「論座」2月号に書評を書きました。 | 女子リベ  安原宏美--編集者のブログ

「論座」2月号に書評を書きました。

さて、本日発売の「論座」2月号に書評を書きました。私みたいな一介の編集者が書いていいんでしょうか..とも思ったりもしたのですが。せっかくなので。

 紹介させてもらった本はこちらです。

 吉田 太一(著) 「遺品整理屋は見た!


 この本、今、ひじょうに売れています。「売れてる」ってこと自体考えたほうがよい本のような気がして。担当の編集者に伺うと最初ネット上で売れはじめて、リアルの書店でも今とても売れ、購買層として多いのは30代の男女両方とも。
 こんなかんじで・・書いてみました。


 「本書は「遺品整理業」を営む著者がその「仕事」を全うした四十あまりの現場の状況を淡々と羅列している。もともとはブログ上で著者が書いていたエントリーを書籍化したものである。描かれている死の現場はほぼすべて「孤独死」。(略)

 1000件以上の孤独死を掃除してきた著者はこう明かす。孤独に死んだ人間の三割が部屋にエアコンがなく、その中の一割が固定電話はおろか、携帯電話さえない。(略)
 本書の孤独死の背景に透けて見えるのは「貧困」と「孤独」という絶対性だ。昨今とみに説かれているような「格差」などという生易しい相対性ではない。本書の孤独死の人間たちの多くがすさまじい量のゴミの中に暮らしていた。それは異常なのだろうか?生きていく気力も体力もお金もなければ、身辺を掃除して清潔に保ち、規則正しく食事をとるなど、不可能なことではないか。
 今、この国に足りないのはそういう簡単な想像力だ。街を掃除すれば「犯罪がなくなる」らしい環境犯罪学的施策が席巻し、「早寝早起き朝ごはん運動」を国民運動として定着させようという話が大まじめに語られていたりもする。(略)」
 あとは「論座」を読んでいただければ幸いです。


 現場を知っている人なので容赦なしの記述で、知っているからこそ、内心に踏み込み過ぎない記述にとどまっているうえに、それが余計悲惨さを感じました。はっきりいって、いろんな意味で吐き気のする本だと思います・・・。最初、お買い物に行こうと思って電車の中で読んでて、ほんとに「ウっ」となってお家に帰ってしまいました。
 でも読んだほうがいい本だと思いました。
 ただ、この本読むときに、気をつけなくてはいけないのは、「死に際は美しくあるべき」と「死に際モラル論」みたいに解釈もされかねない本ではあるという点です。著者も書いてますが、「自分のことは自分でやる」といういうのはいっけんごもっともだし、そのとおりだと思うのですが、物理的にどうやってもできないのが「死後」です。
 この著者の会社がされているようなサービスに健康な若いうちから「お金」を払って申し込む方もいるのです。つまり「死後」さえも「自己責任」と「資本」がからめとってしまえるという状況にもうちょっとわたしたちは震えてもいいんじゃないかと思います。
 ネットやブログが身近になって、表に出てこなかった話が出やすくはなったと思います。そのこと事態は私は基本的にはいいことだと思ってはいますが、「治安悪化」言説と同じく、「社会問題」化して顕在化したときに、それを社会変動として読み間違ったり、それを「利用する」力学が働くのも事実です。そういう関係性を読み解く視点をまず持つことが必要なのではないでしょうか。


 この本の著者のインタビューが掲載されています。
http://www.fusosha.co.jp/senden/2006/060927ihin3.html
――ブログやホームページが非常に話題になっているようですね。今回の出版のきっかけもブログが編集者の目にとまったのがきっかけですし。
 引越し業時代から、ホームページを使った宣伝活動はずっと行っていたんですが。キーパーズという会社のサイト以外に、孤独死や独居老人などの現状を知ってもらおうと思って、立ち上げたのが「現実にある出来事」というサイトです。
われわれにも社会的責任があるのだなと感じるようになりました。自分たちの利益ばかりを追求していると「孤独死歓迎の会社」って言われかねない。お金儲けだけではいけないけど、かといって小さい会社だからちゃんとわれわれが食べていかないといけない。そこで自分ができる事として、自分たちが見てきたことを公開することで、社会に現状を知ってもらい少しでも最悪(孤独死)の事態を予防していきたいと思ったんです。


 あと、今号の論座ですが、ネット上の議論を意識している(?)地に足のついた論考がありますね。「二セ科学」批判特集オススメ!

 安倍首相の「ぶらさがり」の発言集もネット上の「まとめサイト」的なかんじですね(記者さん、もっと、つっこんで欲しいけどぉーねえーってかんじ 笑)

 ※「ぶらさがり」は1日に1回から2回官邸で番記者の質問に立ったまま応えること。

  【今年の1文字】

  - 今年の一文字が「命」になりました。感想はいかがですか?

 「今年は前半、雪害で多くの方々が亡くなられました。また災害等で亡くなられた方々もおられます。またいじめの問題、子どもたちが自らの命を絶つ、という悲しい出来事もありました。命の尊さ、大切さを改めて認識した、考えさせられた1年だったと思います。また秋篠宮殿下にお子様が誕生して、新しい命の誕生がいかに私たちに対して、明るい希望やまた、夢を与えてくれる。こんな思いもあった、私は、年ではなかったかと思いますね。」

  - 総理にとっての1文字は?

 「今年は私にとっては変化の年でしたね。すべてにわたって大きな変化がありましたから」

  - 一文字にするとすれば?

 「それは、ま、責任ですね。大きな責任を担うことになったと。そういう気持ちですね」


  かわいそうだと思ったのか、一文字じゃないよお!と記者のつっこみはありませんが(笑) 「命」というとゴルゴしか思い浮かばない私はアホでしょうか。。。(ふるっ) とりあえず、「死」に呪われる国になって欲しくないなあと。


 ネット上のおすすめ記事は山形浩生氏です。

 ゲーム脳のすすめと人類の進歩
http://opendoors.asahi.com/ronza/story/index.shtml


「水からの伝言」のみならず、巷には科学的根拠のない、トンデモ議論があふれている。「ゲーム脳」もその一つ。テレビやゲームへの悪影響を断じる論議から、日々進歩をとげる科学技術に対する人間のとるべき態度がみえてくる――。


あと、おもしろかったのが、「コピペ」についての論考。

「わたしとコピペ」というショートエッセイで長谷部恭男(東大法学部教授)さんがこのように書いています。長谷部さんは受けます(笑) あたりまえのことが書ける、言える、つっぱねる方かと。本もおもしろいですよ!
「創造性を自己目的化してはいけません。創造性があっても間違っている議論や変な音楽よりは、創造性に乏しくても正しい議論や美しい音楽の方が世のため人のためになります(これは、友人の法哲学者、森村進氏の受け売り)。創作物といっても、先人の積み重ねに何かを加えることができるかが勝負ですから」
「コピペであるかどうかではなく、その結果が問題だと思います。とはいえ、コピペしたときは出所を明示するのが公正な慣行でしょう(著作権法 32条1項)」