「レッド・タートル ある島の物語」 | 帰ってきた神保町日記      ~Return to the Kingdom of Books~

「レッド・タートル ある島の物語」

『レッド・タートル ある島の物語』

 

 ジブリの新作でありながら、フランスとの合作で、しかも監督はオランダ人。なので、いわゆるジブリテイストな絵柄を期待して観に行くと、面食らう。
 さらに「君の名は。」の大ヒットのあおりをくらい、興行的には苦戦しているようだ。
 僕が観に行った新百合ヶ丘のイオンシネマは、日曜日の午後にも関わらず、観客は20人くらいだった。

 しかし、これは観ておくべき作品。
 海で遭難し、小さな無人島に漂着した男の物語で、台詞は一切ない。
 ジブリの手描きアニメとも、アメリカのフルCGアニメとも違う、独特の繊細で美しい映像に引き込まれる。
 特に海の描写が素晴らしい。僕の場合、沖縄の海でシーカヤックを漕ぐことが多いのだが、あの水上と海中の境界線がわからないような浮遊感が、よく表現されていて、観ていて心地良かった。
 台詞のない物語だが、まるでお伽話のようで、内容は分かりやすい。
 しかしそこに込められているものは深い。特に生と死が何気ない描写の中にもいくつも表現されている。
 漂流からのサバイバルの話と思わせておきながら、実は生命の連環を高らかに歌い上げた大きな物語。
 観終わってからじんわりと心に沁みてくる。