々思うところがあったのではなかろうか。
最期の最期、劉峰と何小萍がささやかな幸せを得たところには、ほっと救われた思いがした。
 
映画としての演出も秀逸。舞台は1970年代と1990年代なのだが、時代ごとの風景を非常によく作り込んでいる。テレサ・テンの歌をカセットテープでこっそり聴くシーンや、劇団員の部屋に名画「小花」のポスターが飾ってあったり、この時代を知っていれば色々と楽しめる。
また中盤の戦争シーンは、ワンカットでの長回しが白眉。別に戦争が主題の映画じゃないのに、えらい凝りようだと思った。CGもうまく使っているし、リアリティも抜群。野戦病院での規制ギリギリな残酷描写も凄かった。
それから、要所要所で挟まれる劇団員達のパフォーマンスも見応えあり。こちらも練習風景から衣装に至るまで、色々と作り込みが凄かった。
文革やベトナム戦争という共産党にとって負の面ともとれる題材を扱っているが、作中では直接的な共産党批判は無いし、劇中に出てくる党員も絵に描いたように立派な人物なので、まあここらへんは製作側が上の怒りを買わないよう上手く作ってるのだろうと妙に感心した。とはいえ、映画の内容を深く読み込んでいけば、結局共産党自体の問題を考えずにはいられないと思う。何故文革が起きたのか、何故戦争で沢山の犠牲者を出さなければいけなかったのか…。
日本のニュースでは、中国人は文革の歴史をきちんと振り返っていないなんて声を聞くこともあるけれど、本作を見ればそんな思いは払拭されるはず。中国人は自分達の生きてきた歴史を、彼らなりにきちんと見つめていると感じさせてくれる。もちろん、そんな話は抜きにしても飛び切りの名作映画なので、是非沢山の人に見て欲しい。願わくば、こういう作品を日本でも大々的に上映されたらと思う。
 
キャスト
黄轩/刘峰
共産主義の体現者で「活きる雷峰(人民解放軍の模範兵で、当時は「雷峰に学べ」のフレーズが人々の間で浸透していた」の渾名を持つ好男子。林丁丁に告白するが、そのことで懲罰を受けベトナム戦争に。戦争を生き延びたものの、腕を失い落ちぶれる。どんな境遇でもめげない彼の姿勢には心を動かされる。
 
苗苗/何小萍
ヒロイン。新入りとして劇団員に入ってくるが、規則を早々に破ったり、田舎育ちのズレた性格のせいで周囲と孤立してしまう。父親は文化大革命により弾圧されており、その後亡くなる。彼女自身もベトナム戦争に看護兵として従軍し、その現場の悲惨な実態に飲まれて精神を壊されてしまうが…。
 
钟楚曦/萧穗子
本作のストーリーテラー。一見順風満帆に過ごしているが、他の面々に比べると青春の波には出遅れがち。演員さんの中では一番美人だと思った。
 
杨采钰/林丁丁
劇団員一の歌い手。上昇志向が高く、軍の高官に嫁ぐのが夢。刘峰を袖にしたことが、一連の大きな騒動を起こす。
 
李晓峰/郝淑雯
劇団員の一人。パイプオルガンを担当。楽隊では唯一の女子。陈灿とは悪口を言い合う間柄だが、最終的には結婚する。
 
王天辰/陈灿
楽隊のラッパ吹き。萧穗子と仲良しだったが、彼女の想いは届かず…。
 
赵立新/政委
劇団員の指導役。規則に厳格だが、劇団員を公平に扱う立派な人物。本番前に仮病を使う何小萍の嘘をうまく利用して舞台に立たせるなどしたたかな面も。
 
苏岩/舞蹈老师
劇団員の教師。普段は教え子たちに厳しく接しているが、劇団の解散には大泣きしていた。カワイイ。

 

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