10本目(2月25日鑑賞)


公民権運動とある家族の歴史
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大統領の執事の涙


監督:リー・ダニエルズ

原作:ウィル・ハイグッド

脚本:ダニー・ストロング

音楽:ロドリーゴ・レアン

出演:フォレスト・ウィテカー/オプラ・ウィンフリー/デヴィッド・オイェロウォ/デヴィッド・バナー/マライア・キャリー/テレンス・ハワード/ヤヤ・ダコスタ/アレックス・ペティファー/ヴァネッサ・レッドグレイヴ/クラレンス・ウィリアムズ三世/キューバ・グッディング・ジュニア/レニー・クラヴィッツ/ロビン・ウィリアムズ/ジェームズ・マースデン/ミンカ・ケリー/リーヴ・シュレイバー/ジョン・キューザック/アラン・リックマン/ジェーン・フォンダ


奴隷が認められていた時代。南部の綿花農場で働く父を農場主の息子トーマス(アレックス・ペティファー)に殺された幼いセシル(フォレスト・ウィテカー=成人後)は、農場主アナベス(ヴァネッサ・レッドグレイヴ)の温情で、家の給仕をさせてもらうが、いつかは「ここを去るべきだ」と決意し、精神を病んだ母(マライア・キャリー)を残して街へ出て行った。
盗みに入った菓子店の執事メイナード(クラレンス・ウィリアムズ三世)に認められ、給仕の仕事に精を出すセシルは、ホテルボーイを経て、ホワイトハウスの執事となる。郊外で妻のグロリア(オプラ・ウィンフリー)と二人の子に囲まれて暮らすセシルは、「会話は聞くな」「その場の空気になれ」「相手が望んでいることを読め」という師の教えを忠実に守り、真摯に生きてきた。
多感な時期を迎えた長男のルイス(デヴィッド・オイェロウォ)は、黒人を取り巻く現状と為政者である白人に仕えることを仕事としている父に反感を抱き、南部の大学に通うようになると、次第に公民権運動に傾倒していくようになる。
世の中の矛盾と向き合いながら、アイゼンハワーからレーガンまで、7人の大統領に仕えた男の目が、アメリカの深すぎる闇を凝視する。

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綿花農場、奴隷…よくある光景だったのだろう。

農園主にはベテラン・ヴァネッサ。

いい! すごくいい! そしてとても勉強になる!
予告を観たイメージは、差別という重いテーマを「家族」というオブラートで包んだあったかムービー。ところが思いのほかヘビー。妻を辱められた夫がその男を「みた」だけで撃たれる、という不条理。アナベスの温情も温情と言えるのか。当時は言えたのだろう。セシルは、生きるために「給仕」という仕事を始める。

よき師メイナードを得たセシルは「給仕」の仕事に誇りを覚える。妻と二人の子供を養うことが誇りの証。息子は、黒人を差別する白人のトップに仕える矛盾を責める。妻は息子に言う。「お前が手に入れたすべては、その給仕の働きによって得ているのよ」と。

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親子の確執がひとつの柱。


世界のリーダーを誇示するアメリカ。国内に目を転じると差別の嵐。これが、そんなに遠くない過去の出来事だという。「ヘアスプレー」「プレシャス」「ヘルプ 心がつなぐストーリー 」「42 世界を変えた男 」…近年になっても、いろんなアプローチで描かれる差別。レストランの黒人専用席…ギャグじゃない現実。専用トイレのことは「ヘルプ~」でも「42~」でも印象的に語られていた。間もなく話題作「それでも夜は明ける」も公開。「戦争」と同じ。目をそむけちゃいけない。それを教えてくれる「映画」というメディアの素晴らしさ。ちなみに「プレシャス」は、今作のダニエルズ監督の作品。

「なんにも知識がないし…」という方も大丈夫。前述4本のうち、ひとつふたつ観ている程度で十分理解できる。hiroもそんなもんだった。あとは説明してくれる。観終わると、ちょっとだけ公民権運動について詳しくなった気になる。

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彼らにとっての黒人大統領の誕生は、

我々の理解を超えた衝撃。


主役ウィテカーは「プラトーン」「グッドモーニング、ベトナム」などが代表作のベテラン。監督、プロデューサーとしても活躍。妻役ウィンフリーはタレント出身。スピルバーグの「カラーパープル」にも出演。プロデューサーにまわり、ダニエルズの「プレシャス」にも参加。今作で久しぶりの現場復帰。息子のオイェロウォは「アウトロー 」の刑事。別れた母には驚きのマライア・キャリー。メインとは程遠い役柄に、歌姫の「役者の本気」をみた。
セシルを取り巻く人々も豪華。農場主にはベテラン・レッドグレーヴ、その息子に「アイ・アム・ナンバー4」のペティファー(「アイ・アム~」けっこう好きやったのに、続編はなしなのか…)、お隣さんにはテレンス・ハワード、執事仲間にレニー・クラビッツ等々。
圧巻は歴代大統領をはじめ実在の人物を演じた役者陣。登場シーンが少ないながら、贅沢なキャスティング。以下に箇条書き。

ドワイト・アイゼンハワー…ロビン・ウィリアムス

ジョン・F・ケネディ…ジェームズ・マースデン

ジャッキー・ケネディ…ミンカ・ケリー

キング牧師…ネルサン・エリス

リンドン・B・ジョンソン…リーヴ・シュレイバー

リチャード・ニクソン…ジョン・キューザック

ロナルド・レーガン…アラン・リックマン

ナンシー・レーガン…ジェーン・フォンダ

…レーガン、激似(笑)。

劇中、人種差別にカテゴライズされる実際の事件がさしこまれる。その事件ごとにルイスが関与しているあたりは、やや強引な力技。ただ、おかげでアメリカ史に弱くてもわかりやすい。そこの突っ込みはほどほどに。

音楽の使い方がうまい。音楽は時代を映す。彼らの生きた時代を、ファッションと共に切り抜いてくれる。


「フォレスト・ガンプ」で描かれたアメリカ人の良心。今作はその真裏に位置する負の歴史を、実際に起きた多くの事件を一本の軸に、困難な時代を懸命に生きる黒人の家族の姿をもう一本の軸に描きだす良作。

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hiroでした。



脚本8 映像7 音響6 配役9 他(音楽)8

38/50



…と、ここまで絶賛してきた今作。以下にちょっとだけネタばれと不満を。鑑賞予定の方は読まないでね。


レーガン夫妻に晩さん会に客として招かれたセシルの豹変。給仕する側から給仕される側にまわり、今まで自分がどう見られていたのかを知る。そして、公民権運動を繰り返す息子に突然理解を示す。そのちょっと前に、「父は執事だ」というルイスに、キング牧師は言う。「品格と威厳を持って給仕することで、彼らは戦い続けている」と。セシル自身も「世の中を良くするために仕えている」と。その「静かなる戦い」が彼らの誇りであり、このストーリーの核なのかと。ところが、セシルはホワイトハウスを辞め、息子の運動に身を投じ、黒人大統領の誕生に涙する。執事たちの「戦い」は無駄ということなの? ガンジー、マルコムX、アパルトヘイト…戦闘主義・否戦主義、さまざまな差別との戦いがある。その中で、「執事」の仕事をあえて否定する必要があるのかな…人種差別を目の当たりにすることが少ない環境にいるhiroには、わかってないのかもしれないけど。


凄いよかったのに、最後の最後にひとつの答えを押し付けられるのが、ちょっと苦手だった。


hiroでした。