フランスの郊外にある寂れた団地。エレベーターで人が閉じ込められたり、ボタンを押そうとしたら火が出て火傷したりと故障や事故が頻発するようになったため、住民たちが費用を負担してエレベーターを交換することになりますが、2階に住むスタンコヴィッチは費用負担を拒否します。エレベーターを使わないということで、費用の負担をしなくてよいことになります。

ところが、スタンコヴィッチは、怪我をして車椅子生活になります。誰にも見られない深夜にエレベーターを利用し、近くの病院の自販機で食料を調達するようになりますが、ある日、同じ団地に住む看護師の女性に見つかり...。

同じ団地に住む鍵っ子の男子高校生のシャルリ。向かいの部屋に中年女性が引っ越してきます。彼女と話をすると女優だと分かり...。

やはり同じ団地に住むアルジェリア人の高齢の女性。団地の屋上に不時着したアメリカの宇宙飛行士が彼女の部屋に飛び込んできて...。

 

協調性がないというか、ケチというか、我が道を行くスタンコヴィッチですが、いきなり困った事態に陥ります。その状況への対処も、看護師と出会った時の見栄の張り方も、情けなく滑稽ですが、そうしたくなってしまう気持ちは分かる気もしますし、何とか看護師の気持ちを引き付けようとする姿は、健気で可愛らしくもあります。

 

女優も落ちぶれていく状況に精一杯抗おうとしている姿が哀しくもあり、その必死さが愛おしくも感じられます。そんな彼女のために頑張る高校生の甲斐甲斐しさもちょっと背伸びした大人っぽさが感じられて微笑ましかったです。

 

宇宙飛行士とアルジェリア人女性も、見も知らぬ言葉の通じない相手と必死にコミュニケーションを取ろうと努力している姿、相手の意思を受け取ろうとする姿勢に心温まるものが感じられます。

 

よく知らない他人のために無償で力を貸すとか、どこか巧く通じ合えないながらも懸命に相手を理解しようと努力するとか、異質なものを排除せず受け入れようとする感じが、本作の温かさを醸し出しているのでしょう。

 

時代設定も不思議。現代っぽい感じもあるのですが、PCやスマホは登場せず、VHSとかブラウン管TVとかが出てきたり...。

 

3つの物語が重なったり、交差したりすることはなく、バラバラに進み、無関係なままに終わってしまうので、カタルシスには欠けますし、宇宙飛行士の不時着なんて普通起こらないようなことが起こっている割に何も起きていない感じに包まれているし、傑出した感じはありません。けれど、一人エレベーター交換資金の提供を拒むスタンコヴィッチを排除しないとか、落ちぶれた女優を何くれとなく面倒見る高校生とか、言葉も通じない間柄の交流とか、異質なものを受け入れようとする温かさがじんわりと沁みてくる心地よさがありました、

 

不思議な感覚が呼び覚まされる印象的な作品。観ておいて損はないと思います。

 

 

公式サイト

http://www.asphalte-film.com/