負け犬の叫び声 | 女子リベ  安原宏美--編集者のブログ

負け犬の叫び声

先日、紹介した『現代の貧困と不平等―日本・アメリカの現実と反貧困戦略 』の河合克義氏の論考から要約。 「貧困と孤独」の実態調査である。うへー聞きたくなーい、とも思うのだが、頭痛くなると、頭ぶんぶんふって「やっぱ痛いわ」って確認する人間なんで、すいません。「負け犬の遠吠え」どころか叫び声も聞こえませんよってことのような…(酒井順子さんのエッセーは私好きなんですけどね)。


経緯のおさらい
■政府は(80年代)にシルバーサービスを中心とした福祉産業に対する政策優遇策をとった。とくに1989年5月の老福第102号通知は、国の制度である家族奉仕員派遣事業を89年9月の通知によるガイドラインをクリアーしているシルバー産業に依託できるとしたのである。高齢者に対する福祉サービスを企業に開放しても問題がないとする前提には、利用料金の負担に耐えうる豊かな高齢者を描く必要があった。1986年6月に厚生省の「高齢化に対応した新しい民間活力の新興に関する研究会」が発表した「シルバーサービスの振興に関する研究報告書」では次のように述べていた。
「かつて老人は、社会的・経済的弱者、マイノリティという考え方が一般的であった。しかし、今や高齢者は社会的にも経済的にも主役の一翼を担いつつある」その根拠として掲げているのが、「活力ある高齢者の増加」とともに「高齢者の購買力の高まり」である。「各種統計によれば、高齢者1人当たりの所得や消費の月額は10万円前後にのぼっている。これに高齢者の貯蓄額が1130万6千円と平均を大きく上回っていることを考慮すれば、高齢者の(潜在的)購買力はむしろ若い世代を上回る力があると見ることができる」と。こうして在宅サービス等の福祉サービス分野では「民間の参入を拒む理由はなく、むしろ有効性、効率性の観点からすれば、民間ベースの供給が可能な場合は公的供給を縮小してもよいと考えれる。」
この報告書の見方は高齢者の生活を平均化し、その平均像をもって政策を進めようとするものであった。平均化により、当然平均以下の生活が消し去られ、高齢者の貧困が不可視化することになるのである。この手法は今日まで続いている。


高齢者の生活と貧困-東京都港区の場合ー
■筆者は港区におけるひとり暮らしの高齢者に対する調査を過去2回実施している。港区は財政的には豊かな自治体のひとつであり、区内には日本の大企業本社が集中し、また最近では100mを超える高層の住宅がいくつも建ち、日本の豊かさを象徴する地域である。04年度調査の時点では総人口は17万人。ひとり暮らし高齢者の人口は約1万1000人であったが、このうち実質ひとり暮らしの高齢者すなわち調査の母数は4161人である。ひとり暮らしの高齢者の数は総人口の伸びと比べて増加率が大きい。本調査の名称は「東京都港区におけるひとり暮らし高齢者の生活実態と孤立に関する調査」である(以下統計の詳しい説明が本にはありますが、省略)。


1)年間所得
年間50万円未満 - 3.4%
50万円以上 - 100万円未満 10.7%
100万円以上 -150万円未満 17.8%
150万円以上 -200万円未満 15.2%

150万円未満の者の合計は31.9%。都市部のひとり暮らし高齢者の生活保護基準額は約150万円であるが、この150万円未満のうち生活保護を受給している者は16.2%にすぎない。

2)緊急時の支援者がいないということ
われわれは「病気などで身体が不自由なときなど緊急時に来てくれる人がいるかどうか」ということを孤立無援状態測定のひとつの重要な指標とみなしている。こうした緊急時に来てくれる人が誰もいない状態は孤立しているということが可能だろう。年間収入とのクロス表を見ると、年間収入ごとの支援者がいない者の割合は「200万円未満」において19.1%。「200万円以上400万円未満」において13.0%「400万円以上」において10.1%となっている。収入が低くなるにしたがって支援者がいない者の出現率が高くなっている。

3)親族、友人、知人、近隣の人々との交流がないこと
「正月3が日をひとりで過ごした」…35.1%
「近所づきあい:あいさつをかわす程度あるいはつきあいがない」…42.6%
「社会参加活動をしていない」…42.5%
「親しい友人・知人がいない」…12.9%

 これらの項目二つ以上の重なりに包摂される総計を「孤立」とすると、港区のひとり暮らしの高齢者の4分の1が孤立状態にあると見ている。

 ちなみにひとり暮らしの高齢者の出現率において、港区は全国で37番目38.4%で、一番高いのは東京都御蔵島53.7%(2000年国勢調査)。
(だから黒川さんは一番先に御蔵島行ったのかなあ…)