気が付くと、「もしも時が戻るなら」と夢想している。過ぎ去った日々を思い出し、「もし、あの時ああしていれば」と後悔してしまう。分かっている。そんな空想は、非生産的な現実逃避だ。こんなことをしていても、いずれ、「考えても仕方のないことばかり考え、時間を無駄にしたこと」を後悔する日が訪れるだけだ。しかし、いくら分かっていても、姉のそばにいたいという気持ちを抑えることは出来ない。姉の愛を手に入れたかったという気持ちを抑えることは出来ない。


私が適切な判断を下していれば、姉のサイトは更新を停止せずに済んだかも知れない。私が適切な判断を下していれば、姉はツギモトさんなんかと付き合わずに済んだかも知れない。私が適切な判断を下していれば、私は今も姉と一緒に暮らしていたかも知れない。私が適切な判断を下していれば、私はずっと幸せだったかも知れない。しかし、その一方で、こうも思う。もしも私が適切な判断を下していれば、姉がサイトを更新し続けることがどれほど有難いことか気付かなかっただろう。もしも私が適切な判断を下していれば、姉に彼氏が居ないことが幸せだとは思いもしなかっただろう。もしも私が適切な判断を下していれば、姉とともに暮らせることが特別なことだとは思わなかっただろう。姉の居る環境に慣れ切った私は、こんな状況にでも陥らなければ、自分にとって幸せとは何だったのかにすら気付かなかっただろう。


私は今日も姉のサイトを訪れる。二度と更新されることのない廃墟のようなサイトを見ていても、何にもならない。それは分かっているのだが、手が勝手に動いてしまう。私の心は満たされない。八つ当たりの代わりに唇を噛む。「何を見ているの」。背後で天野さんの声がした。慌ててウィンドウを閉じようとするが、天野さんの方が早かった。天野さんは、私の肩越しに画面を覗き込む。
「ここ、まだあったんだ。懐かしい」
天野さんの笑い声に、サッチィが反応する。
「うわ、超懐かしい。ここって、家出少女が好きだったとこじゃん。学校でよく見てたよね」


これが、当事者と部外者の温度差なのだろうか。
姉のサイトは、私の中では今も現在進行形の存在だ。「懐かしい」の一言で片付けることなど出来ない。笑顔で思い出すことは出来ない。リアルタイムで思考を占めるし、接していると痛みが伴う。笑いながら思い出話に興じる天野さんとサッチィに挟まれて、私は様々なものを失ったことを改めて痛感した。


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