「水と健康」 | 女子リベ  安原宏美--編集者のブログ

「水と健康」

どうも最近「食の不安」を騒ぎすぎなんじゃないかと思います。「水の安全」も気になる人が多いようです。ここにつけこんだ詐欺商売もいろいろあるみたいですね。人間にとってなくてはならない「水」につけこんで恐怖をあおったり嘘をついたりするのは私は許されないことのように思うんですが。

良い本があったのでご紹介します。水と健康―狼少年にご用心 (シリーズ・地球と人間の環境を考える)/林 俊郎」 という本です。とてもわかりやすく、「水」に関わる問題で何が重要かを書いています。
本の文章の前後を入れ替えて編集してますので、興味のある方はぜひ本書をお読みいただければ幸いです。

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トリハロメタンという物質の名を耳にしたことのある読者も多いだろう。水道水汚染の話ではこの物質をこわがる人がずいぶんいる。

 トリハロメタンの名さえ出せば市民は震えあがり、浄水器が飛ぶように売れるらしい。長引く不況もあってか訪問販売の苦情相談が相次いでいる。神戸市生活情報センターの苦情実態調査によると、訪問販売の品目として、学習教材、新聞に次いで浄水器が三位を占める。マルチ販売でも健康食品、化粧品に次いで浄水器が第三位。

 消費者被害の実態は水の安全に向ける人々の恐れがいかに大きいかと物語る。その典型がトリハロメタンの恐怖だろう。

 トリハロメタンの名が世に登場したのは1972年のこと。オランダのルークがアムステルダム水道水の水からトリハロメタンの一種クロロホルムを検出し、それが原水に含まれず水道水を塩素消毒したときに福生することを確かめて報告した。

 74年には米国のハリスらが「消費者レポート」に「水道水は飲めるか?」と題する論文を載せ、ミシシッピ州ルイジアナの住民にガン発生率が高いのは水道水に含まれる有機物ではないかと推測した。

 ルークとハリスらの警告をきっかけに水道水の安全性についての調査研究が各国で進められた。疫学研究も行われ、がんと水道水の関わりについてのデータは蓄積されたけれど、関連があるとする結果と、ないとする結果などバラバラだった。またハリスらのデータ解析方法に問題があると指摘する人もいた。

 米国環境保護庁(EPA)はこうしたデータを精査したうえ、「水道水中のトリハロメタンによる発ガンを証明した結果はない」という見解を表明した。

 いっぽうWHOは「塩素消毒が不十分なため、途上国によっては1日に数千名の犠牲者が出ていることを考えると、塩素消毒の徹底こそが必要である」と「飲み水の塩素消毒の徹底」を勧告した。


 (しかし)微量とはいえ長年の摂取で体内にたまったトリハロメタン類が自分だけでなくこれから生まれる子どもにも重大な影響を及ぼすという話は市民の不安をかきたてる。

 しかしトリハロメタン類は脂肪にも溶けるが水にもかなり溶け、クロロホルムなら常温で水への溶解度が7g/lを超す。体に入ったトリハロメタン類はそのままたまりつづけるのだろうか。物資ごとに微妙な差はあるが、たとえばクロロホルムは腸管から吸収された血液中に移り、70-80%が肺から呼気に出る。代謝されたクロロホルムも最後は二酸化炭素になって排泄される。また、塩素などハロゲン元素はトリハロメタンから遊離してイオン形になり、尿に出てしまう。こう見てくるとトリハロメタン類に残留性や蓄積性が高いというイメージもない。


 日本の水質基準はWHOよりも厳しい。その理由は日本のかなり恵まれた水源にある。日本は汚染度の低い上流で取水し、下水を海に放流するシステムをとっている。それにひきかえ欧米の河川は長大だから日本のようなシステムをとれない河川が多い。ライン川などは最たるもので、河口にあるオランダは上流にある各国の排出した下水道水を水源にすることとなり、汚染度は日本人の想像を絶する。日本と欧米各国で水源の汚染度は比較にならない。各国の水質基準はそういう現実をもとに設定されている。


 (たとえば)コレラは昔の病気ではなく、いまなお発生している要注意の水系伝染病だ。1991年のペルーでは2万7千人の患者が登録されて2664人が死亡し、以後の3年間で約1万人が亡くなった。塩素消毒したら発がん物質のトリハロメタン類ができる・・・という話におびえたペルー政府が飲み水の殺菌をやめたのが原因だった。何の実害も認めらない物質に対する恐怖心が本物の恐怖を生み出した典型だといえよう。


