シズコさん /佐野 洋子 | 本の世界の迷子です

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シズコさん (新潮文庫)/佐野 洋子
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母親との関係で悩んでいる人は案外多い。
そして、ほとんどの場合、母を愛せないことに罪悪感を持っている。
親を好きでないのは、子どもにとって、とてもつらいことなんだ。

この本の洋子さんも、母のシズコさんを愛せないことに大変な負い目を感じている。

弟の嫁とうまくいかなくなった年取った母を引き取って、面倒を見ることになるが、
優しくできない自分に腹をたてている。

「私は母を好きになれないという自責の念から解放されたことはなかった。
十八で東京に出て来てからもずっと、家で母に優しくできない時も一瞬も自責は
私の底を切れる事のない流れだった。
罪であるとも思った。」

そして、すごいのは、
痴呆が進んできた母親のために、老人ホームを見つけるが
そのホームのために、自分が貯めてきた多額のお金を払ったことだ。

「私は金をかき集めた。貯金をはき出し自分の年金保険もはがし、
すってんてんになった。毎月かかる経費は三十万以上だったが、
何とかなると私は大胆だった。
私は母を金で捨てたとはっきり認識した。
愛の代わりを金で払ったのだ。」

また、
「私は私以外に親にこんな多額の身銭を切った人を知らない」ともいう。

母を愛せないというのは、こんなにつらい事なのか。

「私は母に子どもの時にからなでられたり、抱きしめられたりした事がなかった。」

そんな洋子さんは、嫌悪感から母に触れる事ができなかった。
ところが、呆けて何年もたった母親と、突然の和解の時がやってくる。

「私の中で、何か爆発した。『母さん、呆けてくれて、ありがとう。
神様、母さんを呆けさせてくれてありがとう』
何十年も私の中でこり固まっていた嫌悪感が、氷山にお湯をぶっかけた様にとけていった。
湯気が果てしなく湧いてゆく様だった。」

「私は何かにゆるされたと思った。世界が違う様相におだやかになった。
私はゆるされた、何か人知を越えた大きな力によってゆるされた。
私は小さい骨ばかりになった母さんと何度も何度も抱き合って泣きじゃくり、
泣きじゃくりが終わると、風邪が直った時の朝の様な気がした。」

これは、「お母さん、私を愛して」という心からの願いが叶えられたのだろう。

母が嫌いというのは、求めてやまない母の愛が得られない叫びなのだと思う。