家と貧困 | 女子リベ  安原宏美--編集者のブログ

家と貧困

前回の続きです。
 『児童虐待のポリティクス』上野加代子編著のなかの山野良一さんの論考でおもしろかったのは、「住宅と虐待の関係」にもアジェンダ設定をしているところです。

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(虐待家族)の東京都や川崎市の調査では、単に集合住宅が多いことしか判明しないが、「子総研調査」では、ほとんどの家庭が、賃貸住宅であり、持ち家率(15.2%)が極端に低いことが分かる。
 平成12年の国勢調査では全世帯の持ち家率は61.1%となっており、虐待問題を抱える家族の持ち家率がいかに低いかが分かるだろう。なおちなみに全国の母子世帯の持ち家率も20.6%でしかない(平成15年度母子世帯調査)。
 虐待問題があるとされる家庭を訪問して分かるのだが、住居環境のひどさが目立つ。部屋数で見ると、2間や3間以下の家庭がほとんどであり、子どもが自分の部屋を持っているケースは少数だ。多子家庭も相変わらず多く、子どもにとっても保護者にとっても落ち着いて生活できる空間にはなっていない。「豊かな」国・日本でしかも少子化が極端に進んだ時代にこうした住環境の問題は少なくとも僕らが日ごろ接している家庭においてはまったく解決していないのである。
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 「貧しいながらも楽しい我が家」と信仰したい人もいるようですが(笑)、貧しいと家屋も貧しいし、部屋が狭くなるので病気も感染症などは増えますし、プライバシーが確保できなくなるので、関係も貧しくなるし、心も貧しくなるのですねえ。

 この住居環境について、こうした視点から詳細な論考を掲載している本が最近出ました。『居住福祉と生活資本の構築―社会と暮らしをつむぐ居住 』岡本祥浩著という本です。これおもしろかったです。

 山野さん、この本きっと参考になると思います。たくさんデータのってますし、いろいろ抜きたいんだけど・・・読みにくくなってもしょうがないのでかなり抜粋して紹介します。

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 民間住宅市場の主導が日本の住宅政策を特徴づけるが、社宅や企業の住宅補助など企業が果たしてきた居住支援における役割を無視できない。労働省の調査(「経済社会の構造的な変化に対応した企業の福祉のあり方に関する調査研究報告書」1996)によると、73.7%の企業が住宅財形制度を取り入れ、特に従業員1000人以上の大企業では99.8%がその制度を取り入れている。社宅や寮を雇用者に完備している企業は21.5%~33.0%で特に従業員1000人以上の大企業では70.1%~88.5%である。4分の1以下の企業が持ち家融資や利子補給制度を導入しており、大企業の4分の3以上がそれらを導入している。以上のように大企業ほど雇用者の住居を支援している。

 企業が居住支援策と提供する背景は前述したように日本の不十分な社会保障の一例であるが、地方自治体がほとんど支援策を提供していないことにもよる。

日本の住宅政策の特徴は、住宅公団、公社、公営など公的主体による直接供給、公庫やさまざまの助成制度など公的支援が行われてきたが、全体に占めるその比率は少なく住宅建設の大半は民間の建設である。
 会社の家賃補助や社宅がなくなった方も多いと思いますが、こうした会社による社会保障の代替を国や自治体が公共投資としてすればいいんじゃないかと思うんだけど。ある研究者の方と話すと、なぜか上の世代から「不公平だー」という声があがるので躊躇するっていう人がいました。いやだから会社がやってたのの代わりじゃん、とか思うんだけどね。儲からない遊園地とか変な美術館作るような公共投資じゃなくて、こっちでやればいいのに。今までやってきてないんだから。

話ずれますが、国会議員宿舎の問題も「議員なんてねー貧乏なんですよー、公営住宅作って赤坂くらい、ふつうの人も安く住まわせばいいんです!」とスタジオの空気読んで安易なバッシングに走らず、言い切った黒川さんはステキだとゆうておるんです(笑) だいたいテレビの報道で「貧乏人、貧乏人」とグサグサ言える人ってそんなにいないのでは(笑)

 市場がリードしている日本の住宅は所有形態による差が生じ、大規模な住宅と小規模な住宅の二極分化も起こっている。表に示されるように100㎡以上、特に150㎡以上の住宅が年々増加し、大規模な住宅の増大が平均床面積の拡大に寄与している。一方、30-49㎡以上の住宅は減少傾向にあるものの30㎡未満の小規模住宅はそれほど減少せず、小規模住宅が借家、特にワンルームマンションとして供給されていることを推察させる。

 金持ち向けの住宅ばっか増えてるじゃんってことですよね。ワンルームとか、今はいいとして、人口減っていって住む人いなくなったらどうするんだろうねー。一歩間違うとスラム化するんじゃない?

