ノムラ證券残酷物語 -4ページ目

Vol.52 「スイスイ~帰ろう水曜日!今日は残業無し!(4)」

『現在の信用枠で後5万株は買えると思います。持ち株の別子(住友金属鉱山)も処分して勝負すれば、後5万株合計10万株まで可能かと思います!』と押してみた。


「そうだな、いっぺんにまとめて買うのはどうかと思うから、明日は2万株だけ買っておこうか?』って・・・『そんなぁ~~~せめて5万株…』って思う気持ちを抑えてもう一押しだぁ~


『そうですね。わかりました(ここで「ありがとうございました」とは言わない。儲けさせるのだから(建前は…)ありがとうとは言わないのである…)では社長、短い期間で良いのですが、新しいご資金はご用意出来ないでしょうか?明日の寄付きで買っても直ぐに100円幅程度なら取れそうな気配ですからやっぱり10万株にして100円なら1000万円程度なら直ぐに儲かりそうなので、2000万円程ご用意頂ければ、10万株買えるのですがどうでしょう?それと会社の方はやっぱりK常務にご一任でよろしいのでしょうか?』って一気に勝負にでた。


ここまでロビーのソファーで会ってからたぶん5分掛からない時間だった。


「個人は追加で2万株も買えばもう十分だよ。株は遊びだから…合計3万株で300万円儲かれば十分さ!会社の運用はK藤常務に任せてあるから、明日K常務に聞いてみたら?」って…


もう一息でノルマ達成かな?と…もう一度押しだ!って言い聞かせて…


『それでは明日会社の玉はK藤常務にお話しますが、やっぱり社長、別子(住友金属鉱山)がほぼ買値で儲かっていないのですが、おそらく少しタイミングが悪かったかもしれないので、これを手仕舞って足の速い日石に乗って見ませんか?そうすればやっぱり10万株買えますが』って…粘る事も基本なのだ…


実は別子は3日前に3万株買わせたばかりで50円程やられているので、トントンってことは無く、手仕舞いの手数料まで考慮すると、下手をすると200万円以上やられていまう状態だったのであるが、インターネットで持ち株の買値などをいつでも把握できる現代の状態と異なり、証券会社の言うがままにある銘柄を買った後は、売買報告書が3日目に届くが、かなり細かい客なら別だが、お金持ちの客ほどおそらく半分以上は報告書すら見ないし、買った値段もそして現在の株価も自分で調べる客などほとんど私の記憶では居なかったと思う。このような本当の細かな損益を伝えなくても大雑把な説明で、乗り換え作戦は割と簡単に決まったケースが多かった。


少し考えた社長は、「そうだな、あまり大きな取引はやった事が無いから怖いが、まあ短期勝負なら一度やってみるか!」って!!!


『やった~~ノルマ達成!』って言葉はやっぱり飲み込んで、『それでは、別子を処分して明日日石を10万株買っておきます。短期勝負です!』って!細かな値段のことは一切触れない。これは鉄則である。幾らで売って、幾らで買うか?こんなことをいちいち顧客から確認を取っていたら商売なんか絶対に出来ない。そんなものだった。全てを任せてもらうというか、細かいことは聞かれないように「任せてもらうように」仕向ける。


そもそも、「売買の別、指値/成行きの別」など細かく顧客からの注文内容を確認することが証券取引法で定められたルールなのだが…これ自体ルール違反であることだが…


「よし、話はそれだけか?じゃあ少し飲みに行くか?!」って、社長に初めて飲みに誘われた。もう既に11時を回っていて、課長は支店で待っているだろうから、時間を見て後で電話しなければならないが、そんなことは後回しで良いって決め込んで『はい!喜んで!」って、銀座の夜の街かな?って・・・若いサラリーマンにはとても刺激的な夜になるのかなって?ドキドキしながら、この日の夜はまだ長くなりそうな気配でした。(まだまだ続く)

Vol.51 「スイスイ~帰ろう水曜日!今日は残業無し!(3)」

仕方なく、銀座の外れにある銀座東急ホテルに向かった。8時過ぎにロビーに着いた時はロビーは夜の銀座らしく人でごった返していた。新人に毛の生えたような安サラリーマンでお金の余裕もほとんどなかった時期で、ほとんどホテルなど利用した事が無く、少し「気後れ」しながらフロントを探した覚えがあるのが懐かしい気もする。


