累犯障害者 | 女子リベ  安原宏美--編集者のブログ

累犯障害者

先日、下関の放火事件のことをエントリーで取り上げましたが、どうしても気になって続報がないものか探してました。
累犯障害者 」山本譲司著(非常に真摯な活動をされている著者です)で、その犯人像について取り上げられていました。
 そうだったのか・・・。

 一部要約抜粋させていただきます。
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 火災の翌日、新聞各紙はこぞって「憤る市民の声」を取り上げた。その怒りの矛先は一人の男に向けられている。
 A(本では実名で載せてます)、74歳。出火から3時間後、現在建造物等放火の容疑で逮捕された男だ。8日前まで刑務所に服役していた。元受刑者だった。
 12月30日福岡刑務所を出所したA容疑者は、そのあと1週間、北九州市内の自転車置き場などで野宿生活を続けていたらしい。
 「刑務所に戻りたかったから、火をつけた」
 A容疑者は接見した弁護士にそう話しているという。

 A容疑者は障害者であるという事実であった。

 A容疑者は過去10回にわたって刑務所に服役していた。実刑判決を受けた罪名はすべて「放火罪」である。
 誤解のないように記しておくが、知的障害者がその特質として犯罪を起こしやすいというとそうではない。知的障害者と犯罪動因の医学的因果関係は一切ない。それどころかほとんどの知的障害者は規則や習慣に極めて従順であり、他人との争いを好まない。
 警察の取り調べや法廷において、自分を守る言葉を口述することが困難だったり、反省の言葉が出ない。よって司法の場では心証が極めて悪く、反省なき人間とみなされ、実刑判決を受ける可能性が高くなる。


 そして一度刑務所の中に入ると、福祉との関係が遠のき、あとは悪循環になってしまう可能性が高いのである。
 A容疑者の場合、障害者手帳を有したことは一度もなかった。だがそれも当然かもしれない。A容疑者の場合12歳で少年教護院に入ってからというもの、以後少年院を皮切りに矯正施設を出たり入ったりして、塀の外の社会にいた期間は、ごく僅かでしかない。
 約50年間を塀の中で過ごしているのだ。
 
 私が自己紹介するとA容疑者は愛想笑いを浮かべ、「はあ、どうも」と頷く。
 空気が抜けるような、弱弱しい声だった。見ると、前歯の上部がすべて抜け落ちてしまっている。しかし見た目からは、知的障害があるとは、すぐには見えない。しかし軽度の知的障害者の多くはそうだ。彼ら彼女らのほとんどは見かけが健常者と変わらないがゆえに、その障害を理解されにくい人たちだ。
 
 ともあれ、事件当日は空腹と寒さから一刻も早く住み慣れた場所へ戻りたかったようである。とにかく早く捕まりたいのだ。それは今回だけではない。前回は出所から6日目、火をつけると同時に自首している。
 ちなみにこれまで11回放火を行っているが、1人のケガ人も出していない。
 A被告に関していえば、快感を得るための放火というような愉快犯的は要素は微塵もない。
 放火事件を起こさせないためには、ただひとつ、社会の中に居場所がありさえすればよかったのだ。


 A被告は少年時代、父親からのすさまじい虐待を受けている。
 彼の弁護人に聞いたところによると、体中傷だらけで、特に胸部から腹部にかけて前面に広がる火傷の跡は酷いという。父親から何度も何度も燃えたぎる薪を押し付けられた。 はじめに入った少年教護院は、彼にとって「避難場所」と感じたかもしれない。


 「福岡刑務所の先生に生活保護を教えてもろおとったから、役所に行った」
 実はA被告は下関で放火事件を起こす半日前、北九州市の区役所を訪ねていた。
 だがそこでは「住所がないと駄目だ」と相手にされなかった。
 「刑務所から出てきたけど、住むところがない」と何度もいったが、相談にものってくれなかった。そして1枚の切符を渡され、追い返された。その切符が下関駅までの切符だったのだ。

 今回はその被害の甚大さからして、かなりの厳しい判決となる可能性が高い。
 A被告は警察によると「はじめから計画的に駅全体を燃やすつもりで火をつけた」と供述している。



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 「心の闇」だの「動機のわかんない犯罪」などなど。さぞかし、90年代の犯罪論+文化論で語りまくってた識者たちは、とっても楽しかったことだろう。いつまでぼげたことをいってるつもりなんだろうか。「コミュニケーション能力」がうんたらいつまで言ってるつもりなんだろう。
 障害で「コミュニケーション」がとりずらい被疑者だよね。で、検察に供述を捏造されてるじゃない?そういうこと?違うよね、そういうこと誰かちゃんと指摘してる人いる?

 少年やら精神障害者をモンスター化したのはどこぞのえらい人で、どこぞの大新聞ですか?


 この新聞記事にだって被疑者に障害があったこと、50年も刑務所に入りつづけた人間だということ、親から捨てられてきたということ、福祉かも捨てられてきたということ、どのような犯罪の経緯だったか、載ってる?微塵も載ってないよ。これじゃあ「凶悪犯」が世間にあふれてるって思ったってしょうがないよね。誰がやるの?ジャーナリストでしょ。


 「最近変な人増えてるよねー、治安悪くなってるよね」じゃないよね。


 「不審者対策」で刑務所に送られているのはこういう人たちである。
 「犯罪対策」を真摯に考えるのであれば、何をすればいいか、こういう普通に生きてる私が読んだって一目瞭然である。
 事実を見ようよ。
 現在刑務所は福祉の手から漏れた人間が大勢いる「福祉施設化」しているということを実証されたのは犯罪学者の浜井浩一さんです。02年にかかれている「過剰収容の本当の意味」という論文をぜひ読んでください。私、論文読んで泣けたのってわるいけど初めてでした。
 
 山本さんが前書きに書いてる受刑者の言葉です。
 「山本さん、俺たち障害者はね、生まれたときから罰を受けているようなもんなんだよ。だから罰を受ける場所はどこだっていいんだ。どうせ帰る場所もないし・・・。また刑務所の中で過ごしたっていいや」