1966年に発表された寺山修司の小説を時代設定を変えて映画化した作品。原作は未読です。

 

2021年。少年院に入っていたことのある沢村新次は、昔の仲間でボクサーの山本裕二を恨んでいました。一方、吃音と赤面症に悩む二木建二は、新次とともに"片目"こと堀口からボクシングジムに誘われます。彼らは、それぞれの思いを胸にトレーニングに励み...。

 

原作小説が1964年の東京オリンピックの2年後に発表されているから、本作は次の東京オリンピックの後に年代を設定されているということでしょうか。未来ではあるけれど、そんなに先の話ではなく、現代の新宿を背景にしても左程違和感はありません。その辺りの設定は絶妙だったと思います。

 

東京オリンピックのお祭り騒ぎが終わり、華々しい世紀の大イベントの陰に隠された東日本大震災の爪痕も残っており、テロが起き、自衛隊が強化され、自殺問題や高齢化社会の問題がますます深刻化する時代。それは、まさに、この先にやって來る時代のようにも思われます。

 

これは原作の問題かもしれませんが、様々な人間関係や伏線がほぼ回収されないままラストを迎えることもあり、モヤモヤした感じが残ります。リアルな人生はそれ程スッキリとまとまるものではないですし、起承転結付けられるようなものではないですし、この辺りは意図的な演出なのかもしれませんが、それならそれで、もっとしっかりした放り投げ方をして欲しかったです。放置するような回収する方向への意思を覗かせているような中途半端感が気になりました。

 

新次を演じた菅田将暉の狂気を帯びた演技、二木健二を演じたヤン・イクチュンの内に秘めるものの熱量を感じさせる抑えた演技はともに印象的でしたし、その対照的な2人の絡みも良かったと思いますし、相当なトレーニングを積んだと思われるボクシングシーンも痛々しくて目を背けたくなったりもしましたが迫力ありました。

 

新次と健二の"古き良き時代の男臭い友情"物語は骨太で見応えありましたが、原作から時代設定を変えながらも消すに消せない昭和臭が漂う一因はなってしまったかと思います。戦争の時代を迎えようとする昭和初期と今が重ねられているのかもしれませんが...。

 

2人の関係を中心にそこに関係する人々、無関係な出来事が描かれていき、2人を取り巻く時代が伝わってきます。対照的な2人がともにボクシングに出会い、その中で新たな自分に出会っていく。その背景に2人を取り巻く大きな時の流れのようなものが見えてきて、それはそれで物語に厚みを加えてはいるのですが、その反面、中心になるべき2人の物語が薄れてしまった感じもしました。そして、周辺のアレコレを取り入れ過ぎたために長くなり過ぎてしまったような...。前篇157分、後篇147分、合わせると5時間を超えるというのは、少々、辛かったです。

 

長さを覚悟できれば見応えある作品だとは思います。観ておいて損はないかと...。