フロントでT間社長のフルネームを告げ、また名刺を渡し身分を(ノムラ証券という)告げで怪しいものでは無いことを伝え(功をそうしたかどうか…は?)部屋に電話してもらおうと思ったが、さすがに長期滞在の上客らしく名前を告げただけでフロントの係りの男性が「T間社長はお食事に外出されています」と言われ、どうしても至急で大切な用があるので、ロビーのソファーで待っているので戻ったらT間社長に伝えて欲しいと伝言して待つ事にした。


2時間過ぎても社長は戻らずさすがに10時を過ぎるとロビーも閑散気味になってきた。長時間待ち続け、また日頃の激務もあり眠気が襲って来た頃に、突然T間社長が声を掛けてくれた。


「よう!どうした?何か大事な用でもあったか?」って、少し食事の後銀座のバーで飲んできたのか上機嫌の社長の第一声であった。


『社長、こんな遅くにホテルまで押しかけて申し訳ありません。奥様がこちらだと教えて下さったのでご迷惑だと思ったのですが、どうしてもお話したいことがありお邪魔しました。5分だけお時間を頂きたいのですが?』と、丁寧に顔色を伺いながら挨拶をすると…


「どうした?ずいぶん待ったのか?うん?3時間も居たのか?まあ聞くだけ聞こうか?」と割と上機嫌は変わらない様子なのでそのままフロント前のソファーで一気に用件に入った。


『実は、既に信用で1万株だけ個人で持っていただいている日石ですが、どうも明日以降暴騰しそうな気配だと言う事です。本店からの情報だと石油価格の高騰はまだ当分続きそうな気配で、明日どうしても10万株ほど買付けしたいと思いまして、夜分には?と思ったのですが、今日伺ってお話しておいた方が良いと思いました』


だいたい、本店からの情報なんて口からでまかせだったし石油価格の高騰なんてほとんどの営業マンが石油関連銘柄の時に電話口で繰り返している常套文句だっただけで、それ以上のボキャブラリーや正当なセールストークなんか、当時の末端の構成員には、学ぶ気力も、そして技量も何も無かったが…


それでもこんな夜中に、こんなところまで押しかけてきた、若い爽やかな好青年(当時は??ね…)で、社長は3回目の結婚でまだ小学生の娘さんしか居なかったので、割と気に入られていたのが功を奏したのか…社長は「ほぉ~~~?!でもそんなに枠(信用の)は無いだろう?どの位買えるんだ?今の枠で?」って…もうこの時点で信用の空枠(余力)は既に頭に入っているので、『5万株は頂き!』って頭の中で計算して、10万株のノルマに向けて次のステップに入る事にしました。(まだまだ続く)

Vol.50 「スイスイ~帰ろう水曜日!今日は残業無し!(2)」

さて、新人で入社して二代目のN島支店長は「油の中島」と呼ばれて石油関連銘柄ばかりを支店の注目銘柄にすることで有名だったが、ある月も日本石油と帝国石油ばかりを買い続けていた月があった。日石が当時の高値を更新していたある週の水曜日の引け後、手数料収入が少し中だるみでもしていたのだろうか、明日寄付きで日石を100万株、各課20万株ずつ買い付ける予約取らなければならないという馬鹿げた作戦決行指示が飛んだ。


水曜日だから7時近くになれば、管理職は代理以下の組合員に対しては「もうお前等組合員は帰れ!」と絶対に言わなければならないので、各課課員は自分のノルマを急ぎ片付けるように言われているが、どうせ、今日の夕方ペロを出さなくても明日勝手に仕切られる(客が決まっていないのに先に勝手に買い付ける)に決まっているから、皆「明日で良いや~~~」って雰囲気だった。皆、若い独身社員はデートの約束をしていただろうし、友人と飲む約束している者もいただろうから、ダラけた雰囲気で私もタカをくくっていたところに、悪魔の声が聞こえてきた…


「K村~~~ちょっと来いやぁ~~」ってニタッて笑いながら、こんな呼び方をする時はろくな事は無いに決まっていた。「K村~~~うちの課の明日の予算なぁ~~みんな全然消化してくれへんのやぁ~~お前だけが頼りなんやぁ~そこでお前に頼みがある。お前の客のT間社長と会社の方のT社の件やけど、明日の寄り付きの日石10万株買えへんかなぁ~~?お前もう電話したんかぁ~?」


