「ヒロシマモナムール」などの原作者である作家、マルグリット・デュラスの自伝的小説「苦悩」を基にしたドラマ。

 

1944年、ナチス占領下のフランス。若い作家、マルグリットは、夫のロベールと一緒にレジスタンス活動をしていました。ある日、ロベールがゲシュタポに連行されてしまいます。マルグリットはヴィシー政権の手先の刑事、ラビエと危険な関係を持ち、ロベールを救おうとしますが...。

 

マルグリットのロベールを救うための行動がなかなかにスリリングで、ハラハラしながら、画面に惹きこまれました。

 

ただ、そのマルグリットとラビエの駆け引きが描かれる前半に比べ、後半は描写が平板で、マルグリッドの内面の変化が物語の中心となっているために、抑揚に欠け、正直、少々退屈さを感じてしまいます。まぁ、派手に盛り上げて面白くなるようなお話ではないと思いますが、もうちょっと観る者の気持ちを引き付ける演出があってもよかったのではないかと...。

 

ラストのマルグリットの選択は考えさせられます。ロベールを取り戻そうと努力を重ねたはずのマルグリット。彼女のその思いの強さに嘘があったわけではないと思います。そして、相当に必死に活動したことも確か。けれど、目的を果たすための過程があまりに厳しく長くなってしまうと、そして、そこであまりに大きな力を費やしてしまうと、目的を果たした時、喜びよりも、喪失感の方が強く感じられてしまうのかもしれません。

 

ロベールを取り戻すための努力も、その期間が長くなれば、それが日常になってしまうのかもしれません。平穏な日常を奪われた期間が長くなりすぎると、危険な非日常の方が日常になってしまい、失ってしまった過去に対してむしろ違和感を覚えてしまうのかもしれません。元の日々を取り返すために力を傾け続けたマルグリットにとって、日常があまりに大きく変えられてしまい、もう以前の日々は簡単には戻れない遠いものになってしまったのかもしれません。

 

マルグリットの強さと弱さ、その狭間にある苦悩がしみじみと伝わってきました。マルグリットのラストの選択に至る過程をもう少し細やかに描くなど、このラストをもっと生かせる構成になっていたら、ずっと印象深い作品となっていたと思うのですが...。

 

マルグリットを演じたメラリー・デュラスのマルグリットの心情をきめ細やかに表現する丁寧な演技は見応えありました。