「生活保護の"有期化"」と「刑罰国家」化(「貧困」と「刑罰」と「新自由主義」と<その5>) |   「生きる権利、生きる自由、いのち」が危ない!

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徳冨蘆花「謀叛論」を再発見してたら、
「ソクラテスの弁明」が、なぜ好きなのか、最近になって納得し始めた今日この頃です。

新自由主義」政策のもと、
その補完品である「ゼロトレランス(非寛容)」理論が、ネオコン御用学者御用知識人たちによって唱えられるのですが、
その際に、
生活保護の”有期化」と、
そして、それとセットでの労働の義務づけ
――これは、労働法人権に接触するような過酷な労働条件」を強いる論拠となった――とが語られる事について、
今回は、紹介させていただきたいと思います。

そう、今回は、
大阪維新の会」が、「維新八策」に、
新たにつけ加えた「生活保護の”有期化”」そのものについて扱うことになります。


復習も兼ねて、
まず「ゼロ・トレランス(非寛容)」理論とは何かについて、ロイック・ヴァカン教授は、
つぎのように整理・説明してくれています。

”「ゼロトレランス」の理論とは
目ざわりな貧困を警察が観察し

司法が裁くこと
正当化する手段にほかならない

――ここでいう「目ざわりな貧困」とは
人目につき

公共空間でトラブルの原因となったり

不快感を与えたりするような貧困を意味する

このような貧困が蔓延すると、
市民は漠然とした不安を覚え
居心地が悪くなる
という理由で、
都市にふさわしくない目ざわりなものとして
位置づけられる
のである。
ゼロトレランス」の理論は、
ニューヨークから世界中へと
恐るべきスピードで広まった。"
また、その普及にともなって
犯罪に対して「戦争」や
公共空間の奪還といった軍事的なレトリックが
多用されるようになった。
そのため、いわゆる「非行少年」や野宿者物乞い
その他の周縁化されている人々
すべて外国からやってきた侵略者のように扱われ
移民問題治安問題を混同するような発言
よく聞かれるようになった。
移民問題を槍玉に挙げれば
常に選挙で多くの票が稼げることを

政治家たち熟知しているのだ


(引用者中略)

この理論
まったくの一石二鳥だった。
というのも、それは、
国家が
秩序の乱れの撲滅を固く決意している
有権者にアピールするのに
役立つだけでなく

治安の悪化における国家の責任を
誤魔化す役割も果たしたから
であ

この
理論によれば
治安が悪化しているのは、
国家が社会保障や経済政策の領域から
撤退したからではない

原因はむしろ
「反社会的行為の横行する」地区の住民自身に帰せられるのである。”
(『貧困という監獄~グローバル化と刑罰国家の到来~』
邦訳 P.19ー20)


政府が「新自由主義」政策をとり、
その新自由主義政策の一環である、
経済や労働についての「規制緩和」や、
「福祉・社会保障の削減縮小」で、
貧困者や困窮者として、やむなく、
都市空間にふさわしくない目障りなもの」として、放り出された”にもかかわらず、
そうした悲しい発生や続出が無いように、
政策で努めるのではなく、
そうした続出者を、むしろ”侵略者として狩る”という矛盾した措置に、
チカラを注ぐようになってしまっているのだ、と。
その「刑罰国家化政策は、
政府が、自らが招いた貧困化の責任を、
誤魔化すのに役立つばかりではなく、
雇用不安定や、さまざまな不満を、もっている国民の怒りの矛先を、移民――「移民を懲らしめる」――にぶつけるアピールをする事で、人気集め票稼ぎとしても役立つ
という”一石二鳥”な政治的道具なのだ、
と学ぶことができます。

NY市警本部長に昇進するや、
ニューヨーク市警を、
プロフィットセンター」に変えて、
経営化”したウィリアムブラットンは、

”貧しきは罰せよ!”のための<取締まりの徹底化>(貧困と刑罰化とネオリベと<その4>)

目立ちすぎたために、
同じく「ゼロ・トレランス(非寛容)」に積極的な、
元スター検事であったジュリアーニ市長により解任されます。

解任された悔しさから、
自伝まがいの本を書き、
都市犯罪取締に関する「国際コンサルタント」に転身するようになります。

このウィリアムブラットン
また、激しい福祉国家批判論を展開するも、
論理性実証性に乏しい『地盤沈下』などを書く、御用政治学者のチャールズマーレイ
「刑罰国家」化のための”理論的支柱”「ゼロ・トレランス政策」(貧困と刑罰と新自由主義<その3>)

そしてネオコン学者たちにより、
新自由主義」政策の補完品である、
ゼロトレランス理論が、
本場アメリカから
まずイギリスに輸出され
そしてイギリスを中継地として
イギリスからヨーロッパ大陸に
輸出拡大されていきます


この「ゼロトレランス理論が、
アメリカからイギリスのロンドンに、
輸入されるのに、
関わった組織や、特に顔ぶれには、
個人的には、目を見張ります。

「ゼロ・トレランス」理論の
イギリス受け入れ組織は、

○アダム・スミス・インスチチュート
(Adam Smith Institute)
○政策研究センター
(Center for Policy Sundies)
○経済問題研究所
(Institute for Economic Affairs)

