演技力は認めるけど・・・ | 帰ってきた神保町日記      ~Return to the Kingdom of Books~

演技力は認めるけど・・・


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 世間では今日、明日が連休のなか日で、仕事の人が多かったでしょうが、僕の勤める会社は社休日だったので、今日までがGW前半。
 平日の昼なら空いているだろうと思い、午後から近所のシネコンへ先週末から始まった「わが母の記」を観に行った。
 ところが上映開始時間の30分前に着いたにも関わらず、予想に反しチケットは完売。幸い僕の場合は車椅子スペースが空いていたのでチケットは買えたけれど、それにしてもすごい人気。何で平日のこんな時間にこんなに人が来るんだ!と思ったが、客席を見て納得。客層の8割りがたがお達者倶楽部のみなさま。高齢化社会現代日本の縮図を見る思いでした。

 さて、映画はというと、話題になっている樹木希林さんの演技は確かに特筆もの。
 物語の核となるのは、幼い頃に一人だけ両親と離れて育てられたことから、親に捨てられたという感情を持ち続けて生きてきた主人公・伊上洪作(役所広司)と、その母(樹木希林)との関係性の変化。母親は年齢を重ねるにつれ痴呆の症状が重くなり、過去の記憶があやふやになっていく。そんな中で次第に明らかになっていく母親の息子への本当の思い。
 井上靖の自伝的小説が原作なので、それなりの内容を期待していたのだが、最後まで映画の登場人物たちに深く感情移入することができなかった。
 洪作と母親の確執を示すエピソードの描き方が浅く、洪作の母親への恨みや憎しみといった感情が伝わってこない。もっとも、これが洪作の幼少から少年時代のエピソードを中心に描けば、そういった感情は表現できたのかもしれないが、役所広司も樹木希林もそれなりの年齢に達しているので、激しい感情のぶつかり合いということがない。
 変わりに感情をぶつけるのが、宮崎あおい演じる洪作の三女なのだが、当人ではないだけに弱い。
 クライマックスの沼津の海岸のシーンも、本来ならば感動的になるはずなのだろうが、母親への負の感情が、そこまでに感情の盛り上がりを持っていけない。
 出ている役者がみんないいだけにもったいない。
 同じように家族を描いた、先日観た成瀬巳喜男の作品と比較すると、どうしても荒さが目立ってしまう。