空襲を受けた夜の街。
街の中心にある大聖堂の尖塔が崩れていく。
「もう・・・やめて・・・」
「みんなの大切なものを奪わないで!!」
目の前で町が焼かれている。
それを目の前にして、一人、立ちすくむしかできかなった。
(芳佳ちゃん・・・)
「芳佳ちゃん!芳佳ちゃん!!」
「あっ・・・えっ・・・リーネちゃん?」
「どうしたの・・・?すごく苦しそう・・・。」
「私が・・・苦しそう?」
「うん・・・。なんか悪い夢でも見た?」
「あっ・・・いや・・・、うん・・・。」
「ううん。無理して話さなくていいよ。」
「それより今日は、久しぶりの休みだよ!
遊びにいこう!」
「そ、そうだね・・・!うん!」
第五〇一先戦闘航空団、通称ストライクウィッチーズは、のちに控えるカールスタント奪還戦に向けて、その礎を築くため、ガリア西部の町、ストラスブールに駐屯していた。
「ねえ芳佳ちゃん!ストラスブールの町はね、昔ながらの欧州の街並みが残ってるんだよ!」
「へぇ。あっ、ここのカフェとかすごくオシャレだね!」
「あとで行ってみよう!リーネちゃん!」
「うん!」
「あ・・・そういえば他のみなさんは?」
「バルクホルンさんたちは食材の買い出し、エイラさんとサーニャちゃんは夜間哨戒があったから寝ていて、シャーリーさんとルッキーニちゃんは朝からどこかへ・・・。」
「ペリーヌさんは?」
「そういえば・・・」
「あっ!あそこにいるよ!」
すると、リーネは部屋の窓を開けた。
建物の下で、子供たちにパンを配っているペリーヌがいた。
「ペリーヌさーん!!」
「ちょ・・・・宮藤さん!」
「いまからそっちいくねー!」
「いこう!リーネちゃん!」
「うん!」
―――ここから、ウィッチたちの長くて、険しい一日が始まるのであった
ストラスブールの休日は、おだやかであった。
晴れ渡った空の下、人々は盛んに行き交っている。
宮藤、リーネ、ペリーヌは、宮藤の提案で、街で人気の喫茶店で過ごしていた。
「うわぁ~すごい・・・。これが噂のラビットハウス特製、黒い山の誘惑!」
「うん!このパンケーキと生クリームの上に、きなこと黒いあんみつをかけてるところがおいしいんだよ!」
「でも、なんでこんな変な名前なの?」
「それは・・・ちょっとわからない・・・・。」
「ところで、ペリーヌさん、朝なんでパンを配ってたの?」
「いやっ・・・そ、そんなこと宮藤さんには関係ないでしょ!」
「ペリーヌさん、ガリア開放の後から、こうやって地元の子供たちにパンやお菓子を配ることが日課になってるんだよ。」
「戦闘で親を亡くして、食事もままならない子供たちが、ガリアにはたくさんいるのよ。」
「そうなんだ・・・ペリーヌさんは、優しいんだね!」
「べ・・・別に私が好きでやってることで・・・」
(カランコロン・・・)
「よう!お前たち。」
「バルクホルンさん!」
喫茶店に入ってきたのは、買い出しを終えたバルクホルンとハルトマンであった。
「トゥーデったら、久々の休みだから、宮藤にカールスラントの料理を食わせてやるんだって大張り切りだったんだからね!」
「ちょっ・・・お前は余計なことを!」
「ところでバルクホルンさん・・・あの店の前で立ってる人って・・・?」
「ああ、宮藤は初めてかもな。紹介する。」
「おーい、入ってこい!」
(はい!!)
