政権中枢を揺さぶる疑惑が国会で
噴出する中、また目を疑う短信が
今朝の新聞各紙の政治欄の隅に掲
載されていた。昨夜、東京・赤坂
の高級中華料理店で、安倍晋三首
相と内閣記者会加盟各社のキャッ
プとの懇談会が約３時間も催され
たのである。疑惑を究明する記者
使命を忘れたかのような醜態に映
る。政治家と一定の距離感を保つ
、そんな自覚さえ感じさせない「
御用記者」ぶりだ。海の向こうの
米国では、狂信的なナショナリズ
ムを高揚させるトランプ大統領に
、記者だけでなく映画人らも「抵
抗の時だ」と呼応して声を上げた
。為政者への接し方の日米のあま
りの落差に、また目を覆いたくな
った。
取材先と記者の懇談は、官公庁や
企業でもあって、悪いことではな
い。お互いの人格を知る良い機会
でもあるが、おのずと節度を求め
られる。しかし、事件や疑惑が発
覚した取材先とは、真相究明をめ
ぐって両者に普段以上の緊張関係
が生まれる。読者や視聴者の疑念
を生まないための振る舞いが、よ
り記者に求められる。
27日は国会で安倍首相が森友学園
の疑惑について、集中砲火の質問
をあび続けた。普通の感覚であれ
ば、仮に懇談会の予定が早くから
決まっていても、「なれ合い」と
の批判を受けぬためにも幹事社が
少なくともそんな夜ぐらい避ける
判断を下すべき日であろう。何度
も取材先との記者懇談会に出た経
験はあるが、取材先に疑惑が判明
した渦中に各社の記者と一緒に料
理を囲んで食事するようなことは
なかった。相手の取材先も遠慮し
た。今回安倍首相が追及されてい
る自分に都合の悪い情報を与える
はずもなく、懐柔など別の魂胆が
あるとみるのがまともな記者であ
ろう。そんな時にのここのこ出て
いくキャップらの資質に疑念が募る。
案の定、昨夜、「日本会議の研究
」の著者、菅野完氏からツイッタ
ーで疑問視する文言が発せられた
。「リークがあって聞いたのは、
安倍首相が各社のキャップに『森
友のことは書くな』と圧力をかけ
とる」。オフレコ懇談なので、す
ぐにこの真偽は確かめられないが
、記者の姿勢を疑われるこんな情
報が飛び交い、多くの人たちから
指弾される事態になっているので
ある。
森友学園問題の疑惑の核心は、籠
池泰典理事長と同じ歴史観を共有
する安倍首相本人を含めて、政権
中枢から財務省、国交省の幹部に
便宜を図るよう依頼した事実があ
ったのかどうかであろう。一般的
には約９億円の土地が、事実上た
った約２００万円で売却されるな
どは政治家の口利きなくしてあり
得ない。事実の解明のため、不可
欠なのが昨日、民進党が衆院での
参考人招致を求めた籠池泰典理事
長、売却交渉をした当時、財務省
理財局長だった迫田栄典・現国税
庁長官、近畿財務局長だった武内
良樹・現財務省国際局長の３氏へ
の聴取である。
既に一部報道で、安倍首相が近畿
財務局で売却交渉のあった当日の
２０１５年９月４日、テレビ出演
のため伊丹空港に降り立ち、読売
テレビに出演したと報じられてい
る。安保法制を審議する国会開会
中の不可思議な来阪に、当時参院
の特別委員長から疑問の声さえ出
ていた。この日、国交省から森友
学園に６２００万円もの小学院校
舎建築補助金の交付が決定。この
前日、首相は迫田理財局長に会っ
ていたとされる。安倍首相が安保
法制審議のヤマ場に大阪までわざ
わざ出向いた真の理由は何かに焦
点が当たり始めた。
本来、記者の使命は関係者に取材
し、証言と物証を得て疑惑の解明
にあたることではないのか。少な
くとも国会で追及される疑惑を持
つ首相と料理をつついている時で
はない。そんな疑惑当日の行動に
ついて、首相にきちんと質問した
のか、各社キャップらに問いただ
したくなる。
森友学園への国有地払い下げのほ
かに、文科省天下り、共謀罪新設
、南スーザン派遣自衛隊の日誌隠
蔽を含め疑惑４点セットは、国会
の野党だけでなく、記者の取材に
よる究明がメディアに求められて
いる。複数の有力海外メディアは
森友学園の疑惑を「ウルトラナシ
ョナリストと首相の疑惑」などと
報じている。批判的なメディアへ
の敵視発言が目立つ安倍首相は今
回も国会でトランプ大統領と同じ
ように「間違った報道だ」とかわ
した。及び腰が目立つ日本の政治
記者らに、アカデミー賞受賞式前
、女優のジョディ・フォスターさ
んが演説した言葉を投げかけたい
。
「民主主義への最初の攻撃は表現
の自由や人権への暴力だ。抵抗の
時だ」
【２０１７・２・28】