TWRと呼ばれる新型の原子炉開発に関して、マイクロソフト創始者ビル・ゲイツ氏が資金提供するベンチャー企業「テラパワー」と東芝が技術協力を検討しています。


日本経済新聞はトップ記事でした。

他のメディアでは、この技術がまったく理解できていませんでした!

スゴイです!日経以外のマスコミってこういう話題についてまったく理解する能力がないのです。


すいません、私は技術的な面について多めに書きたいと思います。

というのも日経以外の新聞記者が中性子とか核分裂などについて語るはずがないからです。


何が驚くかというと、まずは燃料です。
普通の原子炉は天然ウランのうち0.72%しか含まれていないウラン235を3~5%に濃縮して燃料にしています。
ウランのうち核分裂を起こすのはウラン235で、ウランのほとんどを占める238は分裂しません。
ウラン235は核分裂して崩壊するとき中性子を放出します。
それが別のウラン235の原子に当たると連鎖して分裂してさらに中性子を放出します。
しかし、軽水炉は水に燃料を沈めるため、連鎖反応を起こさせる中性子が水に吸収されるので濃縮が必要なのです。


「軽水」とは私たちが普通に使っている水のほとんどで、水を構成する原子が酸素と水素でできているものです。
これに対し、「重水」とは酸素と重水素または三重水素からできている水です。
重水素は原子核に陽子と中性子がある水素で、三重水素は原子核に陽子と中性子が2つある水素です。
化学的性質は水素と同じですが、物理的には中性子をほとんど吸収しないという違いがでます。
だから、天然ウランの濃度でも重水炉なら連鎖反応が進みます。


しかしながら自然界にわずかな比率でしか存在しない重水を精製するのはコストがかかります。

ところが新型炉は重水を使わず、ウラン濃縮時にできる只みたいな廃棄物の劣化ウランを燃料にします。
冷却剤には軽水でも高価な重水でもないナトリウムを使います。
劣化ウランは重いという性質を利用して、対戦車砲弾の材料に使われるくらいで一種の産業廃棄物です。
ところが戦場でも兵士の健康に被害がでるという厄介なものですが、それが原子力燃料として使えるなら産業廃棄物から貴重な燃料に変わってしまいます。


濃縮ウランは原子炉の暴走を抑えるために、中性子を吸収する黒鉛でできた制御棒を使いますが新型炉には必要ありません。
というより、むしろ新型炉は中性子を補ってやらないと中性子不足で動かないんじゃないかと思います。
(じつはそこが炉を動かすうえでの最大問題です。暴走しない分動かすには技術開発が必要か?)

すなわち事故が起こっても、チェルノブイリみたいに暴走するのではなく、原理的には自然に停止するようになっているのだと思います。
東芝は、これとは別にS4という安全性の高い超小型原子炉を開発しており、この技術の80%がTWRに転用できるとしています。
水を使わないというところが最大のポイントじゃないでしょうか。
連鎖反応を起こさせるために、中性子を如何に巧く供給するかが重要です。

ウラン濃縮は核兵器用には90%にまで濃縮する必要がありますが、3~5%に濃縮する技術があればそこから先はそんなに難しくはないそうです。
全く濃縮の必要がないのは、核兵器への転用が極めて難しく核拡散防止に向いています。


そもそも、新型原子炉が必要とされるのは新興国のために必要だからです。
新興国のエネルギー需要はこれから急速に増えますが、それを化石燃料でまかなっていては二酸化炭素を減らさなければならないのに逆の結果になってしまいます。
しかしながら、従来型の原子炉では燃料を作るインフラから使用済み燃料の再処理のインフラの整備まで莫大な費用がかかります。
しかも、危険な暴走を起こしかねない原子炉を監視するために大勢の専門家がいなければなりません。

東芝の新型原子炉は安全性が高く、30年燃料を交換する必要がなく、小型であるため僻地に建設することも可能です。
TWRは小型ではないものの安全性が高く、100年燃料を交換する必要がありません。
日本の民生用原子力技術は世界一なのですが、最近では中東で韓国に、インドではロシアに受注争いで負けています。
これは技術や価格よりも政治や軍事協力のオマケがモノを言った結果ですが、ここで圧倒的な技術力の違いをつけておきたいものです。


ただし、この開発は100年持つ材料の開発が最大の課題となりそうです。
10年かけて開発する計画となっています。


※TWRについて1年後に詳しく書いています。そちらをご参照ください。

http://ameblo.jp/hiranoxx/entry-10833444622.html