赤木智弘さん、出版おめでとう | 女子リベ  安原宏美--編集者のブログ

赤木智弘さん、出版おめでとう

  赤木智弘さんの新刊若者を見殺しにする国―私を戦争に向かわせるものは何か」 読ませていただきました。

  ものすごく的確だと思いました。いやほんとにきれいにまとめてるし、おもしろいです。

  80~90年代をひきずっている人文系リベラル論者は基本的に「消費者」の視点から書かれていますが、赤木さんは「消費者の視点との労働者の視点」(両方からの搾取といってもいいです)をきちんと捉えているなあーと思いました。消費者であり、労働者である両方から逃れられない私たちから見てどちらが現実を捕らえているかという言わずもがな、だと思います。

 例えば、アマゾンのレコメンデーションシステム等をとって、「宿命を求める」などという論者もいますが赤木さんは「それ誰が作っていると思ってるの?」という視点をきちんと射程に入れてるということです。赤木さんにしてみりゃ、そんな「宿命」なんて笑い飛ばすほどの宿命に相違ありません。そもそも「ウェブを閉じればいい」だけの話に「宿命」なんて言葉は似合わないですしね。そしてこうした人間が彼を“ネオリベだ、ルサンチマンだ”と叩くわけです。それがまさに“階層”から自由になってない証左でもあると思うわけなんですが、そこが赤木さんに“左派の偽善”といわれるとこなんでしょうね。・・・でこう書くと、「情報社会が若者を搾取するんだ」的な言い方する人もいるんですが、成熟社会っていうのはある種の「無駄」を作りつづけないと雇用は生まれないと思います。その「雇用形態や条件」がきちんとしてれば、私は問題ないというスタンスです。赤木さんもきっとそうでしょう。だから赤木さんが八代に賛同するのもわかるんですよ。もちろん八代のまんまの「愛知に行け!」は困るけど、「愛知にこうこういうきちんとした仕事と職場を用意しましたから、行ってみてはいかが?労働者としての権利も守らせます」ならいいわけですよね。

EU労働法政策雑記帳さまのレビュー、なるほどなあーさすがだなあーと思いました。
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2007/10/post_c3f3.html

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 それは全然無茶ではないのです。
 そこがプチブル的リベサヨ「左派」のなごりなんでしょうね。「他人」のことを論じるのは無茶じゃないけど、自分の窮状を語るのは無茶だと無意識のうちに思っている。逆なのです。「カネくれ!」「仕事くれ!」こそが、もっともまっとうなソーシャルの原点なのです。それをもっと正々堂々と主張すべきなのですよ。

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 私なんかがこれ以上のことを言うこともできないんですが、あの変なふうに聞こえるかもしれませんが、私は最初の「論座」の赤木さんの論考読んで、エミネムみたいなかんじだなあーと思ったわけですよ。・・・っていうと、「えーーーー!誉めすぎじゃん」と言う人もいるんですが、でも、そうかなー、いってること同じようなものですからね。レズビアンやゲイを叩いて問題になったのも似てるなーと。で、彼もここを叩くことも含めないと、その「偽善」を炙り出せなかったという背景もわかるんですよね(余計だと言われることもわかってて)。