『はい。もう電話したのですが、会社は今日お休みをされているみたいで、自宅にも電話したのですが奥様が出られて、外出されているっていうことで、明日また電話しようと思っていたのですが…』


「そうか、もう一度何とか今日中にT間社長捕まえられないかなぁ~~」

「もういっぺん電話してみんかぁ~~~」

『はあぁ~~ではもう一度電話してみます』って…


仕方なく席に戻り自宅に電話をすると、奥様がでて…

「K村さんね。K村さんだから教えるけど、主人、易の関係、つまり占いね。その教えで、年に1ヶ月間だけ別居して今銀座のホテルに長期滞在しているの。もし急用ならそのホテルに電話してみれば?」って、最近特に仲良くなってきた(ノムラではこのことを「人間関係が出来てきた」と呼んでいた!人間関係が出来てくるとダマテンの1回や2回は何とか許してくれるとか…の場面でよく使用されてきた言葉だったが…)奥様がそんな大事な事を教えてくれた。


課長に報告すると…

「おう!良くやった!お前、今から銀座のホテルに行ってみんかぁ~何とか今日中に捕まえて、直接会って、お前決めて来い!お前なら絶対出来る!なあ、行ってみんかぁ~~」

って…完全な命令だった。


今日はノー残業デーで、スイスイ帰れる水曜日だったはずだけどなぁ~~って思いながら、デートの約束もあるし…って、でも、今7時過ぎだから直ぐに社長を捕まえれば、30分で終わるかな?って…そんな殊勝な真面目な構成員としての心がけを出したのが、あの悪魔の水曜日の始まりでした…(続く)

Vol.49 「スイスイ~帰ろう水曜日!今日は残業無し!(1)」

おそらく、今でも多くの金融機関が組合との関係でこのようになっていると聞いているが、私の在籍していた当時、ノムラ證券では、水曜日は「ノー残業デー」と称して、組合員(課長代理以下)は残業をしないで6時前後には帰るという習慣が徹底されいていた。


ノムラの組合は、労働者の権利を主張してストも持さないという所謂労働組合は、当時全国の全ての従業員で1万人程度はいたはずだが、たった「10人」程度だった。その他の従業員で課長代理以下はほぼ自動的に従業員組合に所属して、こちらはユニオンシップというのかスト権の無い、所謂御用組合として会社側と柔らかな調整を図るという組合だった。


入社当時、支店の従業員通用口で少人数派の労働組合のメンバーが、ビラを手渡していたのをもらって支店に出勤した時に、これがY田課長の目に留まり、ひどく怒られたことを覚えている。「K村ぁ~~~~!!!おまえ、何持ってんだぁ~~~!!!そんなもんは捨てろ!こんな連中と付き合っちゃダメだぞ!」って…さっぱり何のことか判らなく不満そうな顔をしていたら…直後、教育担当のH田主任インストラクターに別室(ブース)に呼ばれた。


H田主任は、「おまえらは分からないだろうが、ノムラには組合が2つあり、過激な労働組合の連中とは一切口を聞くな!理由はおいおいわかるようになるが、ノムラで出世をしたければ絶対に労働組合には近づくな!従業員組合の加入手続きがその内くるので、これに入るように!」と詳細な理由を聞かずに教えられた。


あまり過激に理由を教えると、万一にも新人が過激な労働組合支持のような頭の構造だと、これをネタに労働組合が騒ぐ事を恐れていたのだろうか、そのように徹底された。


さて、そんなことはこの詐欺集団の構成員になった以上、従業員組合に入るのが当たり前だったが、要するに水曜日だけは残業の無い平穏な日で、7時半位に付き合っていた彼女を新橋の地下の喫茶店で待ち合わせて、デートに飲みに行ったりすることも可能な、本来はそんな日だったはずなのだ…(続く)

Vol.48 「地獄の投信ノルマ(8)」

部長の自宅に戻っても迷惑なのは分かっていましたから、部長の自宅に行くフリをして、遠回りして公衆電話に戻り、先程訪問した部長の自宅に電話し、『部長、先程は本当にありがとうございました。このご恩に応えるため、もう一度支店長に交渉して、先程の会社への500万円の重工CBとは別に、部長に重工CBを200万円と、月末払い込みのCBを300万円、合計別に500万円を用意しました!この分も受け取って下さい!』って…報告した。


