ここ数日、雲が多い。
お陰で暑くない。
しかし毎日向かい風。
この日は100km程のDenman Sdgにテントを張ろうと思っていた。
Forrest→Cook間、木が全くない。
強風を遮るものが無いとおちおちテントで寝てられない。
ここには小さな建物があるはずなので、その横にテントを張りたい。
Hughesに家らしきものが3軒建っていた。
中は廃墟になっていた。
レインウオーターは無いか探したが無かった。
水があれば浴びたかったのに残念だ。


しかしDenman Sdg手前10kmで突然晴れて、風が追い風になった。
今まで時速10kmだったスピードメーターは16キロになっている。
チャンスだ!
クック手前20kmを目指そう。
今日は120km何とか走れるだろう。
テントもどうにか張れるさと言い聞かせた。
明日のWA時間9:30にクックにインディアンパシフィック号が来る。
それを見る為には今日のうちに距離を稼ぎたい。
しかしDenman Sdgを10km過ぎた所で様子が変る。
空がゴロゴロ言い何やらチラチラ光るのである。
そのうち雷が落ち始める。
すっげぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇおっかねぇぇ。
そう、この360度俺がいっちゃん高いし、チャリンコは鉄で出来ている。
自分の頭上にうすぐらい雲が来ると生きた心地がしない。
上ばかり見ていられない。
道はガレの悪路。
石に乗り上げうっかりひっくり返りそうになる。
雷があちこちに1分間に3~4発のペースで落ちる。
やばい。
引き返そう。
Denman Sdgには高いアンテナが有ったので誘導雷を受けないところでテントを張ろう。
しかし風が強く戻れない。
それならクックまで走ってしまえ。
今まで大事に運んだ水を捨て、食料を捨てる。
ゴミを出さないのが最低限のルールなのだが、自分の命を最優先してしまった。
おぉぉぉぉぉっ!自転車が軽くなり、時速24km出せる。
これなら1時間ちょいでいける。
しかし突然後ろで光り爆音がした。
走行中風を受けているのに空気の振動をはっきり感じた。
タイヤが溶けたような臭いがする。
全身の毛が、ぞわ~っとよだち、口の中で銀紙を噛んだような味が広がる。
大気がそう言う状態なので外からこの感覚を感じたのか、恐怖のあまり中からこの感覚を生み出したのか分からない。
とにかく恐い。
あぁぁぁ頭上の雲が光っている!!
いつの間にか前にも後ろにも雷雲が包囲している!!!
きっと空襲ってこんなんだったんだろう。
昔の人は随分おっかないもんを経験したもんだ。
スピードは時速28キロをキープ
泣いて助かるなら泣いてしまいたい。
死ぬかと思ったというよりは、死んじゃうと思った。
24年間生きていてこんなおっかない思いは今まで無かった。
そう言えば今年は俺って厄年じゃん。ひぃぃぃぃぃ。
普段神なんて信じたことはないが、「アーメン、ナンマイダー、アラーアラー」と知ってる限りの祈り方を叫んでみた。

日は落ち暗くて道が良く見えない。
目が慣れると暗くても見えるもんだが慣れる前に雷が光り目が慣れなくて見えない。
こんな状況で石を避けるのは大変だ。

うほっ!クックの町明かりが見えた。
もうあと10km以内だ。(メーターは暗くて見えない)
10世帯の小さな明かりだが、今まで見たどんな夜景よりも胸が高鳴った。
しかし突然クックにデカイ雷が落ちて、町明かり全てが消えた。
もう泣きたい。2分くらいで明かりは戻ったが、鼻水が全開だった。
あと5kmくらいの所で雨が降る。
道は一気に悪化。マディー(ドロドロ)と化す。
石に乗り上げ、前輪が着地するとグリップを失いひっくり返る。
タイヤは世界中で最も俺が信頼しているドイツのブランド、コンチネンタルをチョイス。
グリップ重視の為、最もワイドな2.125サイズを履いている。
タイヤの転がり抵抗が増すため体力を消耗するが、安全第一だ。
しかしこのマディーでは全くグリップをしない。
3回コケた。
押して歩くべきなのだが、それでもペダルを踏んだ方が早い。
ようやくクックに着いた。
WAの時間でPM8:10、ここクックはSAなのでPM10:40に着いた。
着いたと言う喜びは全く無く、ただただホッとした。
ここに着いたら、世界最長直線区間の端から端に届くくらいでかい声で
「ようこそここへ、クッククック~♪」て歌おうと思っていた。
そしてビールを飲むと決めていた。
そんなことは出来なかった。
駅員に頼みホットシャワーを借り、ホットコーヒーを飲んだ。

クックの駅前にて。放心状態っす。。。