1989年に、経済問題研究所が、
”イラク戦争へのアメリカ世論の戦争扇動”を、
ダボス会議で漏らしたメディア王の、
http://www.youtube.com/watch?v=JF9HpuZm6-g&feature=player_embedded
(http://d.hatena.ne.jp/TomoMachi/20090621
ルパードマードックが主導して1989年に、
経済問題研究所(IEA)において、
チャールズ・マーレイの「思想」をテーマにした連続セミナーを開催している、とヴァカン教授は書いています。

イギリスに上陸したマーレイは講演で、
聴衆のイギリス人に向かって、

「廃止するのは無理だとしても、
福祉国家
すぐさま大幅に縮小すべきだ
というのもアメリカは、
1960年代に
<貧困撲滅戦争>の一環として、
貧困層に寛容すぎる福祉政策が行なわれたが、
その結果、貧困層は
自立心を喪失して堕落し、

キケンな<アンダークラス(底辺層)>となって、
いまでは、アメリカの都市を荒廃させているからだ」と主張したのでした
―それを大手紙も好意的に新聞に載せた―。

つまり、
「こうしたアンダークラス>を生み出さないようにするために
そして自立心を喪失させて堕落しないように福祉国家廃止大幅縮小すべきだ
という論理を展開しました。


ちなみに、
忘れていけないのは、
貧困層を路上に放り出したのは
新自由主義政策であるという事です。


そうした文脈でマーレイは、
”「質の悪い貧乏人」は
国家によって厳しく咎められるべきであり、
そのだらしない振る舞い矯正するには、
彼らを公的に非難し
行政上の制約刑罰を厳しくするべきだ”
(P.33-34)
と主張するのでした。

1989年の渡英のほか、
アンダークラス」を槍玉に挙げる大演説を、
1994年の再訪でも、
マーレイが展開するのに続き、
翌1995年に、
経済問題研究所(IEA)のシンポジウムに、
今度は、
ニューヨーク大学のネオコン学者のローレンスミードが、
イギリス人聴衆に向けて、
国家福祉の”削減”」と、
その<国家福祉に依存する人々困窮者>には、
福祉ではなく
ワークフェア就労)」を強制すべきことを、
主張するのでした。
ミードからすると、
働かないことは、政治的行為」であり、
その事から、
政治的に求められている行動就労)を
取らない者に対しては、
権力を行使する必要がある”」
と言うのでした。

そうして、
彼らネオコン御用学者御用知識人たちは、
困窮者>に、就労」を、
市民の義務」と位置づける議論を展開するのでした。

もちろん私たち日本人は中学で、
日本の三大義務として、
納税の義務、
勤労の義務、
教育の義務、
を教わりました。

がしかし、
彼らネオコン知識人にとっての「労働の義務化」には、
予想だに出来ない言葉のウラがあったのでした。

マーレイミードたちが、
ロンドンで、
ゼロトレランス理論を展開するのと
時を同じくして
この「刑罰理論」を
ジョンメージャーが、
イギリスに導入し、
トニーブレア継承発展します。
メジャー政権で、
福祉支出削減され
ブレア政権では「ワークフェア就労化改革が、1999年に行なわれます。


経済問題研究所(IEA)のシンポジウムに足を運んだイギリス人聴衆に向かって、
ニューヨーク大学のネオコン政治学者の
ローレンスードは・・・・

”次のテーゼを説いた。
すなわち、国家貧乏人
経済的に支援すること
控えなければならないが、
他方で、彼らに労働の義務を課し
道徳的に支援する義務がある
という考え方である。
これをトニーブレア
市民の義務」と名づけ

聖なるものとして崇めるようになった。
そして、国家福祉に依存する人々に対する政策を
ウェルフェア福祉」から
ワークフェア就労」に切り替え
辺層に対して、
社会権労働法に抵触するような過酷な労働条件を強いること
正当化したのである

この改革
アメリカでは1996年に

イギリスでは
 その三年後に行なわれた

(引用者中略)

国家がすべきことは、
たとえば一九六七年以来、
下落の一途をたどる最低賃金を引き上げたり、
社会保障制度を拡充したりするなど、
求められる行動を
より魅力的なものにすることではない
むしろ、求められる行動をとらない者を罰することなのだ、とミードは言う。
つまり「働かないこと政治的行為である」ため、
権力を行使する必要」がある
というのである。

わかりやすく言えば、
義務化しなければやり手が見つからないような悲惨な条件の労働を(特に低賃金の労働市場の外で生きる可能性を削減すること
[引用者註≒福祉の縮小・撤廃]によって市民の義務のレベルに引き上げるべきだ
というのだ
不安定雇用の増大は、
経済の必然である」と誰もが言う。
たしかにネガティブな面もあるが、
この現象はイデオロオギー的には中立であり、
物理的にも避けて通れない、と。
しかし、これらの論客に比べて、
ミードが突出している点は、
この不安定雇用の一般化
が、
じつは政治的な強制力を背景に成り立っており

