問題1の答え
問題1
あるショッピングセンターの人気のない階段で、小学校2年生の女の子が不審な男性に声をかけられて嫌がっているのを監視カメラで見ていた警備員が発見し、警察に通報して、駆けつけた警察官が男性を職務質問し、女の子を保護した。男性は強制わいせつの前科があった。この事例に見られるように監視カメラは性犯罪防止には有効である。
答え
これは単なる事例に過ぎません。事例はいくら集めても事例であり、科学的な統計データではありません。監視カメラの防犯効果を調べるためには諸条件を同じに定義したエリアで(まったく同じ場所というのはありえませんのであとで補正をします)、監視カメラを設置した場所としていない場所をつくり、そこを比較しないといけないということです。これを実験群と統制群といいます。テスト群とコントロール群ともいいます。
もうちょっと具体的にいいますね。
ある駅前に監視カメラを数台設置して、設置前と比較して1ケ月の暴力の届け出件数が10件から5件になっとします。これだけでは監視カメラの効果があったとはいえません。
地下鉄の駅を無作為に選び、同じタイプ(繁華街が住宅街か乗降数が同じとか)と定義を決めて、ふたつのグループに分けます。ひとつがテストでして、こちらには監視カメラを置く。ひとつがコントロールということで全くなにもしない。
設置前の1年と設置後の1年を比較します。さらに、届けた件数というのも、警察に届けられたものか、駅に届けられたものかなど、定義をそろえて同じ条件で比較します。
さらに暴力の種類、すりなのか、強盗なのか、ケンカなのか、万引きなのか。ここも細かくみます。強盗は減ったがすりは増えたなどということも考えられるからです。
さらにカメラを置いたことによる「慣れ」もありますので、継続的に見ていく必要があります。ただ単に犯罪の発生場所がカメラの前から移ったということも考えられますので、まわりの地域の調査もします。監視カメラの「転移」の問題というわけです。
これはマーケティングの世界でも同じです。例えば、お客さんをセグメントしてダイレクトメールなどでのキャンペーンを行なう場合(もちろんパーミッションを得ていることが前提)も、属性をそろえ、テストとコントロールを設定して、施策をやったお客さんと、施策をやってないお客さんの反応率や購入率を較べたりします。結果も前年度、前期などを較べ、自然増や自然減などの数字を補正してはじめてデータとして成り立ちます。
効果検証という意味では、はずせない作業ですが、マーケの世界では、施策をやっていない御客さんに悪いじゃないか(本音:コントロール群は何もしないので儲けが減るからもったいないじゃないか)という議論は必ずあります。
単純にいうと、データは「比較」するものがないと多いも少ないもないわけです。
もちろん、こういうデータの定義と補正をして、監視カメラの設置に効果があるとなったとしましょう。そこには、施策をするうえで、コストがかかります。これは金額的(監視カメラ代、人件費、運用費など)負担だけでなく、市民の権利自由制限、犯罪回避行動負担を含めたうえでの「評価」が必要になります。
投資に対する効果として、カメラなんて置かなくても交番ひとつ増やして、ひとりおまわりさん置くだけのほうがぜんぜんよかったという場合もあるかもしれないわけです(まあ、日本は現実的にはまったく治安は悪化してませんから、必要ないと思いますが)。
一応、こういう考え方は企業では当たり前のようにやってますが、国会とかでは、たったひとつの大事件をひきあいに出して、結果的には、それで事態が動いてたりします。かなり頭悪いです。
「数字でコトは動かない」というのもある種の固定化した考え方であり、「常識」だと思います。「数字でコトは動いてる」世界もたくさんあるわけですから、諦めないのが重要かと。
●参考文献 犯罪統計入門 浜井浩一
続きの問題の答えはまた後日アップします。