三大都市に「アベノミクス特区」
=規制緩和や税制優遇―政府検討
時事通信 4月16日(火)11時33分配信
政府が東京、大阪、名古屋の三大都市圏を中心に、
規制緩和や税制優遇を実施する「アベノミクス戦略特区」を
創設する方向で、検討に入ったことが16日、分かった。
17日に開く産業競争力会議(議長・安倍晋三首相)で、
民間議員の竹中平蔵慶大教授が提案。
6月にまとめる成長戦略に盛り込む。
東京都では、都心や臨海地域の容積率、用途規制を緩和し、
都市機能の集積を促進。
また、地下鉄の24時間運行や英語対応の医療体系整備など
ビジネス、観光の利便性を高めて、都市としての国際競争力強化を図る。
大阪府・市や愛知県では、
法人税の大幅引き下げを通した外資系企業の誘致のほか、
公共インフラの民営化を進める。
――――――――――――――――――――――
早速ですが、
村上 博 「道州制と広域行政論」より引用。
”道州制の問題を本気で考えなければならない根拠は、
日本経団連が提唱する
「MADE ”IN” JAPAN」路線から「MADE ”BY” JAPN」路線へという、
経済のグローバル化の中で
多国籍企業型日本の経営にふさわしい統治構造を
つくろうとしていることの中にある、と思われる。
日本経団連の報告書によれば、
「MADE ”IN” JAPN」という言葉は、
日本人が日本国内においてつくり上げた製品を指し示したものである。
しかし21世紀の競争力はグローバルな活動を通じて高まり、
グローバルな活動によってしか
日本企業の国際競争力は高まらない。
このため、国境という概念を積極的に打ち消し、
オープンな環境の中で日本企業の活力を高めることが大切となる。
「MADE ”BY” JAPAN」は、
世界の力を活用して日本が加える価値を意味するが、
技術革新のダイナミズムを高め、この価値を最大化することが
求められる、と。
そこで「福祉国家」の国家構造であった中央集権体制を
解体せざるを得ないことから、
「地方分権」・「地域主権」としての道州制の導入が提唱されることになった。
次に、道州制を
どのような視角で検討するかということが問題となるが、
道州制導入問題が、
経済のグローバル化に対応する日本という国民国家の
変容問題として登場していることを重視する立場から、本稿では、
アジア地域におけるグローバルな都市地域圏の形成という「広域行政論」の視角から、道州制を「内なる国際化」の問題として検討することにする。”
(村上 博 「道州制と広域行政論」
『「地域主権」と国家・自治体の再編』所収 P.134)
次に、
道州制をどのような視角で検討するか・・・・
道州制を「内なる国際化」の問題として
検討することにする。”
という部分は、前回の記事で見ました。
今回は、
「経済のグローバル化に対応した日本国家」
としての「グローバル国家」という言葉が、
いつ登場したか、
その「グローバル国家」路線に沿って
どういう政策が展開されてきたか、
について押さえてみたいと思います。
TPPなど経済連携協定、自由貿易協定
つまりグローバル化政策は、
こうした「グローバル国家」路線の一環であり、
今日の「道州制」論なども、
「グローバル国家」路線の一環でることを、
押さえたいと思います。
岡田知弘(著)
『道州制で日本の未来はひらけるか』によれば、
「グローバル国家」という言葉は、
経団連による造語で、
1996年1月の「経団連ビジョン2020」で
登場した言葉のようです。
そして1996年11月の、
小選挙区制導入後はじめての衆院選で
自民党が大勝し、
自民党単独単独政権(橋本内閣)が
成立するのですが、
6月の時点で橋本龍太郎の自民党が、
「橋本行革ビジョン」を発表していることを、
同書は教えてくれています。
以下、岡田知弘
『道州制で日本の未来はひらけるか』より引用
”選挙に先立ち、自民党が[1996年]6月に発表した
「橋本行革ビジョン」は、
「多国籍企業に選んでもらえる国づくり・地域づくり」を目標に、
