7月28日、厚生労働省「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会」が派遣業務に関する報告書をまとめた。それによると、日雇い派遣と1カ月未満の短期派遣を、一部を除いて原則禁止するべきであるという。早ければ今度の秋の臨時国会に労働者派遣法の改正案が提出される予定だ。1986年に派遣労働法が施行されて以来、派遣労働については規制緩和が続いてきたが、ここで一転して規制強化に向かったわけだ。


 こうした動きの裏には二つの事件が関係している。一つはグッドウィル事件。ご存じのように、同社による違法な派遣が明るみに出て事業停止処分を受けた事件である。もう一つは6月8日に起きた秋葉原の無差別連続殺傷事件である。容疑者である加藤智大が派遣労働者であったことはメディアでも大きく報道された。


 舛添要一厚生労働大臣も秋葉原の事件を受けて、「派遣労働について大きく政策を転換しないといけない時期にきている」「日雇い派遣をやめる方向で考えるべきではないか」と発言していた。いずれにしても派遣労働が格差社会の元凶とみなされ、派遣を規制すべきだという世論が高まってきたことが今回の規制強化の背景にあることは疑いない。わたしは、日雇い派遣を規制することには基本的に賛成である。しかし、今回の規制強化については、どうも納得できないことがあるのだ。

日雇い派遣禁止で発生する失業者をどう扱うのか

 今回の規制強化には大きな問題点が二つある。


 一つは、これまで日雇い派遣で仕事をしていた人をどう扱うかという問題である。実は、似たような状況がグッドウィル廃業の際に起きている。あのとき、派遣労働者の命運が真っ二つに分かれてしまった。直接雇用に変更になった幸運な人もいたが、大部分 ―― 少なくとも半数以上の人 ―― は仕事を失ってしまったのだ。


 当時、ネットカフェ難民の若者の話を聞いたことがある。彼はたまたま別の派遣会社で助かったのだが、周囲の人たちはみな仕事がなくなるといって大騒ぎだったという。


 もちろん、長期的に見れば、日雇い派遣を禁止することは正しい道である。しかし、いきなりの禁止は、短期的に見ると生活が苦しい人の仕事を奪うことにほかならないのだ。こうした人の生活の手当てをどうするか、今回の報告書では触れていない。このままでは若年層の失業者が大量に発生して、さらなる社会不安を呼び起こさないとも限らない。


 わたしが思うに、まず手をつけるべきなのは、日雇い派遣の禁止ではなく、派遣社員の労働条件を一般社員と同等にすることではないか。つまり、彼らの時給を正社員並みにすることを優先すべきであって、彼らの仕事をいきなりなくすことではないと思うのだ。これについては、後でもう一度詳しく触れたい。


派遣労働法を巡る環境は大きく変化した


 もう一つの問題点は、派遣対象業務にまったく触れていないということだ。規制強化するのであれば緩和しすぎた派遣対象業務もまた元に戻すべきだとわたしは考える。


 その理由を述べる前にちょっと前置きをしておきたい。1986年に施行された労働者派遣法という法律は、わたしとは少なからぬ縁がある。実は法律制定当時、わたしは経済企画庁に出向しており、総合計画局の労働班というところにいた。まさに、派遣法をつくるときに仕事をしていたわけで、わたしにも責任の一端がある。その言い訳をするわけではないが、1986年当時の派遣労働の状況は現在とはまったく違っていたのである。


 当時は、口入れ屋というものが幅を利かせていて、労働者を集めて大量に現場に送り込み、高率のピンハネをするということが常態化していた。しかも、そこに暴力団がからんでいることが多かったのだ。そうした実例があったので、派遣労働というものは搾取の温床になるということで、労働基準法で禁止されていたのである。


 だが、時代は変わりつつあった。わたしがいたときの議論は次のようなものであった。「世の中は変化してきたので、搾取される心配のない職種、例えば、通訳やシステム開発など、高い技術を持った人については派遣を認めてもいいのではないか」 ―― 。国際会議があったときには通訳が必要になるが、企業が通訳を正社員として雇用しておくのは大変なコストがかかってしまう。そこで、そうした高い技術を持ち、いわば腕一本で生きていける人に限定して派遣を認めましょうというのが、労働者派遣法のおおもとの考え方だった。


 そうした理念のもと、専門性が高い13業務に限定して派遣労働を解禁したわけである。業務の数は直後に16業務となった。


 問題は、その業務の数がずるずると拡大されたことである。


 1996年には26業務に拡大、1999年にはさらに大きな転換があった。それまでのポジティブリスト(認められる業務を列挙する方式)から、ネガティブリスト(禁止する業務を列挙する方式)に変わったのである。


 その結果、港湾運送、建設、警備、医療、製造を除いて、原則どの業務でも派遣労働が自由になった。ここで禁止された五つの業務は、一般の人ができる業務である。これを解禁しては搾取の温床になるということで禁止したわけだ。百歩譲って、許されるのはここまでであったといえよう。



後編はこちら から。





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