渡名喜庸安・行方久生・晴山一穂 (編著)
『「地域主権」と国家・自治体の再編
~現代道州制批判~』は、
<自公政権>から<民主党政権>にかけての
1990年代からの”グローバル経済型「地方分権」”
の展開(連続性と変容面)ぶりを、
批判的かつ客観的に検討する書籍であります。
今回の記事は、時間的都合から、
そのグローバル対応型「道州制/地方分権
/地域主権改革」についてのまとまった視座を
そろそろ獲得してみたいと思います。
そこで、まとまった見方を獲得するに当たり、
2009年6月に行なわれた
「自公政権下における道州制論の総括
――国家・自治体の再編と道州制」という
シンポジウムで、パネリストとして参加された
渡名喜庸安 琉球大学教授(行政法学)による発言記録を以下に引用することにします。
”3 道州制(導入)の狙いと課題――何が問われているか
(1)国家統治機構の再編
・・・今日の道州制論で注目すべきは、道州制構想が、
広域自治体改革にとどまらない、国の形の見直しに関わるものとして
位置づけられ、
自治体を含む国家機能の新たな再編構想に直接結びつくものとして
打ち出されていることです。
今日、道州制導入を機に
再構築が目指されている新しい政府像というのは、
一方で国の役割を本来果たすべきものにさらに重点化して
グローバル化対応の「小さくて強い国家」=グローバル国家づくりが
目指されていますそこでは、
国が専管事項として果たすべき役割としては何が残り、
それとの関わりで中央省庁がどのように再編されることになってくるか
問われてきます。
(2)自治体の再編
他方で、自治体の再編に関わりますが、
今日の道州制論にあって、内政に関しては
広く地方が役割を担うことを基本とする分権型国家が目指され、
その中で道州が
「ブロック単位での地域戦略」の担い手として構想されています。
「都道府県と市町村の二層制」に代わる
「道州と基礎自治体の新たな二層制」への転換がいわれますが、
分権型国家の下における
国―道州政府―基礎自治体の関係というのは、
国と地方の「明確な役割分担」論に基づく「地域自立体制」の構築にあり、
そこでは、
国の専管事項に属する問題については、
地方は口を出すことができない、
他方において道州は
主に国の地方支分部局から移譲されてくる超広域的事務を
「完全に自立した自治体」として、
また、基礎自治体は
住民に身近な行政を行う「総合的な行政主体」として、
それぞれの専管事項を
自己完結的に行っていくという、
国―道州政府―基礎自治体という
三層の垂直的関係の形成が目指されています。
(3)行政の役割の抜本的見直し
現代の道州制論にあっては、
他方で同時に、
「効率性」の名の下で
職員・議員の削減と自治体行政の民間開放が
セットで目指されています。
この点に関し、日本経団連は
かなり率直に、内政について
広い役割を担う自治体でも
「官の役割をゼロベースで見直し、
規制改革の推進や官業の民間開放、
PFIによる事業実施などを徹底する」ことを主張しています。
こうして見てみると、
道州制論導入を機に再構築が目指されている
新しい政府像の中で
最終的に国の機能として何が残るのか、
これと連動した中央省庁改革が
どのように行なわれるのか、
その政府像が
憲法上の統治機構の理念(基本的人権の尊重、
人権保障のための統治機構)に
適合するものであるのか、
また、国と地方の徹底した役割分担論に基づく
自治体再編
(これは、
国の行政責任の地方への転嫁を合意し、
国民生活のナショナル・ミニマム保障に関わる福祉や医療、
そして
雇用や労働などにおける国の役割と責任の放棄に
つながります)が
政府・行政のあり方や国家責任のあり方として
許容されるものなのか、
さらに、新たな二層制が
憲法の保障する地方自治を実現するであるのか、
そうではなく、
住民自治や地方自治体を解体するものではないか
という、
すぐれて憲法の価値体系そのものが問われている
ところとなっています。
4 今日における道州制論に
どのような観点からアプローチすべきか
今日における道州制論は、
日本国憲法における統治機構の存立理由
=制度議論や
地方自治の制度原理から見て大きな問題があり、
そうであるだけに、
今日の道州制論に
どのような観点からアプローチすべきかについては、
やはり憲法論から検討することが基本になります。
(1)憲法に基づく統治機構の存立目的・行政の役割・国の行政責任のあり方
今日、道州制論導入を機に目指されている
国家・自治体再編の主たる目的は、
憲法により付託された
自治体を含む国家の行政責任を、
民主主義および人権保障といった当然の観点を
否定した行政分野の重点的再編成構想にほかならず、
現行憲法下の国民福祉(住民福祉)の増進のために
果たすべき行政の役割を根本から否定するもの
となっています。
その点、
国民主権、国民の基本的人権の尊重などを基本的原理とする
現行憲法の下では、
自治体を含む国家(政府)の役割が理念的には
国民・住民の人権を保障し実現するところにあり、
そこに政府の存在理由が認められてきました。
我々としては、憲法を基準に、