六分野での行政改革を掲げたのです。
そこでは法人税率の引き下げと消費税率の引き上げ、
社会保険料等の国民負担の増大、労働法の見直し、
国と地方の行財政権限の見直しが強調され、
地方分権一括法および中央省庁等改革という形で
二〇〇〇~〇一年にかけて
次々と具体化されていくことになります。
ここで留意すべきは、
自民党の「橋本行革ビジョン」が
「経団連ビジョン二〇二〇」の考え方を、
ほとんど踏襲していたことです。
とりわけ、
「多国籍企業に選んでもらえる国づくり、地域づくり」
というキャッチコピーは、
「活力あるグローバル国家」を提唱した「経団連ビジョン」に
対応したものでした。
当時の経団連会長は、
かつての鉄鋼に代表される「重厚長大型産業」の盟主ではなく、
海外直接投資を急速に展開しグローバル企業化への道を
歩んでいたトヨタ自動車の豊田章一郎会長でした。
ここでいう「グローバル国家」とは、
「今や世界経済の主要な担い手は多国籍企業であり、
日本が
世界経済のセンターのひとつとして生き延びようとするならば、
多国籍企業に選んでもらえる国づくり、地域づくりを
しなければならない」というものであり、
そのために賃金、法人税、社会保障負担等、多国籍企業から見ると
「高コスト」にみえる経済構造の改革、
そして「官」のスリム化と「民」への開放を迫ったのでした。
これによって、
賃金破壊や消費税率の引き上げ、社会保障負担の増大、
各種規制緩和がなされ、不況も一段と深化し、
経済条件の破壊と社会保障負担の増大、
同[社会保障]サービスの後退が重なり、
失業者も自殺者数も急増したことになります。
このため、一九九八年七月の参議院選挙では、
橋本自民党は都市部選挙区で大敗を喫し、
参議院で単独過半数を割り込み、
橋本首相は辞職に追い込まれることになります。
(引用者中略)
再び「グローバル国家」路線を強力に推進するリーダーとして
登場したのが、二〇〇一年春に、
「自民党をぶっ潰す」というスローガンによって
自民党総裁で勝利した小泉純一郎でした。
小泉首相は、省庁再編のなかで
二〇〇一年度から発足した首相直属の国家戦略策定機関である
経済財政諮問会議に
日本経団連の奥田 碩(ひろし)会長(トヨタ)らを参画させました。
これによって、
財界の要求がストレートに国家政策に反映することになりました。
経済財政諮問会議が初めてまとめた「骨太の方針」(経済財政諮問会議「今後の経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針」2001年6月)では、
「改革なくして成長なし」と強調し、
不良債権処理を急速に進めるとともに、
「聖域なき構造改革」と称して、
医療、介護、福祉、教育などの分野に
競争原理を導入する
「民営化・規制改革プログラム」や
市町村合併の促進をはじめとする七つの改革プログラムが
提示されます。
小泉「構造改革」が進行途上の二〇〇三年に、
再び財界からの提言が出されます。
この間、経団連と日経連が合併し、
日本経団連が発足していましたが、
その最初のビジョン「活力と魅力溢れる日本をめざして」が
発表されたのです。
ここでは、
「グローバル国家」論をさらにおしすすめ、
「メード・イン・ジャパンから
メード・バイ・ジャパンへ」
というスローガンの下で、世界大で活動する多国籍企業を
支援する国家体制を求めたのです。
具体的には、
①技術革新への支援
②内外資本のためのインフラ整備
③法人税率の引き下げ
です。
それだけでなく、
「官から民へ」「国から地方へ」のキャッチフレーズで、
地方自治体の再編にも口を出し、
「公を担う民の動きをリードする」として、
道州制導入を提言するとともに、
基礎自治体については
政府の合併目標一〇〇〇をさらに再編し
三〇〇に集約することを要求したのです。
そして、行政改革をすすめることによって、
「個人の能力や個性にあった教育、働き方、医療、最後の迎え方が