「そうか、すまんな。それじゃ重工のCBはやっぱり会社にしてくれ。合計700万円だな。その月末の300万円の方だけ、俺の口座にしとくわぁ~~」って…まあ、こんなもんでしょうか。受託収賄?って感覚も、リクルート事件も何も起こってない時代でしたから、でも、まあこの部長はかなりまともな方でしょうか…その意味はまた別の機会に…


上司の要求を全てまともに聞いていたら絶対に客と自分がつぶれる。

客と会社(上司)との間では、必ず上司の要求と客の要求の距離を『サバ』を読みながら交渉しないと、「自分」と「自分の客」は確実に両方死んでいく。


誰に教えてもらった訳でもなく、あの会社で生き残っていくための重要な戦術でした。柏からの運転は夜になっていました。杉並でI上代理を下ろして、寮に戻ったのは9時過ぎでした。今日のデートはマル(中止)になるし、本当に散々な一日でした。寮に帰ると玄関の直ぐ横の食堂のリビングで同期のN野とT中がテレビを見ながらビールを飲んでいました。


二人に報告すると、T中が、「K村!おうぅ~~~!ごくろうさん!そっ!かぁ~~~やるなぁ~~~出来る営業マンはちゃうなぁ~~~」って…同期にこんな良い方で褒められても嬉しさも何も無く、「うるせえなぁ~~~この野郎!」って、でもこの言葉も心の中で飲み込んで、奴のビールをひったくって一気飲みしただけにして…末端の構成員にとって、こんな疲れた休日はこの日だけでは決して無く…「しょっちゅう」でした。(この章終り)

Vol.47 「地獄の投信ノルマ(7)」

車を公衆電話のある場所まで回しI上代理がY田課長の自宅に電話して交渉してもらい、更に、Y田課長は支店長の自宅に電話してCBの増額交渉をするという伝言ゲームが続きました。ようやく、再度課長の自宅にI代理が電話した時にY田が私に電話を代われと言っているようで私が電話口に出ました。


「K村、ご苦労さん、それでな、2000万円なんか絶対ノムラでは無理なんだ。もう支店長の枠も無いんだ。但し、今月は特別に…400万円だけなら用意できるそうだ。支店長が本部に相談して特別にもらったそうだ。但し、これでも駄目なら来月必ず用意するって約束して来い!でも投信は1億絶対決めろよ。でも「タダ」でCBだけ取られるなよ!」って…(お前に言われなくてもそんなヘマはしねぇ~よ!って心の中で叫びながら)『はい。もちろんです。頑張ってきます!』と電話を切りました。


再度部長の自宅に戻り、もう一度玄関先で『部長、支店にお願いして来ました!ただ、今月はもう200万円しか追加ではご用意出来ないそうです。すみません。合計500万円で何とか1億お願い出来ませんでしょうか?お願いします!』ってもう頭を下げたまま、絶対OKが出るまで動かない覚悟で最後のお願いでした。しばらく考えた後、「分かった。今回だけだぞ!その代わり今後も良い玉回してくれよ!ご苦労さん!明日課長に言っておくから彼と話してくれ」『部長、本当ですか?ありがとうございます!本当にありがとうございます!」って…本当に疲れた交渉だった。


何度も、何度も、部長に丁寧に「ありがとうございます」を連発して失礼し、車を停めてある方向とは別に歩き出しました。でも何か釈然としない、ムカムカして仕方ありませんでしたので、このまま報告するのは悔しくで少し焦らすことにしました。住宅街をタバコを吸いながら30分程歩き回りようやく車に戻って、待ちくたびれた様子のI上代理に『すみません。やっぱり最低でも1000万じゃないと無理そうです。粘ったんですが…』と嘘の報告をした。


課長は飛び起き、「1000万ならかうんだな!本当か!?」って、そう言うなり「もう一度課長に電話してくるわ」ってI代理は公衆電話に走って行きました。15分程して戻ってくると「K村、重工とは別なCBだが今月末払い込みで300万円取れた!これで合計1000万になるぞ!もう一回行って来い!」って…


