地球温暖化は止まらない | 女子リベ  安原宏美--編集者のブログ

地球温暖化は止まらない

 「地球温暖化は止まらない」読了いたしました。おもしろかったです。

地球温暖化は止まらない/デニス・T・エイヴァリー


 この本の主旨は、「温暖化」は人為的なものではなく「1500年の気候周期である」です。専門的な話だけではなく、コメント欄でも書かれていた「二流の温暖化論」への反論を何百という証拠をから引用して反論しています。
 本を読んでびっくりしたのは、訳者の山形浩生さんも書かれているように、IPCCが中世の温暖期や小氷河期を否定しようとしたこと。えーーと思いました。ちなみにIPCCの第四次報告書では“やっぱりあった”ってことに落ち着いてるそうです。おいおい大丈夫かね。
 あと、ちと寒気がしたところは、「人為的温暖化チーム」によると「窒素肥料まで、敵なのね」ってところが、ぶるぶる。以下「種の絶滅」について書かれているところです。
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 UNEPも20世紀終盤の絶滅率は16世紀以来最低であったと述べている。


 種の消失が減った大きな理由は、気温とは無関係だ。関係しているのは農業の発達である。1960年以降、高収量品種、灌漑、化学肥料、農薬が世界の優良農地の収量を3倍にふやした。人間は低収量作物のためにあまり多くの土地を切り拓かなくてもよくなったのだ。
 
 皮肉なことに人為的温暖化が膨大な数の種を破壊すると主張する環境団体の多くは、農業における緑の革命と窒素肥料に反対しているが、これはいずれも大規模な森林破壊を未然に防いできたものだ。

 もっと悪いことに、京都議定書は現代技術(窒素肥料を含む)のエネルギーのコストをかなり引き上げる可能性があるため、発展途上国の経済成長と農業の発展は不可能になるだろう。

 そして生物多様性に鍵になる地域で自給自足する10億人の農民はゴールデントードだけではなく、はるかに多くの種を不必要に脅かすことになるのだ。


 現代技術はまた、人類最強の環境保護ツールだった。何千年にもわたり、人類は野生生命を収奪し続けていた。そして農業を発明し、世界のよい土地のほとんどを自然から取り上げて、耕作や放牧地にしてしまった。同じ広さの農地でとれる食物の量を増やせるような高収量農業を世界が採用したのは過去ほんの50年ほどだった。そして高収量農業のおかげで、森林が何百万平方キロも伐採されずにすんでいる。天然ガス燃料によって空中から捕捉される窒素がなかったら、世界に残った森林をすべて伐採して農地にしなくてはならない---それもいますぐにでも。

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 たとえば有機農法が好きな人は「虫がついてるくらいが自然の状態だから望ましい」という言い方をしますよね。そこまでなら、別にいいんですけど、ちびっとの「残留農薬」でさえ許すまじという方向に行きがちな人もいますね。

 コメント欄で「虫が嫌いです」って書きましたけど、「虫がどれほど怖かったか」、せっかくなので日本のお話もご紹介しておきますね。「魔の系譜」谷川健一著から抜粋。

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 大蔵永常の『除蝗録』(じょこうろく)は稲の害虫を駆除するのに鯨油使用を力説したものとして画期的なものであるが、そのヒントになったのは、享保十七年の飢饉のとき、筑前の某が自分の屋敷に安置した管廟に詣でて蝗を除くことを祈っている最中、灯をささげようとするときに蝗がおびただしくむらがって灯明の油に飛びいって死んだ。これを見て油が蝗にとって大敵であることに気づいた-----そのことをもとにして永常が鯨油の使用を考え出したということになっている。

 この蝗はウンカのことで、享保の飢饉はウンカの大量発生が原因であった。もっともイナゴに蝗の字をあてるのは、イナゴは虫の王と畏怖されるほどの害を及ぼすからだと私は勝手に解釈している。人皇に対して虫皇ということになるが、人間が作物に害を与えるものを畏怖尊崇するのは、たとえば、薩摩七島のなかの島々が一切を食い尽くすネズミを、ネズミさまと神格化してあがめたてまつっている心理を同じであろう。『拾推雑話』は若狭では、蝗を善徳虫と呼んでいると述べてあるのもこれと関連があると思う。

 その説明には「むかし名胡村に善徳といいて銀をたくわえ独身のものありしをひそかに殺せしとなり。この亡魂、虫となり近郷へ害をなす。ゆえに善徳虫というよし」という縁話がついているが、要するにウンカに善徳という名をたてまつって、すこしでもその害を逃れようとする苦肉の策と考えるべきである。

 堀一郎が、享保17年の大干ばつに百姓から出した「虫どもへの訴状」というユーモラスな文書を紹介しているが「わが国民間信仰史の研究」)、それによると、
 「こんど虫森祭と名づけ、役人より木1本ずつ出植え、虫飯として祭り候あいだ、この森へこどごとくあつまり候へ、後年作物をさわり申さずと候へば、二季に両度祭り申すべき、なおまた虫ども仏縁のため、このたび僧方あいたのみ、百万べん御念仏執行仕り候」(とある)。

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 「虫のための木を植えて、祭りをしよう。頼むから作物に触らないでくれとお願いしよう。虫さんの往生のためにもお坊さんを呼んで、念仏唱えてもらおう。」

 という訴状ですかね。祈るしかなかったのですね。

 魔の系譜 (講談社学術文庫 (661))/谷川 健一

 ちなみに上の本、アニメ「蟲師」が好きな人はおもしろいかも。


蟲師 二十六譚 DVD Complete BOX/増田俊郎