2010年6月12日Gendai/Net

イヤハヤ、驚くばかりのはしゃぎようだ。

民主党から威勢のいい声が飛んでいる。「参院選は負けない」「改選議席の54は堅い」「いやいや単独過半数の60も夢じゃない」――。

「郵政法案を成立させる」という国民新党との約束を反古(ほご)にしてまで、7月11日に参院選を行うことを決めたのも、いま選挙をやれば負けないという自信の裏返しである。
 
民主党が強気になっているのは、もちろん期待以上に支持率が上昇しているからだ。
 
菅内閣の支持率は、鳩山内閣の17%から60%に急伸。

参院比例区の投票先も、10日前まで「民主20%、自民20%」と並ばれていたのに、「民主39%、自民13%」と3倍の差をつけている。

3年前、小沢民主党が参院選で60議席の圧勝を果たした時以上の数字である。
 
しかし、こんなおかしな話はないのではないか。

菅内閣は「脱小沢」を掲げただけで、まだなにも仕事をしていない。

鳩山政権の継承を公言し、大臣もほとんどが再任だ。

なのに、支持率が急回復するなんてバカげている。

いったい、日本の世論はどうなっているのか。

「政治家に対する評価は、本来、実績や理念に対して下されるものです。ところが、最近の有権者は政治家の『キャラ』や、その時の『気分』で判断している。舛添要一を『総理にふさわしい政治家』のトップに選んでいたのが典型です。菅内閣が誕生した途端、あっという間に順位を下げている。本気で舛添総理を望んでいたわけではなかったということです。いかに世論がいい加減かを証明している。残念ながら、まだ日本の民主政治は成熟していないということです」(政治評論家・本澤二郎氏)

ちなみに、内閣支持率のトップ5は、すべて平成に入ってからの内閣だ。

1位小泉純一郎、2位鳩山由紀夫、3位安倍晋三、4位細川護煕、5位福田康夫。
 
60年前、日本の民主主義の成熟度について、マッカーサーは「日本は12歳の少年だ」と語っていた。

あの頃から、国民の政治レベルは上がっていない。むしろ、劣化しているのではないか。

メディアが巧妙に作り出す国民世論

恐ろしいのは、日本の大手メディアが、いい加減な世論調査の結果を「錦の御旗」にし始めていることだ。
 
もちろん、国民の声を尊重するのは当然だ。

しかし、ここまで世論調査に乗っかって報道するメディアは先進諸国ではあり得ない。
 
本来、ジャーナリズムは「政治はこうあるべきだ」と自分たちの考えを国民に提示するもの。

たとえ国民世論とぶつかっても、正しいと信じる論調を掲げ、国民に呼びかけるものだ。

欧米のメディアはそうしている。

世論調査の結果を基に報道しているようでは、メディアの意味がない。
 
そもそも、毎月のように世論調査を実施しているのは、日本くらいのものだ。

欧米のマスコミは、これほど頻繁に世論調査などやらない。

やる場合も、第三者の調査機関と協力して実施している。

メディア自身が行えば、客観性が損なわれるからだ。

最大の問題は、世論調査を濫用(らんよう)することで自分たちの都合のいいように世論を誘導していることである。

「たしかに世論調査を見る限り、国民世論はいい加減です。深く考えているとは思えない。しかし、責任は大手メディアにあります。国民の判断材料はマスコミ報道しかないからです。たとえば、小沢一郎に対する報道です。あれだけ連日連夜、『小沢=悪』という印象を振りまけば、普通の国民は世論調査で『小沢ノー』と答えますよ。もし、新聞・テレビが、検察の暴走を批判していたら世論は違っていたでしょう。ひどいのは、自分たちで小沢一郎をワル者にしておきながら、世論調査の結果が小沢一郎に批判的に出ると、第三者を装って『小沢辞めるべき 80%』などと報じていることです。マッチポンプもいいところです」(政治評論家・山口朝雄氏)
 
世論調査を基にメディアが小沢一郎の批判をすると、また世論調査の数字が小沢に厳しくなるの繰り返し。

日本の世論はこうして作り上げられていく。

こんな世論調査にどんな意味があるのか。

民主党はいますぐ「世論調査政治」をやめろ
 
こんないい加減な世論に乗っかって、民主党は大丈夫なのか。

世論調査の結果をうのみにして「参院選は負けない」「単独過半数も可能だ」と浮かれているが、調子に乗っていたら足をすくわれるだけだ。
 
小沢一郎を排除したことで、政権交代への期待と熱気が戻ったなどと解説されているが、本当なのか。

民主党議員は「脱小沢」を打ち出せば、なんでもかんでも国民が喝采すると思っているらしいが、大間違いだ。

「菅内閣になってから、民主党は『大学のサークルだ』と揶揄(やゆ)された昔の民主党に戻りはじめています。小沢前幹事長が実権を握ってから、民主党は『体育会』に生まれ変わったはずだった。3年前の参院選、昨年の衆院選と、2回つづけて選挙で勝利したのも、小沢前幹事長が、それまでの『風頼み』の民主党の体質を一変させたからです。新人候補には1日50回の辻立ちを命じた。ところが、支持率が急回復したことで、また『風頼み』に戻りつつある。しかし、選挙の基本は小沢前幹事長が指摘するように、地べたを這いずり回り、ひとりでも多くの有権者に直接訴えることです。小沢路線を否定することで本当に参院選に勝てるのか。分かりませんよ」(政治評論家・有馬晴海氏)
 
これまで小沢前幹事長は、労組と二人三脚で選挙戦を戦い、勝利してきた。

しかし、菅内閣は「組織票は要らない」「浮動票を集めればいい」という態度だ。

国民新党との約束を破って郵政法案の成立を見送ったのも、50万票という郵政票はもう必要ないと判断したからだ。

「脱小沢」を鮮明にするために、「子ども手当」や「高速道路の無料化」といった小鳩時代のマニフェストも片っ端から修正するつもりらしい。

小沢前幹事長が反対していた消費税アップも打ち出すという。
 
民主党は「脱小沢」を強硬に進めているが、世論に迎合することが政治なのか。果たして、気まぐれな世論がどう答えを出すか。