「なんだよ。やっぱりやれば出来るんじゃん!って…もう客は500万でOKなんだよ!って…」

(もう少し続く)


Vol.46 「地獄の投信ノルマ(6)」

「N電線の部長は非常に不機嫌そのものでした。平穏な休日の夕飯前に、一般人の匂いがしなくなった構成員のような強引な押し売りが、何の前触れも無く自宅に押しかけてきたことそのものが不機嫌だったようで、玄関先で自宅の中には招き入れてくれませんでした。「何の用だ!」と取り付く島も無い状況で非常に緊張しました。『お休みのところ誠に申し訳ありません。実は投信のノルマが達成出来ずピンチなのです…』とそれだけ言い私も次の言葉を失ってしまいました。


「投信?そんなもの買わないよ。そんなこと知っているだろう?いったいどうしたんだ?」『実は、店全体が大ピンチで、今回設定の投信なんですが、何とか部長のところにお願いして来いと…何とかお願い出来ませんでしょうか?』「いったいいくら買えってんだ?」『1億円…です』「おまえ、寝ぼけてんのか?そんなの無理だよ!」『す、す、すみません。お願いします!』って言ったっきり、もう何も次の言葉を考えることは出来ませんでした。


「ご苦労さん。もう帰れ!一生懸命頑張ったんだろう。ホント大変だな。ノムラの営業は偉いよ!」って、ドアの奥に消えようとする部長に最後の言葉を振り絞って…


『部長、すみませんでした。支店から新発のCBも少しお分けして、何とかということもあり…ご検討お願いします!』と言うと…

「新発のCB?幾らだ?」と、

『すみません。三菱重工の12回のが今月は300万円しか無いのです。今月は300万円だけですが、今回お願い出来ましたら来月また別なのを持ってきます。私の責任で必ず持ってきますから!』って、口からデマカセです。確かに、そんなことは自分にはそんな権限も無いし、まあ、来月何とかなるだろう?って…


「で、資金はいついるんだ?…でも、まあ明日課長(いつも話している担当の部長の部下の方)に相談しろ。」って…これは買うのか、買わないのか、期待して明日課長のところに言っても、やっぱり駄目だって断られるのが落ちだし・・・今日ここで決めないとやっぱりヤバイな…って。


『部長すみません。10分で戻りますから、もう一度課長に交渉してきますから』って言い放ち、「もう良いよ、無理だから…」っていう部長の言葉を聞こえないフリして無視し、きびすを返して車を停めてある次の角まで走って一旦戻りました。


I上代理は車で転寝していた様子でムカッと来ましたが、叩き起こして『I上さん!すみません。もう少しで買いそうなんですが、300万円だと全然無理そうです。考えても良いけど、もう少しって部長が暗に言っています…』「い、い、幾らだ?幾らなら買うんだ?」『最低1000万円は必要です。日興や大和とも取引している客ですから、日興は重工のCBを裸で2000万円持ってきたって言ってまましたから』って、もう口からでまかせで…。


上司を騙してでも自分の客を守らないと、こんな無茶な営業ばっかりさせられていたんじゃ客も直ぐに死んでしまうのは当たり前です。覚悟を決めて、『課長に相談して下さい!』って叫びました。

Vol.45 「地獄の投信ノルマ(5)」

「おう、良く来たな~近くのレストランで飯でも食いながら話そうか?」って、そりゃそうだろう!日曜日に呼び出しておいて、もう昼過ぎだぜ!って、そういえば入社以来こいつにおごってもらったことなんか一度も無いな~~って思いながら、一緒に車に乗って課長の道案内に従って車を走らせてみると…「こ、こ、ここですか?」って心の中で叫びは飲み込んで、なんとファミレスでは???