 エミネムの衝撃のメジャー・デビュー作、600万枚売った『スリム・シェイディ/エミネム 』からの「IF I HAD」の歌詞の一部です。

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 (略)
 小銭を借りまくる生活なんて嫌なんだ。
 アホどもに荒らされるのは嫌なんだ。
 時給5ドル50セントの仕事しか出来ないなんて嫌なんだ。
 ボスからいつもバカにされてさ。
 いつも咳きをしたり屁しただけでクビになるのは嫌なんだ。
 ガス会社の工員みたいな仕事や嫌なんだ。
 なんだが身体もガタガタだよ。
 ブラスチックの食器で仕事をするなんてもう嫌だ。
 四角いビルで働くのはもう嫌だ。
 大金持ちになれない生活なんてもう嫌だ。
 だけどもしも大金持ちになったら
 ビール工場を買い占めて
 地球全体を酔っ払いにしてやりたい。
 (略)
 デカいケツが欲しい。
 世界中のヤツらにキスさせるくらいのね。
 みじめでかわいそうな
 ホワイト・トラッシュって呼ばれる生活はもう嫌だ。
 ドラッグの話ばかりじゃうんざりだ。
 電話のない生活なんて嫌だ。
 家のない生活なんて嫌だ。
 BMも運転できない生活なんて嫌だ。
 GMで仕事ができないなんて嫌だ。
 (略)
 見栄をはるのは疲れはてたよ。
 いつも金がなくて
 銃で埋め合わせをする生活は嫌なんだ。
 ジロジロ見られるのは嫌なんだ。
 いつも同じナイキ・エアの帽子ってのも飽きたし
 同じかっこでクラブに出入りするのももう嫌だ。
 (略)
 俺の半分の実力もないラッパーが
 お前の言いたいことわかんねえななんて言うのは
 ムカつくんだ。
 (略)
 わかるでしょ?
 ポジティブになれなんて
 おためごかしはうんざりなんだ
 ポジティブっていうのがどういうことなのか
 よくわかんないのに
 どうやってポジティブになれっていうんだよ
 わかるでしょ?
 (略)
--------------------訳 栗原泉

 「ホワイト・トラッシュ」を「フリーター」に変えてみたらどう?

 エミネムはこうも叫ぶわけです。
 「うまくいかないかってずっと願ってた。だけど仕事もぜんぜんなくて、俺はいつも空腹で、栄養失調みたいで、こんな家住んでるのに家具も何もなくて、クソ安い未来のない仕事しかできないのなんて、うんざりだ。雇われた日とクビになった日が同じなんてそんな生活は繰り返したくない。『ROCK BOTTOM』より」
 もちろんお下品お下劣な歌詞もたくさんありますが、けっこう“健全”で“正々堂々”と“人間らしくきちんと金稼いで仕事したいんだよ”と歌うわけですね。

 ちなみにゲイやレズビアンへの差別を助長しているといわれるエミネムと共演することを決めたエルトン・ジョンには同性愛団体は失望の意見を以下のように表明しています。わかります?このねじれた構図?

http://www.barks.jp/news/?id=52221033

 

 そいで「赤木さんの言うてることエミネムと変わらないじゃない?」っていうと誰も賛同してくれないことについて、ふたつ気が付いたことがあります。普段は「サブカルからの文化論」や「欧米では~」や「プア・ホワイト」が、大好きな日本のリベラルは多いのになあ・・と。ブラックミュージックやHIPHOPやラテン万歳の人たちは思想系にも多いしょう。遠く世界の裏の貧乏人のことには萌えても、近くの貧乏人は生過ぎてキツいのかもしれません。“デトロイトのラッパー”は絵になるし、かっこよく書けるけど“北関東のコンビニフリーター“でなおかつ“赤木さん”はかっこ悪い、イケてる文章は書けないってことなのかね。赤木さんの著書では「かわいくないから」と書かれていましたが、もし、赤木さんが沖縄の基地で働いているフリーターだったら、どうなんだろうね、左派。

 もうひとつ。

 まるで逆の視点の話。エミネムのデビューアルバムは600万枚売れたわけです。そこまで「売れる」っていうのってすごくないかい?それだけ共感を得てしまう社会ってどうなの?と思います。圧倒的な大カリスマです。でもそれだけ売れてもアメリカはすさまじい格差社会のまんまだし、移民増大という現象とともに文化資本の階層格差は進み、宗教は盛り返して、ぐちゃぐちゃになって、コミュニケーションが分断してしまっているのではないかと思います。でも日本は変な話、たかだか2万部の「論座」1本の記事で、これだけの論者の間で「問題」になるわけです。そういう意味ではこの“同調性”と“そこまで売れてない”(→本人には申し訳ないけど)のはマシなんじゃないかと思う部分もあります。日本に「希望」はあるのかもしれません。

 赤木さんの功績は言葉に出さなくてもブログに書かなくても「怒ってもいいんだ」ってROMってる人にわからせたことだと思う。「希望は戦争!」の次は「気分は徴農!」でもいいんじゃないかと思ってたんだけど、すでに書かれてましたね。さらなる「偽善」を暴けばいいと思うわ。

 とりあえず執筆お疲れさま、出版おめでとうございます。応援エントリーでした。(→煽りすぎ?)

若者を見殺しにする国―私を戦争に向かわせるものは何か/赤木 智弘