愛と希望の街 [DVD] 愛と希望の街 [DVD]
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ある小都市の駅前。靴磨きの女性たちに混じって1人の少年、正夫が鳩を売っていました。そこへ会社役員の令嬢、京子が通りかかり、その鳩を700円で買いました。正夫はお金が要るから鳩を売ると言い、京子は同情しますが...。

 

それにしても、社会というのは、変化しているようでなかなか変わらないものでもあるようです。本作で扱われているテーマの一つには"格差社会"の問題があるワケですが、それは今にも通じる問題。それが問題視されながらも未だに解決されていないというのは残念なことですが、半世紀前の作品が古びていません。

 

貧しき正夫を"救おう"とする担任教師や京子。貧しき人を助けようとするのは、彼女たちの心の余裕なのでしょう。けれど、彼女たちの同情や理解が現実の問題を乗り越えるのは簡単なことではありません。

 

正夫という名にも皮肉が込められているように思われます。彼の心は、その名の通り正しき方に向かおうとしていたのかもしれません。けれど、彼の境遇では、正しいことしかせずに生活していくことはできなかったでしょう。生活のためにやむを得ず詐欺的な行為をすることを正当化するのは間違っていると思います。けれど、彼の背景は酌量されるべきことではないのか...。

 

正しく生きていける立場にある人間と正しくいるだけでは生活ができないどうしようもない人々が理解し合うことは難しい。"階級"を超えて繋がりあえたかもしれない瞬間があっただけに、それが幻となる展開が苦しいです。

 

正夫と京子の物語に貧しき者と富める者の中間に存在する担任教師と京子の兄の関係を絡ませることで、物語に厚みを加えていますが、それでも、社会問題的な要素が目立ち過ぎ、登場人物たちのキャラクターがそれぞれの立場を代表する典型的なパターンをなぞった形になってしまって、人間ドラマ的な部分が薄くなってしまった感じは否めず、その点は残念でした。

 

62分という短い時間に社会の問題が凝縮されているような濃厚な作品でした。