今は内科外来ばかりで、小児科には直接従事はしていないのですが、
診療の流れでいつの間にかお子さんの話になり・・・・
「ワクチンてどうなんですか?」と聞かれることがあります。

ということで、ワクチンについてお話ししましょう。
ただし、打つべきか、打たざるべきかという議論とは距離を置きます。
なぜなら、相反する意見がある場合、どの観点から考えるかでどちらも正しいという結論が導かれるからです。
どちらの立場もめざす目的は同じはずなんです。

ワクチンの問題が難しいのは、「打つ」か「打たない」かではないのです。
むしろ、どちらの選択をした場合も付きまとってくる「不安」をどうやって解決するかのほうが難しいです。「打たなくて感染症に罹る不安」もありますが、もっと別の「不安」を抱える親御さんもおられます。そのことに関しては最後に述べます。

ワクチンを勧める立場の方は(医者だけでなく、学校や保育園などの先生、健診に立ち会う保健婦さんも)親御さんの不安に寄り添えているでしょうか?
そのことを抜きに、「打つべき」だ、と一方的に言われることは親御さんにとって非常に酷なことです。

さて、ここで「打つべき」、「打つべきでない」双方の立場について考えてみましょう。

・「全て打つべき」という立場の方に・・・

お子さんの置かれた状況によってリスクは違います。
現在リスクが殆どない疾患(発症数のきわめて少ないジフテリア。ポリオも日本に発生はありません)に対しても、今ぜった打たなければならない必然性があるのでしょうか?
人工的に免疫をつけても、その感染症への一定の暴露がなければ免疫は維持できないでしょう。
リンパ球に免疫が記憶されるので、将来病原体が体内に入ってきても抗体が産生されるという意見があります。でも、ワクチンを打っても罹る例はわずかながらあります。

もともと予防接種をする理由は、重大な病気を予防するためだったはず。
さて、現在の予防接種に”すべて均一に”そのようなメリットがあるのでしょうか?

たとえば昨今問題となっているHPVワクチン。子宮頸癌を起こしうるタイプのウィルスの“一部の型”の感染予防で、子宮頸癌自体を予防するワクチンではありません。
また、HPVの関連性が疑われている副作用、「HPVワクチン関連神経免疫異常症候群(HANS)」もあります。(ただし正式に医学的に確立された病名ではありません)もちろん、すべてHPVワクチンが原因とは限りません。
罹ったお子さんの場合、HANSになりやすい要因があったのかもしれませんし、他の要因があったのかもしれません。
少なくとも娘がいる一人の親の立場として、今の状況でHPVワクチンを「打とう」というインセンティブは働きません。そんなワクチンを他のお子さんに勧める気持ちにはなれません。

・「打つべきではない」という立場の方に・・・

もしお子さんが将来、医療系の職業、お子さんと触れ合う職業(学校、幼稚園、保育園、養護施設など)に就く場合でも何も打たないことが許されるでしょうか?
感染して周囲に広げる可能性もあります。それでも絶対に打たせませんか?

私自身、麻疹、風疹はワクチンの恩恵でこれらの感染症をたくさん診てまいりました。おたふくは、臨床実習の前に抗体がないことが判明しワクチンを打ったおかげで、おたふくにかかって診療を休むことなく従事できました。
もちろん、今打たないで仕事上必要な時期に打つという考えはありでしょう。

殆どのワクチンは全て打たなくても確かに問題はないと思います。
でも、アレルギー体質のお子さんの場合はどうでしょうか?
アレルギー体質のお子さんは、気道感染症を繰り返す子が多い傾向にあります。
中耳炎、副鼻腔炎、肺炎などの気道の感染症の影に、定期予防接種でも関わってくる、肺炎球菌、インフルエンザ菌が関わってくることも多いのです。
アレルギー体質を放置したまま、ただ「ワクチンを打たない!」という対応をとった場合、これらの菌の重症感染症、髄膜炎、肺炎などのリスクはどうなのでしょう?ワクチンで起こすアレルギーのリスクは減るでしょうけど。

実際、肺炎球菌、インフルエンザ菌ワクチンで、それら重症感染症が減っているという報告があるようです。メリットもあるわけです。
もちろん、ワクチンは全ての病原体の型をカバーしていません。違う型の感染が増えているという報告があります。


また、将来職業によっては破傷風のリスクは皆無ではないのですが大丈夫でしょうか?

麻疹はどうでしょう?罹るとかなり辛そうです。
私が研修医の時に麻疹のお子さんを何人も見ました(その頃はまだ外来でも診ることが多く、入院になるお子さんもいました)
大丈夫かなぁ、と心配になるくらい辛そうな子もいました。
最終的に殆どのお子さんは治りますけどね。
でも、麻疹のお子さんを見てしまうと、他のワクチンと同じように打たなくてよいとは言えません。小児科に従事されている先生ならご同意頂けるのではないでしょうか?
ワクチンを打っても打たなくても、まれな脳炎の合併はあります。でも、交通事故の確率よりまれです。

今の麻疹風疹ワクチンはMRと言って、両方が入っています。
風疹自体は罹ってもすぐ治るので本人にめったなことはありません。
周りに妊婦の人がいたら感染させるリスクがあり無責任だという意見もありますが、今は妊娠前に抗体がなければ打つべきものです。

将来お子さんが留学する場合、ワクチンの接種歴を求められる国もあります。
他にもいろんなことが想定されます。

結局どっちをとってもメリットばかりではありません。
むしろ、自分のお子さんの将来のリスクまで目を向け、その上でどちらかの
選択をする必要があります。



予防接種自体が現在の私たちを取り囲む食べ物などと同様、たくさんの化学物質、添加物が含まれています。そういう意味で体に入れなくても済むならそうしたいという考えは理解できます。

であれば、ワクチンだけでなくそういう余計なものをを極力体に入れない入れない工夫、入れた場合は解毒する工夫も大切です。そのことが分かっていれば殆どのお子さんはどちらの選択をしても大きな問題はないと私は考えます。(発達障害のお子さんなどは別の配慮が必要です)

いずれにせよ、ゼロリスクは幻想でしかありません。

だから打つ打たないという議論と同時に感染症にかかりにくいお子さんの体作りも大切です。
お子さんの場合はまず食事です。
不自然な食事をとり続けるのなら、予防接種を打たなかったとしても意味はありません。

ワクチンを、「打つ」、「打たない」どちらの選択でも「お子さんの将来の健康」が共通の願いであるはずです。「全て打たない」場合も「全て打つ」場合もリスクがあるということは知っておいた方がよいでしょう。

打たない場合、一つだけ大きな問題があります。社会的なプレッシャーです。
世の中は、打たないことに対する寛容さがないように見えます。

本来定期接種は、任意接種です。親御さんの希望で打つかどうか選択できるようになっているのですから。
「積極的に勧奨する」イコール「強制する」ではないはずです。
にもかかわらず、打つように強要されたり、子供への思いを踏みにじるようなことを言われて傷ついている親御さんもおられます。

「親御さんが打たない」と意思表示しているのなら、そこに寄り添ってあげて欲しいです。
これからは、打たない意思を持たれている親御さんに寄り添える医療関係者も必要ではないでしょうか。
私もその一人であり続けます。

最後に申し上げますが、私は「全て打たない」、「全て打つ」どちらの親御さん、そしてお子さんの味方です。
どちら側だけの味方ではありません。


長文にお付き合い頂きありがとうございます。