『限界集落』曽根英二著 種牛についてメモ | 女子リベ  安原宏美--編集者のブログ

『限界集落』曽根英二著 種牛についてメモ

 北海道、近畿と続けて出張に行ってました。緑あふるる日本の地方であつーっと仕事しながら合間に読んでいた本が以下。

限界集落/曽根 英二

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 2007年に国土交通省がまとめた数字がある。

 ―7878

 全国の限界集落の数である。その調査には「限界集落」という直接的な言葉は使われていない。「国土形成計画策定のための集落の状況に関する現況把握調査」がそれで「限界的集落」という表現になっている。それによると全国の過疎地域の集落で人口の二人に一人が65歳以上の高齢者という「限界的集落」が全国に7878ヵ所存在する。中国地方が一番多く、2270ヵ所。九州が1635ヵ所、四国が1357ヵ所、東北が736ヵ所と続く。(略)さらにもう一つの数字が追い打ちをかける。

 ―423

 向こう十年間に7878ヵ所の限界的集落のうち423ヵ所で集落が消滅すると国は予想している。中国地方では消滅する集落が73ヵ所、やはり全国でワースト一位になっている。

 その中国地方のなかでも岡山県が広島県とともに一番深刻だという別の調査結果がある。

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 なんと、わが故郷ではないか。ぜんぜん知りませんでした。著者は山陽放送の元記者の方。丁寧に追ったルポです。香川の豊島報道で菊池寛賞を受賞した方で豊島のそのあとも書かれています。

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 瀬戸内の島のなかで豊島は産廃と闘ったゆえのまとまりやエネルギーを持続できた島と言える。その豊島にも限界が迫っている。(略)50数軒あった民家も空家が目立ち、32軒になった。65歳以上の高齢者は80%を超えていると住民は言う。コミュニティが機能しにくくなっている。数字からいえば限界集落を通り越して「危機的集落」の範疇にはいる。(略)

 限界状態の集落ではあるが、恒例行事となった「島の学校」に八月末の三日間だけは島の集落が元気を取り戻す。 

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 闘った歴史と勝利が島民を結びつけます。

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 産廃の不法投機と闘った豊島を含む瀬戸内を緑にという「瀬戸内オリーブ基金」の設置に中坊さんと安藤さんが尽力していくことになる。「瀬戸内オリーブ基金」は店先に募金箱を置いて集まった募金と同額を自社からも基金に入れるというユニクロの応援でも知られている。中坊さんも各地で行った講演の謝金などを基金を入れている。基金は二億六〇〇〇万円を超えた。その直島の南部ではベネッセの直島福武美術館財団がおよそ二十年間かけて作り上げたベネッセアートサイトが展開している。(略)

 週末には岡山県宇野港からおよそ二十分で渡るフェリーに観光客の行列ができるほどの大人気となっている。島外から年間三十万人が訪れるアートの島になった。(略)

 宇野港のフェリー乗り場は直島行きと豊島行きが隣り合わせになっている。「ゴミの島」豊島の住民たちの目にも「繁盛する直島」と映る。ひるがえって豊島はまだ産廃の撤去が2008年段階で4割済んだだけで「ゼロに戻る」ことを意味する「産廃撤去」の現状回復に向け、住民は気が抜けない状態が続いている。そんななかで持ち込まれた美術館構想である。(略)

 説明会では豊島選出の町会議員が歓迎を表明、住民も拍手で賛同した。お年寄りの女性が「美術館というのは額がかかってとは思いましたけど、直島を見ても現代美術というのはわかりませんね」と発言して場が一気に和らいだ説明会は二時間あまりで終わった。「楽園ができますよ、楽園がね」福武總一郎さんが歩いて公民館をあとにした。

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 公害で問題化した場所というのは「ゼロ」には戻らない。ゼロになっても「マイナス」になるんだと思います。そこのイメージ転換を必死でやってくれているユニクロや福武はほんとにありがたい企業だと思います。うちの親も“直島の福武さんのホテルはステキだし行かんといけん!”と行ってわりとすぐ行ってました。

