朝日のあたる家 [DVD]/並樹史朗,斉藤とも子,平沢いずみ
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静岡県、湖西市。自然に囲まれた美しい町に住む平田一家は、いちご栽培をする父、俊夫、主婦の母、良江、大学生の長女、あかね、中学生の妹、舞の4人家族。あかねは、大きなショッピングセンターや映画館やコンサートホールがない町を好きになれず、卒業後は、都会で就職して一人暮らしすることを夢見ていました。そんな時、大きな地震が起こり、原子力発電所が爆発し避難勧告が出ます。1日で帰れると思っていましたが、何カ月も避難所から帰れません。俊夫は職を失い、良江はノイローゼ、舞は病気になってしまいます。ようやく許可された一時帰宅も1時間の制限付きで、荷物を取ってくることしか許可されず...。

原発の事故により、理不尽に故郷を奪われる。仕事も当たり前だった日常もすべてが奪われる。今も、福島原発の周辺に住んでいた人々は、その問題の渦中にあり、解決に向かう道のりはまだまだ闇。問題解決に向かうスケジュールさえ、はっきりしません。

伝えようとしていることは分かる気がします。確かに、まだまだ福島の原発の問題が解決にほど遠い状況であるにもかかわらず、既に人々の記憶の中から薄れつつあり、各地で原発を再稼働させようという動きが強化されています。そして、本当に万全な安全策がとられているのかどうかという点についても何とも心許ないものがあります。日本のような狭い国で、これ以上、人が住むのに危険な地域を作り続けるわけにはいかないと思いますし、福島の問題を人々の記憶にとどめ、少しでも問題解決に向けての歩みを進め、その経験を少しでも未来に生かせるようにするためには、語り続けていかなければならないことも確か。

ただ、それでも、原発を動かそうとする勢力が力を削がれないのは、やはり、そこに大きな利益が生まれるからなのでしょう。甘い汁を吸ってきた人たちが、そう簡単に金の生る木を手放すとは思えません。本作では、その点についても言及されていますが、それに対抗する手段として、"生まれ育った故郷を奪われる哀しみ"、"美しい自然が破壊される酷さ"など、感情に訴えても、あまり、効果は期待できないような気がするのです。少なくとも、"美しい自然"については、原発の事故後も維持されるわけですし...。そこに人間が住めないというだけで、故郷の風景は相変わらず美しいのです。

平田一家に、あまりに色々なことが凝縮され過ぎて不自然な感じがして、違和感もありますが、まぁ、便宜上、仕方ないところもあると思います。ただ、それよりも、強い違和感があったのは、被害にあった人々があまりに楽観的に見受けられること。福島より後のことなわけで、いくら世間的に福島の記憶が薄れているとはいえ、TVの情報を鵜呑みにできる状況ではないことは分かるはず。一応、ネットで検索とかしていますが、受け止め方が楽観的過ぎるというか...。"信じたいものしか信じられない"というのも分かるような気はしますが、それにしても、です。避難する際に"すぐ帰れる"と思えるものでしょうか。

出演陣についても、やたらと怒鳴っているだけという印象しか残りません。状況がセリフやナレーションで説明させる部分が多すぎて、映画というよりは紙芝居的な感じがします。本作の製作意図は頷けますし、こうした作品が上映されることは意義があると思うのですが、それだけに、あまりにもな内容が残念です。