無翼の天使54 | 恋愛小説 くもりのちはれ

一瞬なのか、数分なのか・・・お祖父さんも彼女も、そして私も・・・


まるで時間が止まったように、瞬きすら忘れ固まる。


そんな私達の困惑も他所に・・・


『海藤会長、どうもご無沙汰しております。


ご連絡も入れず、突然で申し訳有りません。ご無礼をお許し下さい。


無礼ついでに、少しそちらにお邪魔させて頂いて宜しいでしょうか?』


そう言って和室の畳に足を一歩踏み入れたその人は、些細な動作すら絵になり、


まるでそれは映画のワンシーンようで、目が離せない。


もちろん背丈、スタイル、顔・・・


髪の毛や爪先までも、容姿は文句の付けようが無い。


誰が見ても間違いなくパーフェクト、完璧過ぎる人間。


そしてスクリーンから出てきたような、まさしく世界中の女性を瞬殺するべく微笑み


それはもう、存在が反則だよ・・・。


『誰?』


そんな彼女の小さな呟きの声に、我に返ったお祖父さんは、背筋をピンと伸ばし


その人物を真っ直ぐ見据えて口を開く。


『いやはや、さすがだねぇ・・・評判どおりの色男だねぇ。


中内っ!何ぼぉーっとしてんだっ。さっさと客用の座布団を持って来い!』


お祖父さんの声は、それまでのものとは全く違い、その為か張り詰める空気。


指示を受けた男は、慌てるという表現では足らない程の凄い速さで、金糸で刺繍


されたゴージャスな座布団を、私の斜め前に置く。


そして、その人が座布団に腰を下ろした瞬間、


我が馬鹿息子にも、見習って欲しいねぇ・・・いやはや、まったく・・・動きにそつが


無いと言うか・・・いやはや、まったく・・・感服もんですなぁ。


この速さでココに来ると言うのは、まさに神業・・・早々できた事じゃない。


その点こちらは、何とも不甲斐無い。大事なお嬢さんに迷惑を掛けた上に・・・


いい訳しようのない始末に、頭を下げるしか有りません。本当に申し訳ない。


お祖父さんは、その立場上、滅多に・・・イヤ、決してすることの無い土下座をする。


『会長っ!』


お祖父さんの土下座を見て、驚きながらも男の人も同じように深々と土下座する。


『何?どういうこと・・・誰?ねぇ・・・この人、誰なの?』


不安げな小さな声で私に尋ねる彼女。


「えっと・・・」


私が説明する前に・・・


『海藤会長、顔を上げてください。ワタライの者の話だと、娘自ら此方に出向いた


と聞いております。ご迷惑をお掛けしたのは、此方の方ですから。


なっ?真菜、そうなんだろ?』


パパのセリフが、そのまま彼女への答えになった。


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