 2003年3月に京都・大阪・滋賀で「第3回世界水フォーラム」が開かれ、21世紀最大の課題である「水問題」を考えようと、180カ国からおよそ1万人が参加した。オープニングの基調講演でユニセフのベラミー事務局長が「子どもの生存と健康はきれいな水、適切な衛設備と切っても切れない関係にある」と強調している。

 飲み水の安全に関する分科会で日本でいうところの『クソ(糞)』という用語が相次いで飛び出し、クソが国際語になったかの感があった。発表者は大きなスクリーンに人糞のリアルなイラストを映し出しながらヒトの糞こそが飲み水を汚し、人々の生命を脅かしてきた張本人だと訴えた。

自分たちのほうが汚いと。

 「水問題をめぐるマスコミの誤解」と題する分科会では「マスコミは“水戦争”や“化学物質(環境ホルモン)”による水質汚染の脅威」といった刺激的なことばかりとりあげるが、それは水問題の本質をぼやかすものだ」という専門委員からの意見が相次いだ。そして「ヒトの出すクソが、水を介してどれほどの人命を奪っているか、その事実こそ訴えるべきではないか」と強調された。

それに対しマスコミ陣からは「ヒトの便が膨大な人命を奪っているのは事実でも、そんなことに興味を持つ市民はひとりもいない」との声があがった。その意見がどれほど本末転倒か本書を読み進むにつれて読者はおわかりになるだろう。

どこの記者さんですか?私は興味ありますよぉ・・っていうかおもしろいんですけど「クソが国際語」って。

 貧困と水問題はつながっており、貧困の克服と教育の改善は安全な水の確保抜きにはありえないため、水の民営化を進めるよう叫ばれた。いっぽう、生存に欠かせない水を企業にまかせてよいどうかが議論され、すでに民営化しているフィリピンやインドネシアでは貧困層が水道水を使えないので困っていると指摘された。水をめぐる権利をねらった水フォーラムの仕掛け人や水マフィア説まで登場し「水の民営化問題」は本フォーラムの最大の焦点になった。

「水の民営化」って怖い話だと思うんだけどなあ。「しんじゆうしゅぎ」とか語っている人たちにとってもきな問題ではないんだろうか。

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今日、スーパーに置いてあるちらし「東京暮らしネット」(東京都消費生活総合センター)にこんな記事が載っていました。

「相談者の話によると、2年前から訪問販売業者3社が次々と来訪し、高額な布団リフォーム、布団等寝具、浄水器、空気清浄器など13点、総額360万円の商品を購入していたことがわかりました。相談者の了解を得て、地域包括センターに今後の見守り支援を依頼したところ、相談者には軽い認知症があり、過去にも消費者被害にあっていたことがわかりました。このため相談者の了解を下に娘さんに連絡したところ、娘さんは当初は「解約は不要」といっていましたが、母親の銀行預金通帳残高が激減していることに驚き、解約を希望しました。


相談者と娘から「解約」の確認を得たあと、センターから相談者に民生委員の協力を得て、銀行口座からの商品代金の引き落としを停止するように助言しました、そのうえで事業者3社との交渉を開始しましたが、行政処分を受け倒産寸前の業者だったり購入商品が特定できないものも多く、13点の商品のうち2点のみが解約となり65万円が返金されました。娘さんは親の状況がわかったことから、印鑑、銀行通帳等を預かり、毎月の生活費を親に手渡すことになりました。また地域でも見守り支援を実施していくことになりました。

センターでは増加し続ける高齢者被害を救済するために「高齢者110番」や「見守りホットライン」の電話を設置し、契約当事者からの相談以外にも、家族か近隣の方、民生委員、介護事業者や地域包括支援センターからの相談も受けています。」


 若者の犯罪の凶悪化とかを心配している時間があるおじさんたちなら、まず自分の「ボケ」はすぐそこであることを認識して、まず自分のことから心配したほうがいいんじゃないかなーと思います。友人にも食中毒になった人がいるんですが、「添加物が心配だ、残留農薬が心配だ」っていうわけです。せめて自分が痛い目にあった「天然物質」のほうから心配したらどうなのかなーと思ったりする次第です。