中に入ってきたのは、カールスラントの軍服を着た、小柄な少女だった。
「私、カールスラント空軍百三十一先行実験隊第三飛行中隊曹長、ヘルマ・レナンツであります!」
「ヘルマはいつもこんな感じで堅いんだ。」
「なんかそういう人、扶桑にもいるような・・・」
宮藤は頭の中でふとあのウィッチを思い出していた。どこの部隊にも、同じタイプのウィッチはいるものだ。
「あとからミーナから説明があると思うが、この地方を管轄しているノーブルウィッチーズのグリュンネ少佐から、一時的にうちの隊で面倒を見てほしいとの見てほしいとのことだ。」
「それでは、一緒に戦うということですか?」
「そうだ。彼女の所属する第三飛行中隊は、先の戦闘で、多くの負傷者を出して、現在は解散となっている。だから、一時的にストライクウィッチーズに編入させるということだ。」
「よろしくね!ヘルマちゃん!」
「み、宮藤少尉・・・!それはいくらなんでも・・・!」
「宮藤ってそういう子だからね~あきらめた方がいいぞヘルマ~」
「で、でも・・・。」
「折角の機会だし、ヘルマ、三人にこの町を案内してあげたらどうだ?」
「町を案内・・・ですか?」
「そうだ、ヘルマは入隊する前までは、この町に長くいたそうだ。」
「わ、私で良ければご案内させていただきます!」
「そうね、私もガリア生まれですがストラスブールは数回しか訪れたことがないですし、案内があったほうが良いですわ。」
「じゃあ決定だね!」
「よし、決まりだ。一七〇〇のブリーフィングまでには、戻るように。」
「はい!!」
「わたしも行きたーい。」
「ハルトマン、お前は武器の保守点検が先だ。」
「えーそんなの後でやればいいじゃん!」
「お前があの戦いの後放置してたのがわるいじゃないか!」
「そんなこといったって!!」
すると後ろから、何か恐ろしい気を感じた。
「あら~あなたたち、すぐに戻るといってたのに、こんなところで大声で、なにをしているのかな~?」
「み、ミーナ!!」
ハルトマンとバルクホルンが見事にシンクロした。
「ほら行くわよ~トゥルーデ~エーリカ~!宮藤さん、ペリーヌさん、リーネさんは夕方のブリーフィングには遅れないようにね~。」
そう言いながら、ミーナは二人の首を掴みながら去って行った。
ストラスブールの町は、小さな町である。ちょうど半日で見て回るにはちょうどいいサイズだ。
「夕方ブリーフィングがあるということで、手短にご案内させていただきます!」
そう言いながらも、ヘルマは町の様々な場所へ、三人を案内した。町の中心の広場から、細かい路地まで、歩き回った。
「レナンツさん、この町が好きなんですわね。」
「はい!あっ・・・いえ、クロステルマン中尉も、故郷のノルマンディ地方の村々をご自身の足で回り、復興に携われたと聞いております!中尉の地元への愛と比べたら・・・。」
「そんなことないわ。皆自らの故郷を愛する心は変わらないわ。」
「そうだね。私も、欧州と扶桑はすごく離れているけど、扶桑を想う心は誰にも負けない!」
「お~っと、それは聞き捨てならないね!」
「扶桑への愛は、私も負けてないよ!」
見知らぬ扶桑人が声をかけてきた。
「あなたは・・・?」
「そいつは、黒田那佳中尉だ!」
「シャーリーさん!」
そこには、シャーロットとルッキーニの姿もあった。町の広場にたむろしている、老人たちと何か話していたようだ。
「お二人ともなにをしているんですか?」
「今ね、皆で那佳のお話を聞いてたの!」
ルッキーニは老人たちに囲まれながらそう言った。
「私は扶桑事変の時からウィッチをやっててね、今は第五〇六戦闘航空団に居るんだ。」
「第五〇六戦闘航空団って?」
「グリュンネ少佐がいる所だよ芳佳ちゃん!ノーブルウィッチーズって呼ばれていて、ガリア側からカールスラントのネウロイと戦ってるんだよ。」
「そうなんだ~。」
「君は宮藤芳佳少尉だね!話は聞いてるよ、色々とお手柄なんだってな!」
「いえ~それほどでも・・・。」
「ところで、何をお話していたんですか?」
「おお?気になるかリーネ?」
「まあリーネにはちょっと早い話かな~?」
「えっ・・・ちょっと・・・ご、ごめんなさい!!」
リネットは恥ずかしそうに顔をひそめた。
「リーネさん、あなたよりも歳が下のルッキーニがいるのに、そういう話をするはずないでしょ。」
「おいペリーヌそれを言ってしまっては面白くないよ~」
