1940年代、アメリカ。カントリー・ミュージックの新鋭、ハンク・ウィリアムズはその才能を見出され、順風満帆の日々を送っていました。彼の子どもを身ごもった歌手、オードリーと結婚し、ミュージシャンの登竜門といわれるラジオ番組、"グランド・オール・オプリ"に招聘されたことで名声は絶対のものとなります。けれど、多忙な日々のなか、家族の絆は失われていきます。孤独の中、酒と女遊びに溺れていくにつれ、オードリーとの関係は冷え切り、離婚。ハンクは肉体と精神を酒に蝕まれていき...。
 
仕事の成功と温かい家庭、絵に描いたような幸せから、スターとしての孤独の中、雪崩落ちていく姿。そこには、昔よくあったような苦悩する破天荒なトップアーチストの姿がありました。
 
そして、母と妻のアレコレ。まぁ、世の中に良くある話ではあります。献身的に尽くしてくれる母がいて、そんな母の姿を妻にも求めてしまった彼は、結婚に向かない男と言わざるを得ないでしょう。正直、妻の立場を考えれば最悪です。まぁ、もっとも、世に母と妻の違いを理解しようとしない男性は少なくないわけですが...。
 
個々のエピソードが、決定的な場面をスルーしつつ淡々と並べられている感じの作りで、ブツ切り感がありましたし、全体にアッサリし過ぎてドラマが薄くなってしまった感じもしますし、彼を取り巻く様々な苦悩や幸せが歌にどう反映されていくかという過程も見えきにくいこともあり、映画として面白かったとは思えませんでした。
 
ただ、ハンク・ウィリアムスを演じたトム・ビドルストンは、時々の心情を切実に表現していて印象的でした。そして、何より、歌が巧かったです。ハンク・ウィリアムスを全く知らずに観ても、歌だけは堪能できました。
 
特に、エンドロール最後の"JAMBALAYA"は、誰でも知っている有名なメロディーの曲ですし、心に沁みます。
 
ある程度、ハンク・ウィリアムスについて予備知識を仕込んだうえで観ともう少し楽しめるのかもしれませんが...。