選べる」社会にすべきだとしました。
ここでは、個人の能力によって、
教育や労働形態、医療や福祉サービス、
そして高齢者医療サービスのメニューを「選択」できる社会制度
にするよう提言していたのです。
最後の「最期の迎え方」は、
後期高齢者医療制度につながるものです。
誰もが公平に自らの生き方を選べるのではなく、
個人の能力、すなわち支払い能力によって
より高度なサービスが受けられる制度ですので、
低所得者にとっては選ぶ自由もなくなることになります。
さらに、二〇〇五年一月には、日本経団連から
「わが国の基本問題を考える」と題する提言が
発表されます。
ここでは、
憲法改正のための国民投票法の早期成立と、
憲法九条および九六条(改正要件)の改正を
まず先行すべきである
としました。
当時、自民党と民主党が、
この一点では一致できると考えたからです。
五年半にわたった小泉「構造改革」は、
基本的には、
これまで述べてきたような
日本経団連の「グローバル国家」論に沿って、展開されてきた
といってよいでしょう。
第一に、多国籍企業、金融資本の利益を最優先してきました。
海外からの投資を積極的に受け入れるための様々な規制緩和や
外資誘致政策、法人企業や個人投資家を優遇する税制改革、
そして郵政民営化も、その典型です。(中略)
第二に、「自助と自律」を基本とした社会保障制度改革を
重点的に行なった点です。
とりわけ医療、年金、介護、保育の面での
「規制改革」と「官製市場の開放」がなされました。
二〇〇二年には
高齢者やサラリーマンの医療費本人負担率を引き上げる
医療改革を決定、
二〇〇三年には
失業給付の引き下げと保険料引き上げを行なう
雇用保険法の改悪に続き、介護保険料を引き上げ、
二〇〇四年には
生活保護費の老齢加算の廃止と年金制度改悪
(保険料引き上げと年金給付額の引き下げ)、
二〇〇五年には
生活保護費の母子加算の縮減、介護保険法の改革による
施設入所者の食費・居住費の全額自己負担化、
同じく施設等利用者の食費・居住費の全額自己負担化と
利用料一割負担を内容とした障害者自立支援法の制定、
そして二〇〇六年には、
所得税・住民税の定率減税を半減したうえで、
老年者控除の廃止と住民税の非課税限度額も廃止し、
後期高齢者医療制度の導入を盛り込んだ医療制度改悪を
行なったのです。
これによって
低所得者、高齢者、障害者家族を中心に
負担が増大するとともに、
福祉行政の分野が、営利ビジネスの市場に変わりました。
そして、一方で
戦後まがりなりにも築かれてきた
社会福祉のナショナルミニマムが壊され、
収益が期待できるところには
グッドウィルに代表される民間企業が参入することになりました。
第三に、内外の大企業が活動押しやすい制度環境の創出が
すすめられました。
すなわち、市町村合併の推進や「三位一体」の改革、
PFIや指定管理者制度、市場化テストなどの手法による
行政の民間化、
そして内外多国籍企業の活動拠点が集中する大都市再生への
公的資金の集中的投下です。”
(岡田知弘(著)
『道州制で日本の未来はひらけるか』 P.30-34)
――――――――――――――――――――
「規制緩和」や
「庶民向け社会保障・福祉の切り捨て」の他方で
「グローバル化」に相関している
「道州制」など「財界向け行政改革」、
また「財界優遇税制」や「財界向け積極財政」など
「財界向けの優遇的経済&財政政策」を
〈経団連〉が『提言』するのは理解できますが、
しかし、「憲法改正/憲法改悪」までをも、
”提言=要求”していることについて、
見逃してはいけません。
今日における「道州制」論が、
「構造改革」と同様にして、
「グローバル経済対応の国づくり」の一環であることが
以上の引用で分かりますが、
この「道州制」論が登場するのは、
もうすこし前に、さかのぼる必要があるでした。
さてそれは、一体いつなのでしょうか。
※ 文中の引用における強調は、引用者
〈参考関連記事〉は、
こちらにリンクをお願いいたします。