Vol.22 「仕切り玉(2)」 | ノムラ證券残酷物語

Vol.22 「仕切り玉(2)」

たまたま、700円で寄付き前場30分程度で715円にでも上がっていればこれは、課長の大口顧客の信用取引の枠の中で勝手に処理されて、我々の前に日の目は見ることが無い…つまり、課長の客は朝課長が相場観で買った玉がたまたま値上がりしたので、20万株×15円=300万円(実際には対面取引の手数料はべらぼうに高く恐らく税金を引いたら150万円も手取りは無かったと思われるが…)の収益を得ることになる。これを証券界では「日計り」と呼び、今のネット投資家では「デイトレード」と呼ぶのであろうが、まあこんな日はあまり無い。


寄付きから30分程度の時間で、買った値段より下がっていた場合、あるいは手数料が抜けない程度の値上がりであった場合、兵隊達のところにこの悪魔の「仕切り玉」が舞い降りてくる!


S田次長とY田課長がいつものようにしたり顔で「全員集合!電話を置けぇ~!」と声を掛けると、どうせ本当にお客と話している営業マンなどは普段ほとんど居ないので、全員ほぼ30秒以内に次長席の前に集合する。と…Y田課長がS田次長の腰ぎんちゃくよろしく「おい!今ここに帝国石油が700円で買った20万株がある!これを各課5万株ずつお客に嵌めて(はめて)くれ!各課5万だ!」と叫んでいるY田課長の後ろで、S田次長はホワイトボードに各課の数字を5と書いて□で囲んでいく。(ノムラでは、数字を△で囲むと千株、□で囲むと万株単位という理解で、ちなみに数字の右上にレ点を書くと億円という意味がある)


直後、各課はまたそれぞれ席に戻り、それぞれ課単位のツメが行なわれる。


課長の号令の下、「H田!お前なんぼやる?!」「T岡!お前は?!」「K村!お前は?!」と各自の達成可能な数字を確認しながらツメて行く…H田主任は、毎日毎日のこんな生活に疲れているにも係わらず平気で「1万」と応える。最近営業成績の調子のでないT岡店内主任は小さな声で「5千」と答えると、Y田課長が「T岡ぁ~てめえ何年目だぁ~新人にしめしがつかねぇだろうぉ~がぁ~!」と怒鳴られ、仕方なく全く1万株の帝国石油を売り込める当ても無いのに「1万」と応えてしまう。(続く)