人権を直接・間接に確保・保障するところに、
統治機構の存立目的を見出し、
その手段として、民主主義の実現を主張すること、
その視点からのアプローチが重要だと思われます。
(2)憲法に基づく自治体の存立目的・自治体行政の役割論
今日の道州制論にあっては、
道州が自治体としての性格を持つことが強調されていますが、
そこでは地域経営的な視点から道州を位置づける論調が
基調となっています。
その点、憲法の保障する地方自治制度の下で
自治体は、民主主義的運営が特に求められる
地方レベルにおける統治団体(行政主体・政治主体)として、
現代社会において
住民が適正に生存していくための権利利益の実現を
存立目的として設置されており、
そのような視点からアプローチすることが
求められてよいように思います。
自治体の政治・行政[=団体自治]は、
住民の合意に基づき自ら決定・策定する[=住民自治]施策として
行われ、
必然的に地域の特殊的な利害や状況に
できる限り対応する形で実施されることになります。
白藤[博行 (専修大学教授【行政法学】)]さんの言葉を借りれば、
自治体の役割としては
「国と相似形でない地域的統治団体」として、
「自治=自立的正統性」と国民に遡る「民主的正統性」が
不可欠であり、
これが規模拡大によって失われることは許されないことになります。
広域自治体としての道州制論は
これら二つの正当性を欠いた「地方分権」論にほかなりません。
(3)道州制論導入と憲法の保障する地方自治の実現の可否
道州制の導入は、
「地方自治の本旨」を実現するものであるか
という視点からのアプローチも不可欠です。
道州制の導入によって、
「団体自治の拡充と住民自治の形骸化の二律背反」が
いわれることがありますが、
しかし、団体自治に着目しても、
そもそも、広域自治体の事務拡大といっても、
地方支分部局事務との関係では、
地方整備局と地方運輸局(国交省)・地方農政局(農水省)
・経済産業局(経産省)・都道府県労働局(厚労省)などが
主たる対象となること
(法務・財務・総務省系の事務は
移管対象とならない)
が予想されますが、移管される事務は、
「国が本来果たすべき役割に係るもの」
(地方自治法2条9項)としての法的受託事務に分類され、
(地方自治法2条9項)としての法的受託事務に分類され、
中央省庁の「権力的関与」の余地を
大幅に確保する方向性がすでに示唆されています。その意味では、道州制の導入は
国がフリーハンドに
地方自治体を統治する地方制度に
つくり直すもの、
換言すれば、
国と地方自治体を
上限関係に置き直す改革である
ともいえるものです。
他方で、住民自治についていえば、
区域的にも人口規模でも超広域的な道州制の下では、
地方自治の核心的要素である住民自治が
実質的に機能しない地方行政体となるおそれが強く、
最終的には住民自身が地方自治体のあり方を決定する旨の
「住民による自己統治」という民主主義の基本が破壊され
後退することになりかねません。
これは、自治体が持っている政治主体としての性格を
否定するものであります。
道州制の導入は、このように
団体自治・住民自治の両側面から見て
大きな問題があります。
(4)府県の役割の見直し
他方で、住民自治についていえば、
区域的にも人口規模でも超広域的な道州制の下では、
地方自治の核心的要素である住民自治が
実質的に機能しない地方行政体となるおそれが強く、
最終的には住民自身が地方自治体のあり方を決定する旨の
「住民による自己統治」という民主主義の基本が破壊され
後退することになりかねません。
これは、自治体が持っている政治主体としての性格を
否定するものであります。
道州制の導入は、このように
団体自治・住民自治の両側面から見て
大きな問題があります。
(4)府県の役割の見直し
以上で、道州が果たして自治体として機能しうるのかについて
触れてきたが、
道州政府―基礎自治体
という新たな二層制の下で、
基礎自治体の自治が
強力な国家権力・道州権力に
圧倒される危険性が出てくることも
想定されるところです。
その点、地方自治の憲法的保障の趣旨、
その中での
[都道府県と市町村という]二層制の意義というアプローチも
重要かと思います。
今日では、道州制が求められる要因
(地方分権の推進、ブロック単位での地域戦略、
広域の圏域における総合的・主体的政策決定)は、
いずれも現行の広域自治体である都道府県では対応できない
という前提に立っていますが、
憲法の保障する地方自治をどのように評価すべきか
という視点から、
市町村自治とともに、
戦後の府県自治の果たした役割を
評価すべきでしょう。・・・”
(渡名喜庸安・行方久生・晴山一穂(編著)
『「地方主権」と国家・自治体の再編 ~現代道州制批判論~』
日本評論社、2010年、P.223―226)
以上に引用させてもらった内容を、
恐縮ながらも、大雑把かつ箇条書きの形で
整理してみたい、と思いますが、
字数制限の都合上、
次回に続きたいと思います。
(つづく)
御協力をお願いします
原発=核廃絶の日までに今やっておくべき事「新規制基準パブコメ」