この間台湾に行ったとき、モンガに散る(艋舺)や愛 LOVE(愛)の鈕承澤監督の最新作•軍中楽園を観た。

軍中楽園は正式名称を「軍中特約茶室」とし、中国大陸の廈門からわずか数キロに位置する金門島に1952年から1990年まで実在した軍妓妓院(慰安所)を指す。
別名「金門八三一」または「八三么(パーサンヤオ)」と呼ばれていた軍妓妓院は、なんと蒋経国によって設立された機関であり、彼は金門のみならず、馬祖や澎湖島、台湾本島にも同じような施設を作り、1992になってようやく全てが閉鎖されたという歴史を持つ。

この軍中楽園をテーマとして、当時徴兵制度で金門島に台湾本島から派遣された青年とさまざまな理由で軍中楽園で働くことを余儀なくされた女性を描いた本作は、公開前から幾度となく話題にあがってきた。

外省人、本省人問題。徴兵制度。戒厳令下の中国大陸と台湾などなど……。
タブー視されてきた内容をどこまで掘り下げられるのか。

そして、鈕承澤監督が撮影クルーに中国大陸籍の人を起用し、軍施設の撮影をしていたことが発覚して大問題となった。その後映画製作は一次中断された、さらに話題となる。(この裁判は映画公開ごもまだ継続中)
出資者が映画中止を口にし始める中、鈕承澤監督このテーマをきちんと描かないと当時の人々の苦しみや辛さが忘れ去られてしまうと思い、どんな結果になろうと自分一人で責任を持つという固い決意のもと、約2.5台湾ドルをかけてついに完成させた。
その背景には、鈕承澤監督の父親は19歳のときに国民党と一緒に台湾に渡ってきたいわゆる外省人であり、まさに時代に翻弄された世代だったことと、鈕承澤監督自身が眷村育ちという要素が大きく関係していると思われる。

映画は1969年の物語だが、私自身、ほぼ同じ時代に台湾に生活していながら、ある場所ではこのようなことが起きていたということに、非常に大きな衝撃を受けた。

映画というツールを通し、台湾人が自分たちの歴史、自分たちのアイデンティティを見つめ直し、再発見するにはとてもいい一作のように思える。
若い世代に是非観て欲しい。

ちなみに、「八三一」という呼び名の由来にはいくつかあり、昔軍が使っていた電報の番号で女性の生殖器を示す「屄」という漢字は831と打つからだという説と、軍中楽園の電話の内線番号が831に由来しているという説が有力だとか。

従軍慰安婦問題で敏感になっているいまの日本で公開されるかわからないけれども、軍中楽園は史実の一つとして、戦争が招く悲しさと台湾がこれまで歩んできた時間を知ることができるので、観る機会に恵まれることを切に願いたい。

もし封切りされなければ、金門島には特約茶室として当時の様子を復元した施設が公開されているので、そこを訪れるのもお勧めだ。

中国の女優•万茜が影のある軍中楽園に働く影のある役を美しく演じ、主題歌も歌っている。
台湾からはブラック&ホワイト (痞子英雄)で人気のアイビー•チェン(陳意涵)、イーサン・ルァン(阮經天)が出演している。