そして、ある階級が準備した計画の一環をなしていることを
はっきりと示した
ところにある。
この計画が目指しているのは
単に国家を破壊し、
万能な市場という一種のリベラルな楽園を作ることではなく、
「母性的な」福祉国家に代えて
「父性的」な刑罰国家を置き換えることである。
この刑罰国家だけが
法的規制を撤廃した過酷な労働条件

二極化する新しい階級秩序基盤

かつ社会規範として押し付けることができるのだ
[という]。”
(P.34-36)

そして、ミードの論文「貧困と人間性に関する議論」などを取り上げて、
ネオコン政治学者ミードが言いたい事を
ヴァカン教授は、つぎのように整理したり、
指摘したりしています。


”この極端なまでにリベラルな社会認識は、
貧困層
基本的な「市民の義務を順守させると同時に
劣悪な低賃金労働を無理やり押し付ける
権威主義的で、父権的な国家の概念と
奇妙に符合する
この場合、福祉事業警察活動は、
同じ論理に従っていることがわかる。
すなわち、その労働者階級のなかでも
欠陥があったり無能だったりする者の行動を管理し矯正するのが、
その目的とされるのである。

(引用者中略)

貧困の主な原因
社会的障壁よりも、
貧乏人自身の行動にあるのなら、
変えるべきなのは
その行動であって、社会ではない
そして何よりも
婚外妊娠を思いとどまらせたり
就労率を引き上げたりすること
重要なのだ。

 このような理由から、
社会政策の方針は、
次第に労働義務化へと転換した
1967年以来、
そして特に1988年以降、
「要扶養児童家族扶助(AFDC)」プログラムは、
保護を受けるますます多くの母親たち(「ウェルフェア・マザー」)
扶助給与の条件として
労働プログラムへの参加を要求するようになった

(引用者中略)
貧困に対する最良の対応は、
給付金を与えたり
放置したりすることではなく
彼らの生活を指導することなのだ。


国家
公的秩序の維持のために

正しい振る舞い方を
市民に直接指導する必要がある。
そして、違反行為を処罰したり
徴兵しなければならない。”
(同 P.35ーP.42)


これが、「福祉国家の縮小・削減」を好む「新自由主義」を肯定したまま、
同時に、あぶれた貧困層を「刑罰国家」化政策でカヴァーしようとする、
いちネオコン思想の了見なのでありました。

なぜ「大阪維新の会」は、
やたらに「財政危機」を煽るのか、
その理由を、
「小さな国家」化、
つまり「新自由主義」化したいだけの辻褄合わせであるように思ってしまうのは、
私だけでしょうか?




(つづく)


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<維新の会>生活保護に有期制 
「八策」に盛り込む方針
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120617-00000005-mai-pol
毎日新聞 6月17日(日)8時30分配信

 大阪維新の会(代表=橋下徹・大阪市長)が
次期衆院選に向けて策定中の「維新八策」に、
生活保護の受給期間を制限する「有期保護制度」を盛り込む方針であることが分かった。
受給者の急増による財政負担の軽減を図るとともに、
維新が理念として掲げる「個人の自立」を促す狙いがある。
23日から始まる「維新政治塾」の第2クールでの議論・成案化を目指す。

 生活保護の有期化を巡っては、
全国知事会などが設置した検討会が06年
働ける世代の人の受給期間を「最大5年とするよう国に提言した。しかし、
「本当に必要な人が受給できなくなる」
「貧困問題の解決にはならない」といった批判が根強く、
政府などで具体的な検討は進んでいない。

 有期保護制度の狙いについて、
維新の関係者は「働かない受給者の中には『生活保護を受けている方がいい』という人もいるのではないか。
自立することが必要だ」と話す。
ただ、八策には具体的な受給期間は明示しないという。

 また、現行制度では受給者が就労した場合、
支給額が給与に応じて減額される仕組みで「就労を阻害している」との指摘があることから、支給額を減らさずに公的機関が給与をいったん預かり、保護終了時に返却する制度も検討する。

 一方、維新が3月に公表した八策のたたき台では、
年金、生活保護、失業対策などを一本化する「最低生活保障制度」を創設して月額6万~7万円の支給を検討するとしていたが、莫大(ばくだい)な財政負担が見込まれるため、金額を削除する。
米軍基地問題については
「沖縄の負担軽減を図るロードマップの作成」を挙げていたが、
八策への記述を見送る方向。

受給者の急増は、
じつは、大阪維新の会」が徹底しようとし
自公政権による構造改革」の下で行なわれた新自由主義政策がもたらしたものであるはずです。
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「『弱者切り捨てはだめ、格差拡大もだめ、競争もだめ』
こんな甘い言葉は本当に危険だ
国家が成り立たない
3月24日、「維新政治塾」開講式での、
橋下徹 大阪市長による挨拶
「しんぶん赤旗」日曜版 2012年4月29日・5月6日合併号より
http://www.jcp.or.jp/akahata/web_daily/html/oosaka-ishin/20120429-0506-n.html