『冤罪法廷』 | 女子リベ  安原宏美--編集者のブログ

『冤罪法廷』

 前回のエントリーについて、読者の方から「ほんとうに机叩いたりしているのかなあ~」、「検察の取り調べの可視化っていうのも話題になるべきだと思います」とメッセージとコメントをいただきました。

 村木厚子さんの冤罪事件での証拠ねつ造について大々的に報道がされましたが、魚住昭さんの本が出版されてます。帯は緊急出版と銘打っておりますが、かなり追いかけていらっしゃったのだと思いますので、村木さんの事件だけではなく、特捜のほかの事件や、その問題点、歴史的な特捜の位置づけなどの分析と併せて読んでいただきたい本です。警察だけではなく検察官も机も叩いてます。というか裁判で検察があっさり認めてます。(ほかの事件だと机叩いているどころの暴力じゃないむごいのもありますが)、そして検察の取り調べ可視化も話題になるべきだと思います。

冤罪法廷 特捜検察の落日/魚住 昭

 村木さんの裁判で坂口英雄副検事(20年余り検察事務官を務めて副検事に任官したベテラン)の裁判でも尋問。「取り調べ中に机を叩いたことはありますか」という検事の質問に対して。

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 「取り調べ中に机を叩いたことはありますか」

 「何回かあったと思います」

 (略)

 坂口が机を叩いた事実を認めたのは、多少机を叩いたぐらいで調書の任意性が疑われるはずがないという計算が働いたからだろう。少しは不利益なことも認めて、裁判官に証言態度の真摯さを信じてもらうことが大切なのである。

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 ほかのところの証人尋問でも。

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 「そのとき検事は声を荒げたりしたんですか」

 「まあ、個人批判になるんでやめておきます。でも、私が否定すると『そうじゃないだろ!』と尋常じゃない感じでした。こういう調べを警察官がやるのはわかりますが、まさか検察官がやるとは思わなかった。『ウソをつくな!これは事実なんだ!』と机を叩くんですから」

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 じゃあ親切な検事はどうかというと。村木さんの関与を迫るために、関与がないという主旨のことをいっている上村氏に・・・。以下は裁判でも出された被疑者ノートの内容を紹介しているところです。

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 村木の関与について全く聞く耳を持たない。毎回毎回バカバカしい。検事はいつも「ここからは想像でしかないんだけどね」と言って私に聞いてきて、それをパソコンに打ち込み、それが調書になる。いつもこのパターンで架空の調書を作りあげる。「ちゃんと眠れている?」とか「心配事があったらなんでも相談して」とかいうが、調書作成のときには、私の言っていることに耳を貸さない。その割り切りを見ていると、機械のようだ。

 もう無駄なことはやめよう。きちんとした供述を書いてもらえない。また逮捕されて20日間拘置されたら困るから。

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 それで検事はいっしょにトランプで遊ばせているんですよ。こんなことするんなら早くちゃんと取り調べてほしいと書かれていました。

 検事の取調べ可視化も話題になるべきだとコメントいただきましたが、魚住さんは検事調書の「特信性」を問題にしています。

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 第321条1項2号(検事調書の特信性)。被告以外の者の供述を記録した員面調書や検事調書は被告の同意がないと証拠として法廷に出せないが、検事調書に限っては公判供述と比較して「信用すべき特別の情況」があれば証拠として採用できるという規定だ。つまり証人が法廷で検事調書の内容を覆す証言をしても、裁判官が調書のほうが信用できると判断すれば法廷証言を無視できる。

 一般の人は法廷で真実を述べれば調書の内容を訂正できると思いがちだが、現実には検事調書の「特信性」を否定するケースはごく稀にしかない。

 だから検察にとって刑訴法第321条1項2号は有罪判決を得る大きな拠り所になる。とくに物証の乏しい贈収賄事件などではそうだ。

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 こういう有利さがある調書なので、それをどうやって作ったかというのは非常に重要だと思います。ちなみに取り調べメモも捨ててたりするんだけど、そこも追及されています。この事件は、FDの日付のところが大々的に報道されていますが、読めば読むほど、それだけじゃないですね。

 魚住さんが元特捜検事の郷原信郎さんにインタビューをしててそれも掲載していますが、ここで郷原さんが出している「金沢事件」があまり問題にされなかったことを問題にしてますが、私も知りませんでした。これは机を叩くどころじゃなくて検事の拷問じゃない。

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 壁に向かって長時間立たせたうえ、質問に答えられなかったりすると、後から繰り返し腰のあたりを蹴り、額や腹部を壁に激突させた。「豚野郎」「猿野郎」「半殺しにして帰してやる」などと大声でどなりつけながらわき腹やももを蹴った。

 調べがうまく進まないときは、靴のままで正座させ、土下座の状態で首や後頭部を繰り返し踏みつけ、額を床にぶつけさせた。また顔を数十回平手で殴ったため、口のなかから出て血が机のうえに飛び散った。これらの暴行で専務は口や耳、首、腰などに1週間のけがをした。

 郷原が続ける。

 「今から振り返るとあのころから大変なことが起こりつつあったんですね。金沢検事だけの問題ですませてしまわずに、そのときに本当に問わなければならなかったことがあったんです。そうした取り調べが金沢検事に限らず、特捜検察の捜査手法から生まれるきわめて構造的なものではないのか、ということです。」

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 警察白書は机の固定化とか遮蔽板設置をいばって書いてますが、警察どころか検察がこれなんだから、ここからかよ!な状態なのかもあー。机や窓の改善のみで「ご安心ください」と言ってしまう白書の無神経さが余計怖いなあと思いますよ。

 この事件で出てくる村木さんをはじめ、証人の方たちは、ご本人達がかなり優秀だし冷静だとも思いました。防御能力も会話能力も一般の人からしたら、ものすごく優れているほうの人たちだと思います。それでもかなりの参りようです。犯罪を疑われたりする人の多くは、金がない、教育がない、コミュ能力がないといった防御能力の低いひとが多いわけです。「おまえがやったんだ!」と言われたら、「記憶がないし、忘れてるからそうなのかもなあー、こんな怖い現場にいたくない」と思って作文に署名してしまうんでしょう。