  県北はどうなのか。この本で書かれている場所は横溝正史の物語の舞台になった八つ墓村よりも広島寄りの県境のほうですかね。津山は親戚がいて、子どものころ何度かいってそのたびに「祟りじゃー!」(→当時の流行語)親に脅かされてすっかり車に乗せられるの嫌いになったり、私もそういって妹いじめてまたが、あっちのほうは私も行ったことない。

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 田口地区の地神さんが草で埋もれた。高さ八十センチ、おにぎりをそのまま大きくしたような形の岩に「地神」と彫りこまれている地神さんが草むらのなかで顔だけ出して隠れんぼをしている風情。地神の「地」の一部が草からのぞき、ちょうど目のように見える。まるで緑の草のコートを着たキャラクターのよう。宮崎駿さんのアニメ「となりのトトロ」に登場しそうなユーモラスな表情となった。裏を返せばそれだけ草刈りの人手も山村になくなったことを意味している。

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 エコエコ言わなくても緑浸食中・・・。

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 「国は在宅医療を一つの柱に進めて、なるべく入院患者を減らして、家で看てほしいという。医療費の問題もあってでしょうが、現実には家族が、看る人がいない。老夫婦二人の場合、一人が一人を看とるというと、看るほうも相当高齢ですから、大変です。訪問診療、訪問介護があっても、ある時間のことですよ。それ以外は一人で看ているから続かない。施設に入ったり入院したりということが多いですよ。本人が元気がときはいいけど、いったん悪くなるとよほどのサポートがないと無理ですね。(略)

 「往診に来てくれと言われても、午後やることが決まっているんですよ。気軽に動けない。地域医療ということで老人ホームへ定期的に行ったり、介護認定で審査会に行ったり、夜間診療であるとか、学校の健診とかね。そうすると思うように時間がとれないのです」(略)

 「医師不足ですね。若い医師は来ない。都市部のほうが研鑽も積めるわけで、来たがらないですね」

 「診療は医者、薬は別の薬剤所でという医薬分業を国は言うのだけど、こんな山里では処方箋をもらったってどうしようもないんですよ(新見の街へ行かないともらえない)。だから私は薬も出しています」

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 村に行っているお医者さんの言葉です。

 

 そして一番勉強になったのですが、口蹄疫で種牛のことが今話題になってますが、その村の育種家の方の話です。

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 「食べてしまう牛」ではなく、「残すための牛」を産ませる。遺伝的に純粋な牛として固定するため近親交配を繰り返した。めどが立つまで肉に霜降りが入り高値になるコマーシャル牛を産ませる暇はなかった(略)。それでも平田さんは前年(2006)7頭産ませて360万円を売り上げた。おそらく山あいの村では一番稼ぎがあった農家かもしれない、五反や六反しかない農家が米を作っても、一反(10アール)当たり九俵がせいぜいで、一俵が1万2000円だと一反当たり10万円ちょっと一軒で五、六〇万円しかならない現実がある。 略)

 「子牛は単価がよければ45万円はしますね。昔はね、ここらで良い牛というか、雌はね、長屋が一軒立つくらい単価がしていたんです。日本の和牛のルーツはこのあたりだが、それを役人の都合というか、改良によって雌が雑種化してしまったわけです。だから価値のあるものができなくなった。産地としても。やっぱり千屋牛の血液的なものを固めておいて、次にコマーシャルというか兵庫だったら兵庫とかけて」略)

 「限界集落やと山陽放送のテレビニュースで言われたと集落の人は怒るけど、このままならそうなるのやから。このあたりを維持するのは牛しかない。中山間地域で土地もないから、多くは飼えん。飼育ではなくて、産ませる育種しかない。米作ったって知れてるでしょう」(略)

 「日本の和牛が危険な状態になっています。二〇年、三〇年先はどうしようもなくなるでしょう。種牛の数が限られている。雄が全国に三系統しかない。もともとは岡山なのだけど、但馬、第七糸桜の島根系、それに鳥取の気高系です。」(略)

 宮城県立農業短期大学名誉教授の内田宏さんも加わってきた。(略)

 「やっぱりいま経済性の高い牛のほうにどんどんシフトしてしまって、みんな兄弟みたいな関係になってね、生まれてくる子どもが。全国の和牛の状況を考えた場合、平田さんがああいう形で残されているということは非常に貴重なことだと、すばらしいお仕事だと思います。」

 ―和牛の将来?