「あれ?君たちは、もっと刺激的な話を求めていたのかな?」
すると老人たちは大笑いした。
「もう那佳ちゃんったら!」
「まあでも私たち年寄は刺激がたりないから、そういう話も聞きたいものだね。」
老人たちは口々にそう言いながらも、楽しそうにしている。
「黒田さん、人気なんですね!憧れるな~。」
「まあ、扶桑に帰ったらもっと人気だがな!ハッハッハッ!」
笑い方がどこかで聞いたことあるような気がする。
「それで、ここからが本題だ。」
「さっき話してたことですか?」
「ああ、そうだ。皆にも聞いてほしい。」
そういうと、黒田は真面目な顔つきになり、話し始めた。
「この町は、ネウロイの勢力圏に一番近い町だ。それなのに、この町にはウィッチがいないんだ。」
「ウィッチがいない?」
「ああ。私たち五〇六の管轄ではあるんだが、五〇六は管轄がとても広いんだ。」
「前までは、ミーナたちがサン・トロン基地からガリア北部までを管轄していたから、五〇六舞台はガリアの南側に集中できていた。」
「しかし、あの宮藤が魔法力を取り戻したガリアの大型ネウロイを倒した一件で五〇一は再結成、それに際してサン・トロンも今はウィッチがいない基地になってしまった。」
「そうなんだ・・・。じゃあ、黒田さんたちは、ガリア北部も守らなくちゃいけなくなったんですね。」
「そうだ宮藤。私たちも、何とかならないかってことで、シャーリーにお願いしてリベリオンから多くのウィッチを送り込んでもらったが、やはり難しくてね。今はハインリーケ戦闘隊長率いるA隊が北、リベリオンから応援で駆けつけてきてもらってるB隊という形で分担して管轄している。」
「なにか、打つ手はないんですか?」
「それが難しいんだよ。連合司令部も、五〇一のガリアとロマーニャ開放でネウロイを撃退する糸口を掴んだのか、両地域の開放以来、色々な所で新しい作戦が始まっている。作戦が始まるとそこにウィッチが投入される。つまり、ウィッチの人材不足ってことだな。」
「しかしだな・・・。」
そう言うと、俯いて話していた黒田は顔を上げた。
「この町に、一人すごい奴がいるんだ。」
「すごい・・・奴ですか?」
「ああ、戦火に絶えないこの地域を、たった数人だけで守った奴がな。」
「あっ、それ私も聞いたことあります!」
すると、ヘルマは自分の手帳から新聞記事を取り出した。
“ストラスブールに救世主現る”
“若干十三歳の少女たちから成る
ウィッチ隊、大型ネウロイに大勝利”
その見出しの文字は、新聞の一面に堂々と踊っていた。そして、その記事の写真には、ショートカットの一人の女の子が写っていた。
「このショートカットの女の子、アンナっていう子なんです。」
「一年前から、地元のウィッチ候補の女の子たちを募ってウィッチ隊を結成して、ネウロイと戦っているそうです。」
「アンナの魔法力は、ガリア史上最強ではないかと言われています。」
「へぇ・・・私よりも年下の子がこんなに活躍しているんだ・・・。」
宮藤は写真の記事をまじまじと眺めながらそう言った。
「では、この子が現れたから、ストラスブールは安泰なのではないでしょうか・・・?」
「いや、実は・・・。」
「その子、今は戦える状態じゃないの。」
「グリュンネ少佐!」
「黒田中尉、ここにいたのね。」
現れたのは、第五〇六統合戦闘航空団隊長、ロザリー・グリュンネ少佐だった。
「どうして、戦えなくなったのですか?」
「おそらく皆さん聞いたことあると思いますが、今年の始めにガリア南部で大空襲がありました。」
「その際に、アリアさんのウィッチ隊の仲間の多くが撃墜されてしまったの。」
「それじゃ、今は・・・。」
「そうね、そのショックで・・・。」
「もしよければ、励ましに行ってあげて。」
「あそこの塔の下の家にいるらしいよ。」
そう言いながら、ルッキーニは町の中心にある大聖堂の尖塔を指差した。
「リーネちゃん!ペリーヌさん!ヘルマちゃん!」
「行ってみよう!」
「で、でも芳佳ちゃん・・・。」
「私もどういう言葉をかけてあげればいいかわからないけど・・・なんとかして励ましてあげたい!」
「そうね。私も少しでも彼女の力になりたいわ。行きましょう。」
「ペリーヌさん!」
「たしか今日は、ハインリーケ大尉がアンナさんのお家を訪れているはずです。連絡をしておきましょう。」
「ありがとうございます!」
四人は駆けだした。
そして、アンナの元へ向かったのだった。
(後編へ続く)