「おい~おい~大ノムラの日本一手数料を稼ぐ課長だろう?レストランって言ったじゃないですかぁ~!」って、またまたこの言葉も飲み込んでいるうちに、車を止めている間に課長と代理はスタスタと中に…


「でな~要するに、お前の客のN電線に何とか今回の投信を買ってもらいたいんだ。振込みは来週の水曜日最終だ。もう既に「売り最終」(顧客から預っている株や債券などを、ダマテンでも何でも売却して、これを新規の購入代金に充当するための最終期日=社内用語)は過ぎているから、キャッシュを持っている客しか駄目なんだ!分かるな!K村!で、タダで買ってくれとは言わん!特別に今回は新発のCBを支店長から300万円貰ってある。普段投信の客に新発のCBなんか渡すことは無いんだ!分かるな!K村!これで何とか部長にOKをもらってくれ!頼むぞ!もうお前しか無いんだ!」


「…えっ!?まさか…課長と代理は同行営業してくれるんじゃないの…??」ってこれも飲み込んでいると「K村、俺は自宅で待機して、支店長と連絡を取っているから、お前、I上と一緒に柏の部長の自宅までこれから行ってくれ!部長はさっきうちの女房に電話させたら(決してノムラの営業マンが訪問することなんかは悟られないように・・・)自宅に居ることは確認した!但しおまえが近くに行って電話したら絶対に断られるから、お前は突然訪問しろ!で、I上、お前は近くまで行ったら、自宅の近くに車を止めて、K村に一人で行かせろよ!K村、お前、一人でどうしてもノルマの達成が出来ないって、泣きおどし戦法で行くからな!頼むぞ!K村!お前だけが頼りなんだ!」って…


「…一緒に行ってくれるんじゃぁ~~~俺の責任で…俺一人で…『人でなしぃ~~~』それもたったCB300万円じゃぁ~~~絶対無理だよぉ~~~!」って言いかけた言葉ももう一度飲み込んで、もう無言の抵抗しかありませんでした。「K村!お前なら出来る!おう!何でも食え!腹減っただろう?!」って・・・課長はその後580円のホリデーランチをライスを大盛りにしてバクバク食いながら、さらに食べながら喋り続けていました。


私は、そんなホリデーランチ1食で、日曜日のデートはキャンセルさせられるは、一人で大事な客の部長宅に、休日を襲って投信1億円を決めに行かなければならないアホらしさで、最初にノムラを本気で辞めたくなった瞬間でした。


その後、I上代理は車の中で居眠りしているし、柏なんか全く道は分からないし、結局、町田から柏に着いたのは既に夕方近く。ようやくたどり着いた部長の自宅は、閑静な新興住宅地の立派な一軒家でした。少し角を曲がる手前の道に車を停め、I上代理から「K村!頑張って来いよ!頼むぞ!」って空しい声を掛けられ、私は部長宅のインターホンを押しました…(まだまだ続く)

Vol.44 「地獄の投信ノルマ(4)」

電話を切ったとたん憂鬱になってきました。せっかくの日曜日、午後のデートの約束もどうなるか分からない状況だし、いったい日曜日に何をどうしろって言うんだろうと思い、それでも支度を始めることにしました。

支度を終わって同期のN野の部屋に行くと、昨日から彼女のところに泊まりにいっているらしく彼の部屋は不在。仕方なくT中の部屋に行って起こして事情を話すと、「おうぅ~~~大変やなぁ~~~出来る営業マンはぁ~~~って」全然やる気の無い返事で、一発でムカついて部屋を出てしまいました。だいたいこいつの無神経さにはいつも疲れたものでした。


最初の冬のボーナスを頭金に買った、中古のスカイラインを寮の駐車場から出して、地図を見ながらI上代理の自宅に車を発進し、何とかI上代理の自宅に到着した。憂鬱な思いでドアのベルを押すと、可愛らしい奥様が出迎えてくれた。奥でI代理が「おう、ご苦労様、まあ上がってお茶でも飲んでけやぁ~」ってリビングに通されることになりました。


「日曜なのにすまんなぁ~」って会話から始まり、「何故私が呼ばれたんでしょうか?」って恐々聞くと、「なんだ?おまえ課長から聞いてないのか?お前の客のN電線に投信1億円何とか売って来れないかって言う件だよ」って…私には寝耳に水で、この私の大手客の一社は某上場会社の関連会社で財務内容は良く、確定利回りのものなら10億単位程度は購入するようになりましたが、投資の怖さも含めて素人に毛の生えた我々に比べて大変理解しており、簡単に投信を億単位で購入する客ではありませんでした。