 「このままでいくとね、やっぱり集団の大きさというか、遺伝的な集団の大きさは頭数がかなり増えたとしても、みんな兄弟とか、そういう形になります。近親の集団になるために、例えば繁殖が悪くなるとか、あるいは体が小さくなるとか。集団全体を維持することに非常に弊害が出てくることが危惧されます。そういう意味で、希少系統を各地に残しておくことが大切なんです。(略)」

 行政が平田さんの蔓牛を支援しようとしないことについて聞いた。内田名誉教授が言う。

 「やっぱり行政は農家経済をどう守るかという視点が優先しますから、系統を守るとかいうことは、むしろ登録団体がやることかな」(略)

 「ええ、行政か、そういうところが認めてくれたら若い人が、後継者が育つと思うんですが、補助金とかも行政が蹴ってしまうから同志が増えんのですけ」

 「集団全体としてはどれくらいです?」

 「3人しかいないです。長野のもいます。全部で40頭でしょうか。第4安槇にふくさかえをかけて雌を出すと最高値だったとか、そういうのがあります。畑(雌牛)をこしらえておいて、時のニーズに合う種雄牛をかけるというのがね」

 「経済的に一方で系統を守るというのはなかなか大変ですね」

 「僕らの雌の系統は元治元年から、どこからどこへ行ってと、家がみなわかるんです。そんな系統は日本全国にいないと思いますよ。特許のようなものが取れんかと」

 「それは可能じゃないかな。特許の話はおもしろい。検討に値しますよ」(略)

 「(長野の牧場には)平成三年に竹谷蔓を買ってもらったんですから、いま16年」

 きっかけは何ですか、と内田名誉教授に聞かれて平田さんが答える。

 「山間地域を守るには、僻地ですから、少ない頭数で高利潤を上げるには血液が売れんとね。種畜の生産でないと生き残れないと思うんです(略)」

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 今回の口蹄疫の件は残念でしたけど、山田大臣もと畜産農家だからこういった種牛育成もよくご存知ではないかと思うんですよね。ぜひ系統保守についても力入れてほしいなと思います。僻地は育種を守るという意味では交流が遮断されがちだから限界的な集落になっているわけで、病気の発生や拡散というリスクは低いんじゃないかな。生産者のお金になると思うし。救える集落もあるかもしれない。

 サシ入った肉もおいしいですけど短角牛なんかも赤身がおいしいということで人気も出たわけでヘルシーだし、味の面でも競争力があるしいいんじゃないかと思います。

 あと北海道で思ったんですけど人口が減って山間部が広がるということは獣害等も言われるようになると思うんですけど、そうかもっと食べりゃいいんじゃないかと日本全国で。北海道ではエゾシカキャンペーンをやっておりまして、おいしいといわれる部位をいただいたんですけど、おいしかったです。串焼きでシンプルな料理法でしたら赤身がほんとにおいしかった。

http://www.ks.hkd.mlit.go.jp/road/etc/shika/shika_top.html

 「野生動物は交通ルールを知りません」

 釧路ではエゾシカとの車や鉄道との衝突事故が多発。衝突マップが作られています。禁漁区の国立公園内でも増えていて、困っているそうです。オオカミを放すという案はほんとに検討されてるみたいなんですが、オオカミ増えすぎるほうが怖いんじゃないかと。マングースの二の舞になりそうな予感。みんなで食べたほうがよいのでは。おいしいし。赤身ですけど私が食べたものはクセも少なくかなりさっぱり。フランスのジビエだと鼻血でそうなくらい濃い!って思いますし、黒ブータンとか私は無理なので、その平民並みの私でもオッケーなので、使いやすいんじゃないかと思います。