参考資料59 | シフル・ド・ノストラダムス

シフル・ド・ノストラダムス

ノストラダムスの暗号解読

「川尻博士の話はいよいよ核心に近づいた。
「私は、第二次世界大戦はヒトラーの宗教戦争に違いないと思い、それを証拠だてる歴史的事実を探していた。そうすると、この本の中に実に興味深い記述を発見したのだ」
博士が採り上げたのは、ナチの宣伝相ゲッペルスの一生を描いた『ゲッペルス―――ヒトラー帝国の演出者』(クルト・リース著、図書出版刊)だった。
「君も知ってるとおり、ドイツは1940年5月10日、オランダ、ベルギー、フランスに機甲師団を侵攻させた。ドイツ軍の大進撃で、5月14日にはオランダが降伏し、28日にはベルギーも降伏した。6月4日、英仏連合軍はダンケルクまで撤退し、全滅直前、かろうじて海に逃れた。そして6月22日にはフランスが降伏する。ヒトラーは緒戦でめざましい勝利を得たわけだ。この本によると、その時ゲッペルスは、『われわれが勝つことはノストラダムスがすでに予言』と叫んで、ノストラダムスの予言詩集『諸世紀』を小冊子にして国民に配布したというんだな。私は『これだ!』と思ったよ。ヒトラーが聖書以外に頼っていた指令の書が、ノストラダムスの予言詩集だということに、この時初めて気がついたんだ」
なるほど、この書の188ページには、ゲッペルス自身がノストラダムス予言集の小冊子を考案したと記されている。
「そこで、私はノストラダムスの予言と、ヒトラーの戦いを重ねあわせてみた。そうすると、こういう予言にぶつかった」
博士が示したのは、第9章83番の詩だった。

太陽が牡牛座の20番目に位置する時
大地は震え、満員の大きな劇場は崩壊し
空気、天、地は暗く濁り
信仰のない者は神や聖人の名を呼ぶだろう

「太陽が牡牛座の20番目に位置する時というのは、占星術的には5月10日を示す。だから研究者たちは、この詩を字句どおり、ある年の5月10日に大地震が発生して都市が崩壊する予言だと解釈している。しかし、ヒトラーが機甲師団をフランス、オランダ、ベルギーへ突入させたのが1940年5月10日だという史実をふまえて、この詩を読んでみたらどうだろうか?機甲師団が進撃し、その前を急降下爆撃機が爆弾を投下する。爆撃と砲撃。突進する戦車。大地は激しく震え、戦塵で太陽の光も薄れただろう。人々はあわてふためき、不信心者も『おお、神よ』と叫んだに違いない」
「すると、満員の大きな劇場というのは、比喩的な意味で、フランスなどの国を表わしているわけですか」
「そうだ。それまで各国の国民たちは、戦雲が拡大し、わが身に迫るのを、まるで他人事のように思って泰平の夢をむさぼっていた。歴史という偉大な劇を傍観していた者たちは、気がついたら、自分たちが舞台の中央にいて頭の上から爆弾や砲弾を浴びていたのだ。そう解釈すると予言の意味が理解できる」
中村は博士の明快な解釈に圧倒された。「いままでにこの詩を、そう解釈した人はいないんですか」
「いない。誰もが“劇場”という詩句に惑わされているからだ。聖書の黙示と同様、ノストラダムスは隠喩を用いて、理解できる人にだけ予言を伝えようとしたためだ。それを、ヒトラーは正しく解釈したわけだ」
「え。そうすると博士は、ノストラダムスの予言が当たったのではなく、ヒトラーが、この詩を読んで1940年5月10日に侵攻を開始したと言うんですか?」
「当然だろう」川尻博士は悠然としたものだ。
「ゲッペルスが緒戦の勝利を、すぐノストラダムスの予言と結びつけて宣伝したというのは、彼もヒトラーも、すでにこれらの予言を知っていたということではないか。でなければ、わざわざ5月10日という日を選ぶ必然性がない。・・・・もっともノストラダムスは、ヒトラーが自分の予言をそのように利用することも知っていただろうがね」」
「滅亡のシナリオ」川尻徹著より

感想
ヒトラーがオカルティストだったのは有名な事なので十分あり得る話だが、このままではあまり面白くないので多少味付けする。また、最後の「もっともノストラダムスは、ヒトラーが自分の予言をそのように利用することも知っていただろうがね」は戴けない。

おまけ