 イギリスの住宅政策の転換は次のような保守基盤を増強するねらいがあったと考えられる(サッチャー政権下で社会保障費の中で住居の費用の減少が目だって大きかった理由)。
 第一に持ち家を増やすことでブルジョワジーを増やし、保守を選挙で有利にしたいという選挙戦略。第二に公的住宅を政府・自治体の管理下から離すために「公的住宅の購入権」を大々的に認め、払い下げを推進した。結果として持ち家層が増え、労働党の位置が不明確になった。労働党は公的住宅の払い下げの影響は一時的なものであると認識し、公的住宅の現居住者の居住権を確保することを条件に法改正に応じたという(横山北斗1998)。しかしながら、労働党にとっては得票基盤を失う決定的な影響をもっていたのであり、18年もの長期に渡り、政権を譲り渡すこととなった。これまでの例を見ても「労働者階級の持ち家化が保守党の『取り込み政策』として有効であることは、小規模持ち家ブームの起きた1930年代に実証済という(同上書)。
 巨大な公的住宅のストックを放棄した小さな政府を作り上げることで、自治体の役割が変わった。自治体は住宅のストックも新たな供給も少なくなり、住宅サービスの提供者からイネブラーへと役割を変化させりることになった。これもまた地方自治に重きを置く、労働党には大きな痛手となったのであろう。公的住宅の供給者として住宅協会などが登場することによって自治体の役割が弱くなり、居住者の自治体の印象が薄くなったのであろう。

 イギリスは公営住宅を減らした、と(もともと多いからでしょうね)。日本は戦後「持ち家政策」すすめてたんで、もともと少ないです。こういうの日本でやったら、乾いた雑巾しぼるみたいなかんじなのかな。

 

 なお世帯規模の話も書かれてあります。今の日本は「療養病床」とかなくして、家庭に押し付けようとしている「介護」ですが、逆コースだなあ。

 日本の世帯規模は1960年代では6人以上世帯がもっとも多く(26.9%)、1970年から1985年には4人世帯が、そして1990年以降単身世帯がもっとも多い世帯規模になっている(国勢調査)。近代において「イエ」制度が日本の福祉制度を支えていたが、こうした世帯規模の縮小はその基盤が揺らいでいることを示すものである。
 
 こうした小規模の世帯には若年世帯も含まれるが、より大きな問題は高齢者世帯にある。人口動態統計に表されている家庭内事故死亡数が年々増加し、2000年以降では1万人を大きく上回っている。そのなかで注目される死因が「溺死・溺水」である。世帯規模が大きく、働き盛りの者が複数いれば、少しの障害でも家庭内の協力で克服できる。
 たとえば浴室での事故が単身や老夫婦世帯では溺れた者を引き上げることができず、死亡事故につながり、人口動態統計に表される数字となる。

 お風呂事故は多発するんだろうなー。以前遺品整理屋は見た! 』吉田 太一著の書評を書きましたが、お風呂で家族が死んで腐っているのに同居の認知症の母が長い間気が付かないとか、追い炊き機能をつけっぱなしにしてゆだって死んだとか、そういう怖い話になるんだろうなあ。

 あと介護やってるのは女性がほとんどだから、「介護殺人」とかで、メディアで女性が怪物化されちゃうのかなー。


 犯罪社会学の専門家の河合先生が冗談で「監視カメラつけるなら、お風呂場だよ」なんて以前書かれてましたが、上でも書かれているように風呂での「溺死」は非常に多いです。監視カメラは冗談としても、「社会問題」にするなら数(規模)みないといけないと思いますよ。

 日本のお風呂設備って実は先進国のなかでも貧弱なんですね。以下のように。↓↓↓お風呂場に暖房ついてる人手あげてー。あんまりいないよね。

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 http://home.tokyo-gas.co.jp/benri/sumai2/lesson2_1.html
 日本の入浴中急死者数は世界のワースト1
日本では、1年に30,000件もの入浴事故があり、そのうち14,000人もの方が入浴中に亡くなられています。((財)東京救急協会『平成12年度 入浴事故防止対策調査委員会研究委員会』による推定数)その多くが高齢者です。この数字を、外国と比べると、日本は世界のトップ。しかも日本の溺死死亡率は、世界でも飛び抜けて高いのです。

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 「命が大事」「命が大事」って、騒ぐんならさ、ほとんどおきない見知らぬ人に襲われるような犯罪に不安になって不審者メールとか地域安全マップとかの処方箋の結果ね、大予算つけて、弱者を刑務所に送るより、お風呂場あったかくするほうがみんな幸せになると思うんだけどね。温風器だけでもずいぶんあったかいのに。温風器需要だって生まれるし、その作業をしている人だって、世間にいいことしてるなーって思うんじゃないのかなー(よほど、ひねくれもの以外は)。「ワシは風呂場で乾布摩擦が健康の秘訣!自然のままがいいんじゃ!」って人は暖房消しておけばいいんだしね。というわけで、やはりきちんと統計は見ましょう!って思います。