「あの~それに今日は日曜日ですし、休みのはずですがぁ~」「そんなことはわかっとるわぁ~部長の自宅にお願いに行くんじゃぁ~」「部長の自宅ですか?部長の自宅なんか会社の端末を叩かないとぉ~」「大丈夫だ、あそこの部長と念のために課長の自宅は、2人とも口座があるから土曜日のうちに調べてここにある」って…全く用意周到で…「そうですか?でも、確定ものじゃない投信は難しいと思いますがぁ~」って言うと、「まあ、そう最初から諦めるなって!まあ、さっ、とりあえずY田さんの自宅に行こうか?」って…


結局、日曜に大手法人客の部長の自宅を襲撃することは理解できましたが、土台そりゃ無理だろう~って、まあ課長も代理も同行してくれるなら、彼等の問題だな!って、俺は運転手すりゃ良いんだな!って、気持ちはだいぶ楽になり、町田のY田課長の自宅に車を走らせることになりました。1時間以上車を走らせ町田の課長の自宅に着くと、太った体に私服(それもバミューダパンツ!)で出て来るとこりゃ~って感じでしたが、まあ、それは良いとして…(続く)


Vol.43 「地獄の投信ノルマ(3)」

そんな商品をキャンペーン月には一支店で8億円も10億円も設定する月があった。この時はさすがの虎の穴の詐欺集団を持ってしても特に厳しかった。筆者が2年目になった春の頃だっただろうか。募集締め切りを後1週間に控えても支店のノルマは支店全体で3億円近く足りなかった。投信の募集で『ケツを割る』(未達成)と言うことは「次は役員か!」って意気込んでいる「大虎ノ門支店長様」にとっては絶対にあってはならないことである。支店長は次長課長を呼びつけ、厳しいツメを行うと、当然に我々末端の構成員はそれ以上の厳しさでノルマの達成を要求されることになる。


大事な株の客の資金をクローズド商品の投信に変えてしまうことは、営業マンにとっては「死」を意味することになるが、考え方を変えれば、『死ぬ寸前』まで痛めつけてしまった株の客なら、いっそのことここで投信にダマテンしてしまえばそのまま『墓場行き』となるので、どうせ死んでしまう客ならって!投信にダマテンしてしまう営業マンも出る始末で、最後の募集は壮絶な地獄絵図だった。


募集を残り数日に控えた週末、それでも支店全体では残り2億近い不足を生じており、支店全体のノルマを統括し、支店長の覚え愛でたい、当時手数料日本一のスーパーセールスマンY田課長は、課員の全ての顧客をプリントアウトし丹念に属性、預かり資産などをチェックし、どの客なら少しでも買う可能性があるのか、課長代理と全ての客をチェックしてその週末を迎えていた。(らしい…)


その週末の日曜日、入社後1年も経ち、ノルマもそこそここなす一人前の営業マンになっていた筆者は、日常の激務で疲れ果てて、デートは午後からと、最近付き合い始めた支店の年上の彼女に昨日電話で約束して、寮で寝ていたところに、朝の8時頃に寮に呼び出しの電話がなった。「11号室のK村さん~~~お電話です~~~」って、管理人兼ガードマンのおじさんが館内放送で俺を呼んでいる!「誰だ???こんな時間に???うるさいなぁ~~」って寝ぼけ眼で玄関の電話台に向かうって受話器を取るとその声は…Y田課長のそれだった…


「おうぉ~~K村かぁ~~まだ寝てたかぁ~~すまんなぁ~~朝早く。でなぁ~~来週の投信の締め切りで厳しいことは良く分かっているよなぁ~~今、I上(代理)にも電話して話してたんだけどなぁ~~少し3人で作戦会議をしたいんだがなぁ~~~お前車持ってたよなぁ~~I上の家に電話して、杉並かどこかだったかなぁ~~I上を迎えに行って、それで俺の家まで来ないかぁ~~俺の家は町田なんだぁ~~」って…そんな一方的に…


「あのぉ~~~N野やT中も一緒に連れて行けば良いのでしょうか?」って聞くと、「今日はお前だけで良い。K村、お前だけが頼りなんだぁ~~~お前は最近必ず予算は達成してくれるし、今回の募集もお前だけ達成しているのは分かっているんだ!でもまだ支店はピンチなんだ!お前、分かるよな!」って・・・筆者はY田課長の、やけに持ち上げる、優しさと気色の悪さに血の気が引いていったのを今でも忘れません。それはあの地獄の日曜日の始まりでした。(明日に続く)