児童虐待はなぜ減ったか。 | 女子リベ  安原宏美--編集者のブログ

児童虐待はなぜ減ったか。

 児童ポルノの単純所持が国会でコントみたいになっているようですね。

 ついこの間、たまたま浅利慶太著の「時の光の中で」(劇団四季主宰者の戦後史)読んでいたんですが、ミュージカル「ウエストサイド物語」の日本招致のために、外貨枠が必要で、当時NHKと朝日しかなかったんたんで、どうしよう・・というところを興味深く読ませていただきました(読んだあとで検索したら、小沢一郎も同じ感想を書いてた)。田中角栄さんがおもしろい。角栄さんの采配で公演できたわけなんですけど。

 http://www.shiki.gr.jp/hikari/

 「ウエストサイド物語」って、よーく考えてみなくても、不良の内部抗争の話なわけで、サブカルですし、反対もあるわけですよ、あんな不良の物語に~~良識派キリッ!みたいな。今現在は、みょーな保守化した親父達も当時は戦ったわけで、私が今の自民党がいかんなーと思うのは、そういう部分の現実的な自民党の歴史がぜんぜん今の議員の人達に伝わってなくて、非常に軽くなってしまっているんじゃないかなあ・・と。

 政治家や実業家がたくさん出てくるある種「表現の戦後史」で、演劇やミュージカルに興味ない人こそおすすめ。小澤征爾ボイコット事件もおもしろかったよ。中曽根さんはやはり昭和天皇とベルリンオペラ来日のところにコメントしてますね。国会で変なエロ議論しているんだったら、この本ちょっと読んでみたらどうでしょう?政治に希望が持てると思うよ、議員さん「が」。

 さて、せっかく、児童ポルノの議論が出ているし。もう少し概念を広げてみると、児童への性的虐待の話ですよね。ちょうど浜井浩一先生の新刊を紹介しようと思っていたので、関連する部分を。詳しくはぜひ本を読んでください。

家族内殺人 (新書y)/浜井 浩一・編著

 この本の帯は「家族内殺人は激発していない!」なのですが、私自身も以前本を作ったときに「犯罪は増えていない!」という帯よりも、本当は『なぜ犯罪は激減したのか!』なんだけどなあと思ったことがあります。ただ、その答えとなる分析が本にあるかというと、実はないので、まあいっかと思ったのですが。

 で、この本は帯は「増えてない!」という文言なんですが、実際には「なぜ減ったのか」という分析を書いているところです。

 なぜ、減ったのか、それは「中絶の合法化」・・・。

 長期的な「犯罪減少」の理由として、よく言われるのは「経済成長」でして、それもまあもちろんそうなんですけど、「激減」ですから、「経済成長」だけでは少し弱い説明になってしまう、と。「ヤバい経済学 /スティーヴン・D・レヴィット/スティーヴン・J・ダブナー 」も出版されていたので、そういうことをおっしゃる論者もそのうち出ていらっしゃるだろう、と思っていたんですけど、今のところは日本に引きつけて話している人は、いなかったように思います。なかなか言いにくい話なのかもしれませんね。「犯罪不安社会」を出したときにも「ヤバい経済学」は出てたので、「なんで減ってるんですか?というところは書いてないですね」という批判や感想はあるかなあと、あるといいなあ、と思っていたんですが、私が記憶する限りは1名でしたかね。

------

 殺人(1~5歳の幼児殺し)、嬰児殺、強制わいせつはいずれも減少していることがわかる。なかでも嬰児殺は、戦後直後の1948年をピークに50年代において、激減、その後、横ばいで推移するも、80年代初頭から現在にいたるまで、一貫して減少している。1948年以降の激減については、同年の優生保護法の施行によって、望まない嬰児殺の劇的な減少につながったと考えられている。現在はピーク時の約18分の1まで減っている。

 殺人(1~5歳の幼児殺し)と強制わいせつは1970年代に大きな山を確認できる。これは団塊ジュニアの幼児の増加によるところが大きいと考えられる。その後、80年代に減少して、90年代以降はほぼ横ばいで推移している。~第3章 「データから読み解く子殺しと児童虐待」津島昌寛(龍谷大学)

------

 終戦直後の第一次ベビーブーム期において、嬰児殺が最も多く発生していた。この時期の嬰児殺に関する植松(1951)の研究によれば、近親相姦によって生まれた赤ちゃんの殺害が総数の26%にも上り、加害者のうち21%を男性が占めていた。しかし近親相姦による嬰児殺はその後、減少し、最近のほとんどの嬰児殺は女性による単独犯で行われるようになっている。

 第一次ベビーブーム時期以降、一定の条件下での中絶が合法化されたこと、出生数が減少したことなどによって、嬰児殺も減少したが、1960年代以降、第2次ベビーブーム時期には再び嬰児殺が増加傾向を示している。

 当時、マスコミは、母親たちの母性喪失によって子捨て、子殺しが増加していると報じた。これに対し、当時の新聞記事の言説を分析した田間(2001)は、マスコミは子どもの命に関わる全責任を排他的に母親のみに帰属させ、父親の無責任状態を許容しようとしていたと批判した。~第4章 嬰児殺の動向と背景を考える 近藤日出夫(千葉少年鑑別所)

------

 「中絶の合法化」は、どう決まったかというと、昔読んだ本なので、あんまり覚えてないのですが、日本では戦後で食べるにも大変な時期でして、産めよ増やせよの反動で、より大変なことになっていたので、あまり議論の余地なく、国会では割合すっと決まったんじゃなかったかな。

 欧米のように戦って勝ち取った権利ってかんじじゃなかったと思いますので、今でもあんまり話題にならないというか、アメリカみたいに産婦人科が放火されるような話題になってるほうが困る気はするんですけど、知ってはおいたほうがよいような気がします。

 結局、山本さんや浜井先生などの本を読んでると、中絶と刑務所が「福祉最後の砦」ってなんだかなあと思いますが。

 全体の本の感想ですが、本のコンセプトとしては、現場の実務をよく知っている方が、研究論文ではなく、一般向けの読みものとして、わかりやすく書かれている本ということですが、現場の実例などは、個人的な感想かもしれませんが、書き方の踏み込みが“おそるおそる”“あたりさわりなく書きたい”という印象を受けました。もちろん、こういった本をお書きになる方は、プライバシーには配慮しないといけないのですが、新聞記事を中心の分析だと、「せっかく現場の方が書かれているのに・・・もったいないかなあ」と思う部分もありました。でもこれ、きっと草薙厚子さんの事件などで、現場が委縮している部分が出てるんじゃないかなあ~。