劇団イキウメを率いる劇作家で演出家、前川知大の舞台劇を映画化した作品。舞台は見ていません。

バイオテロにより人口が激減した21世紀初頭の世界。ウイルスへの抗体を持った新しい人類が誕生。優れた知能と若く健康な肉体を誇る彼らは、自分たちをノクスと称して社会を支配していました。ただ、紫外線に耐えられず夜間しか活動できないことが弱点でした。一方、ウイルスの感染を免れた旧人類はキュリオと呼ばれ、ノクスから見下される存在になっていました。キュリオの青年、鉄彦(神木隆之介)はノクスに憧れ、ノクスになるための転換手術を受けることを夢見ていましたが、幼なじみの結はキュリオとして誇り高く生きていこうとしていました。鉄彦たちが住む村は、鉄彦の叔父がノクスの巡査を殺害した責任を問われ、経済制裁を受けていましたが...。

基本的な設定は、新鮮さがないとはいえ、悪くなかったと思います。けれど、どうも、作り込みが甘く、あちこち破綻しています。

太陽の光が苦手なら、防護服を作ればよいだけのこと。実際、中に入っていれば太陽の下でも大丈夫な寝袋はあるようですし、ちょっと形を改良して日中に活動できるようにすることなどわけもないことでしょう。森繁が太陽の光を浴びて苦しむ場面もありましたが、鉄彦も結もすぐに脱げる上着を着ていたのに、何故、それで森繁の手を包んでやろうともしなかったのか...。

それに、キュリオの人々の生活が悲惨なように言われていますが、実際はそうでもないような...。人口が大幅に減ったとか言っていますが、健康な生活を維持するための食べ物がないといった描写はありませんし、何かに特別に困っている様子も見られません。男たちは、かなり単細胞で直情的で乱暴な感じもしますが、特別に悪い人々とも思えません。彼らは、ちょっと昔の田舎にはあったような普通の生活をしているわけです。どうしてそれ程までに人口が減ったのか、どうもよく分かりません。

ウイルス問題にしても、ノクスは体内にウイルスを抱えて生きているという設定ということなのですよね。どうやら、キュリオがノクスの血液や体液に曝されると感染の恐れがあるということなのでしょう。森繁が吐いた血液に何人か触れたように見えたのですが、どうなったのでしょうか。一番、濃厚に接触した鉄彦の叔父は死んでいますが、ウイルスのせいではありませんし、他の人への影響とかはあっさりとスルーされて、はぐらかされた感じがしました。

"ノクスからの差し入れ"として彼らが喜んだものもウィスキーとか。生きるために必須のものではありません。嗜好品はなかったけれど、必要最小限のものにまで困っていたわけではないということでしょう。

ノクスの世界の設定も甘いです。彼らの生活を成り立たせている構造なども見えにくく、キュリオの人々が、何故、ノクスの世界を羨むことになるのか、よく分かりませんでした。ノクスの人々が特に幸せな感じもしませんでした。全体的に人間が薄っぺらいというか、穏やかというよりは感情が貧しいという感じで、何だかツマラナイ。

で、キュリオの人々、特に男性陣は、何かと怒鳴り、暴力を振るうだけ。仲間同士団結してノクスに対抗しようという気概もないようで、ノクスに支配されるのも仕方ない、というより、ノクスに管理してもらった方がきちんと生きられる人たちなようにすら思えてしまいます。

キュリオは幸せな人生を送るにはあまりに知性や自己統制力に欠け、ノクスは喜びを得るには感情が薄すぎるといったところでしょうか。

双方の世界の間を仕切るフェンスの警備もかなり緩いです。そもそも日中に活動できないノクスが一人で警備しているのですが、太陽の下でも平気で活動できるキュリオにとって、ここを越えることなど訳もないことでしょう。それをしないということは、キュリオの世界を抜け出ることに大した価値を感じないということ。四国に行った人たちも戻ってこれたわけですし、他の世界との行き来はそれほど難しくない様子。あの検問所が置かれている意味が分かりません。

結が何故、宗旨替えしたのかもよく分かりませんでした。あれだけ反発していた母親のこともすんなりと受け入れてしまうし...。

まぁ、原作の問題であれば仕方ありませんが、きちんと物語の世界を作り上げて欲しかった気がします。あちこち気になって、作品の世界に浸ることができませんでした。何だか、男性陣が、ギャーギャーと喚いて暴れているだけの作品になってしまったようで...。

結がノクスになった後の変化は良かったと思うのです。あきらかに上等な身なりになって、イイ生活をしている風なのに、人間としてはとても薄っぺらくなってしまった感じ。キュリオからノクスに"成り上がること"が本当に幸せなことなのかどうかを観る者に問いかける場面になっていて印象的でした。この部分をテーマにしているのだとは思うのですが、作り込みの甘さ、設定の不思議さ、心情の描き方の浅さなどがあり、何だかよく分からない焦点のぼやけた作品になってしまっています。残念です。


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